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「てことで、安高さんの孫の日向だ!今日から水軍で預かることになった、みんなよくしてやってくれ!」

わーっていうよりうおおおおって雄たけびが上がる。第三協栄丸さんの横で盃をもったわたしははははと乾いた笑いを漏らすしかできない。

「日向さんうちで預かることになったんだ〜嬉しいなあよろしくね〜」
「よ、義丸くん〜」
「あらら、なになに積極的だね〜」

わいのわいの賑わしい宴会の中、次々挨拶に来てくれる人々にやっと見知った顔が現れた。半泣きで縋りつけば義丸くんはにこにこっと笑う。

「お、」
「お?」
「男の人しかいない…」

きょとんとした義丸くん、そのあとあはははと大笑いする。

「そりゃね、水軍には女人はいないよ」
「そんなのきいてないぃ」
「船には女人を乗せられないからねぇ、水軍館に女人がいないのも当然だよ」

当然なのか、その前にすいぐんてなに?そう聞けば驚いた顔をする。

「日向さん兵庫水軍を知らないの?」
「兵庫?はしってるけど水軍ていうのはよくわからないな」

俺たちこの辺じゃ有名なのに…ちょっとショックを受けたらしい義丸くんは、けれどすぐ気を持ち直して水軍について説明してくれた。途中「海賊」なんて物騒なことも言うからちょっと驚いたけど、商船の警備とか水産業?を営んでるらしい。

「護衛とかするの?」
「そうだよ、この辺の海は穏やかだけど、もう少し外界に行けば賊もうようよいるからさ。俺たちが警備するってわけ」

なるほどねえ、海のガードマンってところかな。そしてこの水軍館は兵庫水軍のみなさんのお家なんだって。そのトップに君臨してるのが第三協栄丸さんというわけね。だからお頭なんだね。
にしても兵庫水軍知らないなんてほんと日向さんどこから来たの?なんて言われても苦笑いして首を傾げるしかできない、まさか600年後の未来ですよなんていくらお酒が入っていても言えなかった。いつのまにか敬語も取れた義丸くん、かちりと合わせた盃を煽る、でもあれ待って君ってまだ20歳には見えないんだけど。

「俺はもう元服してるもん」
「あ、元服…そうかあ」

昔は15歳で成人なんだったね。義丸君はじゃあまたね〜と行ってしまった、ああまた挨拶回りが始まる…。
かなり賑やかな宴会だ、男の人しかいないし声もテンションもかなりあげあげ。とりあえず一通り挨拶してきたわたしは一応主役のはずだけど隅っこの方でちびちびお酒を飲んでいた。宴会ね、現代でもそうだけど、名目なんてあってないようなもので飲めればいいんだ!ってところもあるよなあ。周りの方々は次々話しかけてくれるけど、酔っ払ってる上にその海賊業?の話が多くて内容を聞き取れない。困ったな。

「…あ」

明後日の方向に向けていた目が赤毛を捉える。舳丸くんだ。流石にお酒は飲んでないみたいだけど、小さい子達とご飯を食べている。へえ、大人だけじゃなくて小さい子もいるんだね。じっと見ているとそのうちの一人、黒髪の男の子と視線があった。あ、と思ったけれど、その男の子は何故かきっと目つきを鋭くして、舳丸くんの横にぴたりと寄り添った。え、なんだろう今のは。もしかして睨まれた?男の子は舳丸くんに何か訴える、すると立ち上がった舳丸くんは第三協栄丸さんのところへ。二言三言交わすと小さい子達を引き連れて部屋を出て行った。

「疾風さん、あの、舳丸くんたちは?」
「ん?ああ、部屋に戻ったんだろ。もう遅い時間だしなあ」

ちょうど近くにいた疾風さんに尋ねるとそう答えてくれた。舳丸くんは小さい子達の面倒を見てあげるんだって。舳丸くんだってまだ小学生くらいなのに、偉いなあ。にしてもさっきの黒髪の子はなんだったんだろう。

「黒髪?航か東南風か重か…」
「舳丸くんの隣にいた子なんですが」
「ああ、じゃあ重かね。あいつはみよが大好きだからなあ、さっきも聞かれたぞ、日向がみよを付け回してたのかってな」

なんだそれ。「一人前に嫉妬してんだよ重は、みよのことになるといつもそうだからなあ、ははは」と疾風さん笑っているけれどわたしにとっては笑い事じゃないぞ。付け回してたなんて誤解だし、そんな嫉妬される覚えもないよ。いくら相手が子どもでも、変な誤解を植え付けたままは良くない、早めに誤解を解いた方がいいな。

「あれ〜日向さんどこ行くの?」

立ち上がろうとしたらきゅっと手を握られた、そっちを見ればすっかり出来上がっている義丸くん。いつのまにか隣に、ていうか大丈夫かい、顔真っ赤だよ。

「えっと、そろそろお暇しようかなって」
「えーもう?まだ早いよ」

すすすと体を寄せてくる義丸くん、かなり酒臭いぞ。

「ねー俺お酌するからさあ、もうちょっと飲もうよ〜」
「いやもうわたしたくさん飲んだから、ありが」
「俺のお酒は飲めないっていうの?」

えっなんか目が潤んでる。お酌断っただけで?意外とメンタル弱いの?いくら酒の席って言っても年下の男の子泣かせるような趣味はないよ。反射的に盃を差し出してしまったのは仕方ないことなのだ。

「あっじゃあ最後にいただくね!ありがとう義丸くん!」
「うん飲んで飲んで〜」

そう言って並々注がれる清酒。溢れる手前、ぴったりで止められる。…あれ?義丸くん全然元気だし笑顔だよ。なんださっきのまさか演技か?

「はははは、日向さんちょろいね〜」
「な、なんですと」

やっぱり演技か。にしてもちょろいとはなんだ、わたし年上だぞ。ちょっと眉をしかめるものの意に介してない様子、逆に怒んないでよ〜と眉間を撫でられる。さっきから思ってたけど距離近いな。

「怒ってても可愛いけどね〜」
「ははは、どうも…」
「お酒強いの?あんまり酔ってないように見えるけど」
「そうでもないよ、たくさん飲めば酔っちゃうし」
「そうなんだ〜酔ってるところ見てみたいなあ」
「いやいや、そんな醜態見せられないよ」
「醜態なんかじゃないよ、可愛いんだろうなあ」
「そんなことないって」

笑いながらお酒を煽る、かっと喉が熱くなる感覚。このお酒相当強いよ。ふと義丸くんの視線を感じて顔を向ければぱちりと目が合う。同時にゆるりと弧を描く義丸くんの口元、あれ義丸くんって、こんな雰囲気、だっけ。と思っていたら急に義丸くんの顔が寄せられて、する、と手が絡む。え、ちょ、ちょっと待ってなに義丸くんどうしたのほんとうに。なんだか目がマジだよ。
慌てて体を引こうとするものの酒が回っているのか体がうまく動かない、というかがっちり掴まれた手を離してくれない。待ってこれよくない流れ、未成年とこんな怪しい雰囲気なんて徳を積むどころか犯罪犯すことになっちゃう。義丸くん本当に酔ってるの、目ぎらぎらしてるけど、まさか冗談だよね?なんてやってる場合にどんどん近く義丸くんのお顔、は、はは、じょ、じょうだんだよ、ね、なんてやってるではない、顔、顔が!ほんとに近い!!腕離れない、ちょ、だれか、ダレカタスケテ!!!

ガン!

「いってぇ!!」

もうだめだと目を瞑った瞬間、鈍い音。はっと目を開ければ頭を抱えてうずくまる義丸くん。その背後には、たしか鬼蜘蛛丸、くん?

「バカヨシこんなところで盛るな!」
「鬼さんひでぇ!もう少しだったのに!」

手が離れたことですかさず距離を取る。義丸くんを一喝した鬼蜘蛛丸くん、頭を摩りながら負けじと吠える義丸くん。いやいやどう考えても鬼蜘蛛丸くんに理があるぞ。

「すみません日向さん、こいつ酔っ払うと元々の女好きに拍車がかかるんです」
「なんだと〜?」
「先月も女絡みで痛い目見たばかりだろ
、自重しろ」
「ぐっ…それとこれとは違うだろ」
「同じだろ、大体なあ…」

なんと、女の子慣れしてるんだろうなとは思ったけど相当らしい。義丸くん、鬼蜘蛛丸くんの説教を口を曲げながらも大人しくきいている、というかぐうの音も出ない感じだ。

「ちぇっ、いいとこだったのに」
「ヨシ!」
「嘘だよ、ごめん日向さん、やりすぎた」

ぺこりと素直に頭を下げる義丸くん、さっきまでのおらおらが嘘のようにしおらしく、しょんぼりしている。か、かわいい、怒られた子犬って感じだ。これにやられちゃう女の人も多いのではないか。大人のお姉さんに甘える方法も身につけているとはやっぱり義丸くん侮れないなあ。じゃなくて、まあそれもこれも若気の至りというやつでしょう。男の子だしそれくらいの歳なのだ、ここは大人の余裕ってことで大目に見ておこう。

「は、はは、お酒入ってたしね。大丈夫気にしてないよ」
「ひ、日向さんやさし〜」
「ははは…」

それでもやっぱり自分よりかなり年下の男の子にそういう意味で翻弄されたってへこむな。たぶん義丸くんが女の人慣れしてるのもあるんだろうけど、これ以上何かされる前にさっさと戻ろう。立ち上がると義丸くんが悲しそうな目をしたけどもう効かないよ、わたしは寝ます、おやすみなさい。第三協栄丸さんに挨拶して離れに向かう。途中、どこかからか子ども達の笑い声が聞こえた。舳丸くん達かなあ、良い子は早く寝るんだぞ。そして健全に成長してくれ、お酒の勢いで女の人を襲ったりしないような男になってくれよな。

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