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なんやかんや水軍館にお世話になることになったものの、ただ飯ぐらいになるわけにもいかないので何かしらお手伝いさせていただきたい。徳を積まないとお地蔵さんも願いを叶えてくれないだろうし、いいことたくさんすれば未来に返してもらえるって解釈してるんだけどこれあってるよね?なんにせよ一日中部屋でぼーっとしていることもできない。お手伝いを申し出たところ、洗濯掃除その他諸々、結構頼まれて忙しい。
義丸くんなんかはお客さんなんだからゆっくりしてればいいのに、なんて言うけどこうして動いてた方が性に合っている。洗濯物を洗って、干して、空いた時間で館のお掃除。たまに買い出しなんかも頼まれることがある、その時はまだ町までの道がわからないので誰かに付き添ってもらうことになるんだけど、

「舳丸くん、よろしくね」
「行きましょう」

高確率で舳丸くんなんだな、なぜか。若い人が雑用担当っていうのはわかるんだけど、なぜ買い出しだと毎回舳丸くんなんだろうか。今日も今日とて先を歩いていく舳丸くん、無駄遣いも寄り道もしないからとかそんなところかなあ。

「…い、いい天気だねー」
「そうですね」
「…あ、鶯だ!」
「あれは目白です」
「…わっくま!?」
「狸です」
「…え、あ、はは…み、舳丸くんったら冷静ね」

静かな道がさらに静かになった気がする。買い出しのときはいつもこうだ。
無駄に口数が多く、ハイテンションなわたしに対して、真面目な返し、必要最低限の会話の舳丸くん。舳丸くんの性格もあるだろうけど、本当に会話が弾まない。重い空気とか会話のない二人きりとか気まずいものが苦手なわたしにとったら結構な苦行である。初めてあった時も舳丸くんかなり反応悪かったしなぁ、初対面で警戒してたっていうのもあっただろうけど、今もなおあの時と同じような気まずさがあるよ。とりあえず話しかけるけど全然会話が続かない、ちょっと冗談とか言ってみたりしても舳丸くん無反応、お姉さん泣いちゃう。

「まず樽屋に行きましょう」
「あ、あいあい…」

町に着く頃には気を使いすぎて半分死にかけている、ものの買い出しは町に来てからが本番だ。効率よくお店を回って必要なものを注文していく舳丸くん、さすがですね。わたしなんかただ後をついて回るだけ、お金も舳丸くんが管理してるからね。本当になにしに来てるんだろうか、ただのお散歩って感じだよ。
舳丸くんも薄々感じているのか、ちょっと量が多いのでこっちの買出しを頼みます、と持ってたメモを千切って渡される。目を落とすと、味噌。味噌だけかいな。舳丸くんはお金を渡すとお願いします、と頭を下げてさっさと行ってしまった。はあ、気を遣われてしまったよ。
舳丸くん、13、くらいなんだったかな。もうちょっと子どもらしくてもバチなんか当たらないだろうに、どうしてあんなにできた子なんでしょう。

「おー日向さん、よく来たな!」
「こんにちはー」
「おつかいかい?」

思考を巡らせていてもしょうがないので大人しく味噌屋に向かう。ここのおじさんは馴染みの舳丸くんはもちろん新顔のわたしにも気さくに話しかけてくれる、このコミュ力の十分の一でもわたしに備わってればもうちょっと舳丸くんと楽しい会話ができるのだろうか。注文しながら無意識のうちにため息をついた。

「どうした日向さん元気ねぇな!」
「あ、イヤ、ハハハ、元気ですよ」
「そうかい?悩みがあるなら話してみなぁ」

おじさん、舳丸くんと馴染みだしなあ、ちょっと話してみてもいいかもなあ。ということで舳丸くんと会話が続かないというか、接し方がわからず困っているということをなんとなく伝えてみた。

「そりゃあお前ら、お互い壁を作ってんだよ。日向さんが一歩踏み出してやれば舳も心を開いてくれるんじゃねぇか?」

一歩踏み出す、かあ。言われてみればわたしも道中の会話とか舳丸くんに気を遣いまくってるし、それが却ってよくないのかな?馴れ馴れしくされるのは舳丸くんも嫌だと思うけど、あくまでフレンドリーに。義丸くんとかとはわたしも普通に話せるんだ。もうちょっと気さくな感じで、壁を作らず話しかけてみよう。
お礼と代金を渡してから舳丸くんを探す。どこのお店にいるんだろう、お使いリスト、ほかになにがあったっけ…あ、いた。
前方に赤い髪を発見。注文するでもなくなんでかただ立ち止まっている、なんのお店だろうあそこは。近づいていくとそこがお茶屋さんということがわかった、みんなお団子だったりお饅頭だったりを幸せそうな顔で食べている。それをちょっと離れたところで見ている舳丸くん。心なしか目がキラキラしてるような。………食べたいのかな?

「舳丸くん」
「!…日向さん」

隣に来ても気づかない様子だったので声をかけたらぴくっと肩が反応した。驚いてる。

「味噌、注文して来たよ」
「あ…ありがとうございます。おれの方も終わったので、帰りましょう」

そう言ってお茶屋さんには目もくれず歩き出した舳丸くん。

「え、いいの?」
「はい?」
「あ、あの…」

振り返った舳丸くん、なんですか?って不審な目になにも言えない。たしかにお団子なんてお使いリストにないし、買い出しが終わったらまっすぐ帰るのが舳丸くんと買い出しに行くときのいつもの決まりだ。でもなあ、さっきの舳丸くんの様子だとお団子食べたがってるようにしか見えなかったんだけどなあ。
ええい、おじさんに一歩踏み出して見ろって言われたばかりだ、ここはわたしのわがままって体にすればいいでしょう!

「お団子、食べていかない?」

舳丸くんの目がぱちりと瞬く。一瞬その目がさっきお団子を見てたときみたいにきらきらっとしたのを見逃さなかったわたしはもう必死だった。

「お、お腹すいたし!ほら、ね、ここのお団子おいしそうじゃない?」
「…無駄遣いはするなと兄貴に言われてます」
「わたし払うから!わたしのお金なら無駄遣いじゃないし、それなら問題ないよね!」

雀の涙だけど、お手伝いしてもらったお金がある。持って来ておいてよかった。舳丸くんの目はきらきら(当社比)してるけど、まだ納得していないらしい、寄り道はよくないとか払ってもらうわけにはとか言ってる、でもこうなったらわたしも譲らないぞ、そこをなんとか!なんとか!と頼み込めばやがて舳丸くんがため息をついた。

「…わかりました」

表情は変わらない、でもちょっとだけ声のトーンが明るくなった舳丸くんにわたしは不思議なくらい嬉しくなった。

「や、やった、じゃあいこ!」
「…そんなに団子食べたいんですか?」
「うん!舳丸くんと食べられて嬉しいよ!」
「…そうですか」

弾む足取りでお茶屋さんへ入る。運ばれて来たお団子を頬張りながら、わたしはなんだか舳丸くんとかつてないほど弾んだ会話ができた気がする。

「舳丸くんもお団子好き?」
「嫌いではないです」

そう言いながらも目が輝いているよ。真面目でストイックな子だとばかり思ってたけど、年相応なところもあるんだなあ。
今まで気を遣いすぎてこんな風に気軽に会話したことなかったけど、うん、なんだか舳丸くんと仲良くなれそう、かな!

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