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「日向さーん」

名前を呼ばれて振り返る、と、義丸くんがニコニコしながら駆け寄ってきた。

「買い出し一緒に行こう」
「わたしと?」
「うんそう」
「でもわたしまだ洗濯途中で」
「帰ってきたら俺も手伝うから」

ねっと手を引く義丸くん。そのままぐいぐい引っ張られて門の外まで連れて行かれる、なんだか強引だな、どうかしたのかな。あとは干した着物を取り込むだけだし、まあ買い出しくらいお付き合いしてもいいか、そう思って歩き出した時、

「ひなたー!!!!」
「ん?」
「げっ…」

元気な声が飛んできた。義丸くん今げって言った?なんて思いながら振り返ると猛烈な勢いで走ってくるのは重くんだ、完全に風邪から回復して元気に館を走り回っているけれど、そんな重くんはあっという間にわたし達のところにやってくるとがっしぃとわたしの足にしがみついた。

「どこいくの?」
「お買い物。町まで行ってくるよ」
「重もいく!」
「だめだめ、重は舳丸に遊んでもらってろ」
「みよにぃはおよぎにいっちゃったもん」
「じゃあ他の兄貴に遊んでもらえよ」
「やだ。よしにぃずるい!」
「なにがずるいんだよ」
「重もひなたとあそぶ!」
「んなこといってお前ここ最近日向さんにくっつきっぱなしだったろ。今日は兄貴に譲ってくれよ」
「ひなたは重のこぶんだもん!」
「たまにゃ貸してくれたっていいだろ」

子分てところは否定されないのね。いいけどね。
確かに最近はちっちゃい子達に取り囲まれてたなあ、昔話とか簡単なゲームとかやってあげてたからかなあ。重くんは比べるまでもなく舳丸くんにべったりしてる時間の方が何倍も多かったように思うけれど、一緒にいる時間もたしかに前よりは多かったね。義丸くんたち兄貴分は仕事もあるしいつもは遊んでられないけれど、だからわざわざ買い出しに誘ってくれたのかな?

「そうそう、だから重に邪魔されたら意味ないんだよ」

ほれ間切たちと遊んでこいと背中を押すものの重くん頑として動かず。掴まれたわたしの足が心なしかミシミシいってる気がする。

「しげもいくぅぅぅ」
「いたたたたたたた」
「おい重いい加減にしろ日向さんの足が折れる」
「しげもいくのぉぉぉ!」

すごい駄々っ子である。剥がそうにも剥がれない。

「だーもうわかったわかった。だから離れろって日向さん痛がってるだろ」
「ほんと?いっていいの?」
「ほんとだ。だから離れろ」
「うん」

ぱっと呆気なく離れる重くん。ニッコニコ顔で手を繋がれる。なんやねんこの変わり身の早さは…義丸くんも頭を抱えてごめんねと謝ってくれるけど、ううん、重くんの頑なさはなかなかのものだもんね、身を以て知ってるしお気になさらず。
水軍の人たちはちっちゃい子でも海の男として甘やかさない!ってしてるそうだけど、やっぱり可愛いしどうしても絆されちゃうところがあるみたいだ。かくいうわたしも厳しくなんてできないけど。

「ひなたみてみて!はな!」
「あ、ほんとだ。綺麗だね」
「みよにぃにおみやげにする!」
「舳丸くん喜ぶねー」
「うん!」

ほらだってこんなにかわいい。摘んだ花を手に持ってにこにこしている、しかもお兄ちゃんのためってところがまたいじらしい。あちこちきょろきょろする重くんに乗り気じゃなかった義丸くんもなんだかんだ笑いながら面倒見てくれてる。義丸くんもいいお兄ちゃんだなあ。

「すみませーん、これとこれと」
「義丸くん、これもだよね」
「あ、そうそう。これもお願いします」
「重にんじんきらい…」
「好き嫌いしてると立派な海の男になれないぞー」
「うー」

町につき次第お買い物開始。八百屋さんでいくつか野菜を購入。籠に入れてもらっていると、ふと店主のおばあさんがこっちを見てにこにこと笑った。

「?なにか…?」
「ふふ、可愛らしいお子さんだねぇ」
「えっ」
「仲の良いご家族で羨ましいわあ」

おこさん?かぞく?

「は、ははは、何をおっしゃるんですか〜ねえ義丸くん」
「ははは、ありがとうございます。自慢の妻と息子なんですよ」
「そうなんですよ〜ただの自慢の妻と…は?」
「あらぁ惚気ちゃって。あんたもいい男を旦那をもらったねぇ」
「だんな?!」
「日向さんも良い嫁だよ」
「よめ!?」
「ねー重は?重は?」
「重はおれたちの可愛い息子だよ」
「ふふふ、本当に仲のいい家族だこと。どうだいぼうや、柿食べるかい」
「たべるっ!ありがと!!」

わたしたちいつのまに夫婦になってたの、そのうえ重くんが子ども?はははあり得ないですから。なんて笑っていたら義丸くんがノリ出した、何を言っているんだ。その後も嫁(虚偽)自慢している義丸くんたち、おまけにもたせてもらった柿にかぶりついてる重くん、冗談だってことはわかってるけどいたたまれなくなって籠をもらうなり早々にそこを後にした。

「日向さん待ってよ」

義丸くんが笑いながら追いかけてくる。

「嘘つく人は嫌い」
「他愛ない冗談だよ、そんな怒んないで」
「義丸くん、その冗談で何人女の子落としたの」
「え」

途端に目が泳ぐ。目は口ほどに物を言うってこういうことね。

「さっきの話を聞いてた町の女の子が冗談を間に受けてわたしを刺したりしたら義丸くんのせいだからね」
「えー、そんなことないって」
「あるよ現に野菜屋さんにいた女の子の視線すごかったよ」
「エッ…」
「見覚えない子?」
「あー…えーっと…」

やれやれ義丸くん、本当に末恐ろしいなあ。まあ冗談なんだけど、実際周りにいた女の人の視線はかなり穏やかじゃなかったからね、聞いたところによると義丸くん町の女の子に人気だそうだし、それで揉め事も起こったりしたらしいし、わたしも下手なこと言われて町に来にくくなるなんて御免ですよ。

「ははは、まあまあ、冗談じゃなくなるかもしれないじゃん」

痛いとこついて怯むかと思ったけど全然そんなことなかった。相変わらずの軽口だ、むしろ尊敬しちゃうぞ。やれやれと肩をすくめてわたしもちょっと口元を緩める。

「で、あとは何買うんだっけ?」
「メモは重くんが…あれ?」

振り返るとさっきまで柿を食べてたはずの重くんがいない。慌てて辺りを見回す。ざわざわ賑やかな通りにも、先ほどの八百屋さんに戻っても重くんの姿はない。

「どこいったんだ重のやつ」
「とにかく探そう」

水軍馴染みの町だから重くんの顔を見知ってる人も多いはず。お店の人にも尋ねながらしばらく探すけれど見当たらない。ラチがあかないので二手に分かれて探すことにする。

「大丈夫だと思うけど、万一何かあったらすぐ助けを呼んでくれ」
「う、うん…わかった」
「四半刻したらまたここで」

しげくーんと声をかけながら東の方を探す。どこ行ったんだろう、小さいしあちこち行っちゃうのはわかるけどこんなふうに突然いなくなることなんてなかったのに。なんだかいやな予感がして足を早める。町のはずれまで来たけど、いない。道を引き返そうとしたとき、ふいに聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。

「重くん?」

咄嗟に声のした民家を覗くと、そこには複数の男の人と重くんの姿。わたしと目があった重くんははっとこちらに抜け出そうとするけれど、それを男の人が引き止める。

「ひなたっ」
「重くん」
「んー?お姉さんこいつの身内か?」
「そうです、重くんを返していただけますか」
「返してって言われてもなあ、無礼を働いたのはこの餓鬼だぜ?」

こんと重くんの頭を小突いた男の人、なんだか嫌な笑みを浮かべている。またあからさまな。

「重なにもしてないっ!」
「人ん家の柿を盗んどいてよく言うぜ」
「かきはやおやでもらったんだ!」
「盗人のくせに、おまけに嘘つきときたもんだ」
「うそじゃないっ!!」
「柿は本当にもらったものなんです。嘘じゃありません」

ちらりと男の人がこっちを見る。気付いた時には別の男の人が土間の入り口に立っていて、退路を塞がれていた。お約束の展開だ、何かあったら助けを呼べって言われてたけどここ町のはずれだし、そんな簡単に助けを呼ばせてはくれなさそうだ。

「じゃあその八百屋とやらに確かめてこようかね」
「あっちょっと!」

まだ合図するといかにもカタギじゃないですよって雰囲気の男の人が出て行こうとする。あのおばあさんのところにこんな人を行かせたら何をしでかすかわからない。反射的に引き止めるとリーダー格の男の人がにやにやしながら近づいてきた。

「ん〜?どうしたんだ?やっぱりお姉さんも嘘つきなのか?」
「柿をもらったのは本当です。でも八百屋さんには変なことをしないでください」
「変なことってなあどんなことだい」
「いいかげんにしろっ!重もひなたもうそなんかついてない!うそつきはおまえらだろー!!」

痺れを切らした重くんがわーっと叫び出す。掴まれていた腕を振り払ってこっちに走ってこようとするところをまた押さえつけられ、ますます重くんが喚き立てる。

「はなせー!!!」
「うるせぇぞこの餓鬼!」
「わ…!」
「重くん!」

重くんを抑えていた男の人が腕を振り上げる。咄嗟に足が動いて、重くんを抱きしめるのと、背中に重い痛みが走るのは同時だった。なんとか片膝をついて倒れそうになるのを堪えるけど、相当痛い。蹲ったわたしの胸元で重くんが「ひなたっ」って支えてくれる。その背後でまたリーダー格の人が笑う。

「おいおい、女が無茶するなよ」
「っ…さいてい、ゴミ、カス、下衆!」
「はっはっは、元気な口だな」
「ハゲ、デブ、不潔、ウジ虫!!!」
「言いすぎだ!!…も、元はと言えばあんたのガキが盗みを働くからいけないんだろう?」
「だからっしげはぬすんだりしないっ!」

ほとんど泣き声で重くんが吼えたてる。

「し、重くん、大丈夫?」
「しげはへいき。ひなたこそっ」
「わたしも、大丈夫…だよ」

かなり痛いんだけど、そんなこと言ったら重くんいよいよ泣いちゃう気がして無理やり笑顔を作った。重くんは怪我もなさそうだ、よかった。大方この人たちにいちゃもんつけられて連れてこられたって感じなんだろう、ごめんね怖い目に合わせてしまって。

「で、お姉さんまさかこのまま帰してもらえるなんて思ってないよな?」
「な、なに…?」
「きっちりお礼してくれるよなあ」
「わっ」
「あっひなたっ!!」

ぐいっと引っ張られて男に羽交い締めにされる。さっと血の気が引いた。嘘だろこんな展開ありえない。慌てて抵抗するけど背中の痛みで思うように腕を動かせない。がしりと顎を掴まれる、不快でしかない。

「口は悪いが器量はいいな。廓に売ればいい金になりそうだ」
「っ…」
「その前にたっぷりお礼してもらわないとな」
「ちょ、やめて!」
「恨むならあのガキを恨むんだな」
「このっ…」

着物の袷に手が伸ばされる、くそ触ってみろその瞬間あんたの股間蹴り上げてやるからな!!若干足を引いたそのとき、がんっと鈍い音と重いものが地面に落ちる音。入り口の方だ。正面に立つ男で見えないけれど、誰かが倒れたのはわかった。そして誰が倒したのかも、続く重くんの声ですぐわかった。

「よしにいっ!」
「なんだてめぇ?」

着物に伸びていた手が下される。内心胸を撫で下ろして男の向こうにいる人、義丸くんを見る。逆光、表情全く見えないけど穏やかな雰囲気ではない、ということはよくわかる。義丸くんは押さえつけられてるわたしと重くんを一瞥すると、ゆっくり中へと足を踏み入れた。

「…なにしてんだ、あんたら?」

びりっと何かが肌を走った。さ、殺気ってやつ…?いつもの朗らかな声とはまるで違う、聞いたことないような低い声にぞくりと肌が粟立つ。

「あぁ?見ての通りお楽しみだよ、てめぇに邪魔される筋合いはねぇな」
「そこの二人は俺の家族だ」
「はっ家族だ?てめぇもこいつら嘘つきの身内ってわけか」
「うそつきじゃないっていってるだろ!」

再度吠える重くんの頭を男が床に叩きつけた。ごんっと鈍い音がしたのと重くんのうめき声。ぴたりと義丸くんの足が止まる。

「…おい、そこの。重と日向さんから手を離せ」
「何ぬかしやがる、おれたちはこれからお楽しみなんだ」
「手を離せって言ってんだよ」
「…ああ?邪魔しようってか?」
「邪魔はてめぇらだろうが」

ざわりと雰囲気が揺らめく。義丸くんの周りを数人の男が囲む、けど義丸くんは全く動じない。

「まあまあお前ら、そう殺気立つな」
「…てめぇが頭領か?」
「ああそうだ、おめえ若いくせに随分といい目をするな」
「…」
「よくもおれの可愛い子分を伸してくれたな。おめおめ返すわけにもいかねぇが、あいつが油断してのもいけねぇ。俺は器のでかい男だからな」
「…で?」
「この女と子どもを置いてけ。そしたらお前は見逃してやってもいいぜ」

わたしも重くんも義丸くんを見つめる。まさか見捨てるなんてするわけない、けど、この人数じゃ、義丸くん一人では…。黙ってきいていた義丸くんはやがてふっと笑った。

「家族に手を出されといてよ、てめぇが尻尾巻いて逃げると思ってんのか」
「ほう、逃げねぇのか」
「生憎とそんな風には育てられてねぇよ」
「そうか、残念だ」

じゃあてめぇをやっちまった後ゆっくり楽しむかね、言うなり男たちがざっと構える。やっちまえってお決まりのセリフでまさに乱闘開始。うおおおおって雄叫び、人が人を殴る音。怖くて見てられない、でも義丸くんひょいひょい殴打を避けては器用に男達を伸していく。最初はにやにやしなごら見てた頭領(?)の表情もだんだん険しくなっていく。と、義丸くんの背後から角材を持った男の人が近づく、義丸くん気づいてない?慌てて知らせるけど一瞬反応が遅れて、殴られるっ…て、その時、

「ぶっ」
「やめろばかーーっ!!!」
「重!」

べしゃっと男の顔面に柿がぶつけられた。そっちを見るといつのまにか拘束を抜けた重くんが柿を抱えて逃げ回っている。ナイスコントロールだ、柿はもったいないけど確実に男たちを翻弄してるし、そこを的確に義丸くんがのしていく。そうして気付いた時にはみんな地面に倒れていて、立ってるのはわたしを拘束してる男と頭領と義丸くんと重くん。

「くっこの…!」

焦った頭領がおなじみの台詞で懐から小刀を取り出す。それを喉元に突きつけるというこれまたお馴染みのシチュエーション。笑ってられないけど。思わず動きを止めた義丸くんを見て頭領がニヤリと笑った。

「いいか、少しでも動いたらこの女殺すぞ」
「てめぇ…」
「おっと動くなよ手元が狂うぞ」

ひたりと当てられた感触に震えが走った。まさかこんな状況生きてるうちに遭遇するなんて、どうすればいいの。まさか一触即発、睨み合いが続く、…て、ちょっと、ちょっと待って、なんか鼻ムズムズする、だめ、今は、今はダメだって。

「…へっ」
「あ?」

だ、だめ、無理我慢できない。

「へっくしょんあいたっ」
「あ」
「あ?」

くしゃみの反動で体が揺れる、と同時に首元の刀が皮膚を裂いたらしい、ぢくりと嫌な痛みが走った。思わず声を漏らせばざわりと今まで一番強い殺気。

「てめぇ…」
「い、今のは違う!この女が勝手に!」
「俺の家族に、女に傷をつけたな…?」
「そ、そ、それはこいつが!」
「…死ぬ覚悟、できてんだろうな」
「…あっ」


そこからはもう圧倒的だった。慌てふためく頭領に一瞬で間を詰めた義丸くん、顔面に1発。それからわたしを拘束してた男にも容赦ない一撃。解放されたわたしに重くんが抱きつく。振り返るとまだ男を殴り続ける義丸くん。どうすることもできず、騒ぎを聞きつけた町の人が来て義丸くんを落ち着かせるまでその制裁は続いた。






「…日向さんほんとうにごめんなさい」
「大丈夫、ちょっと切れただけだし。そんなに痛くないよ」

館で治療を受けて首元と背中に軟膏と包帯をしてもらっているわたし、その前で土下座し続ける義丸くん。なお義丸くんは無傷だったそう。海の男強い。
治療を終えてよしこれでいいぞと疾風さんが景気良く背中を叩いた。

「いったああああああ」
「おっとわりぃわりぃ。つい叩いちまった」

殺す気ですか?うぐぐぐと痛みに悶えているとさらに背中に衝撃。なにごと?

「ひなたー!!だいじょうぶ!?」
「し、しげくん、どいて…」

背中にのしかかったのは重くん。子どもの重みと勢いって凶器になりうるんだね。昇天しかけたよ。

「重どいてやれ、そこ患部だぞ」
「ひなたあ死なないで!」
「死なない死なない、だからどいて」

舳丸くんが重くんをどかしてくれた。はあー死ぬかと思ったよ一瞬三途の川が見えたよ。義丸くんのとなりに正座した重くん、珍しくおどおどした顔。

「ごめんねひなた」
「大丈夫大丈夫。重くんこそ怖い目に合わせちゃってごめんね」
「重は…へいき。ひなたがいてくれたからこわくなかったよ」

くう、かわいい。

「ヨシ、賊はきっちりしめてやったんだろうな」
「もちろんですよ」

にこりと笑う義丸くんが怖い。疾風さんも舳丸くんもそれならいいんだと頷いている。水軍ではこういうことって日常茶飯事なのか。

「にしても女に手ェあげるとは男の風上にもおけねぇやつらだな」
「日向さんごめん、俺がついていながら」
「そんなことないってば。義丸くんが来てくれなかったらわたしも重くんも大変な目にあってたよ。助けてくれてありがとう」
「日向さん…」

いや本当に義丸くんがきてくれなかったら大変なことになってたよ考えたくないけど。背中の傷はともかく首の方はわたしが自分でつけたようなものだし。だからそんな謝らなくて大丈夫だよって言えば、義丸くんじーんとした様子で私の手を取ってくれた。

「日向さん」
「ん?」
「責任はとるから」
「責任?」
「俺が一生面倒みるよ」
「はっ?いやそんな大袈裟な」
「女子をきずものにしちまったんだ。俺が責任持って娶るから」

きずものて。ちょっと皮膚裂けたくらいだし明日にはかさぶたになってるくらいの傷だよ。それくらいの傷で責任とって嫁にするって、むしろそっちのが後味悪いぞ。

「ははは、だから大袈裟だってば、ねえ疾風さん」
「姉さん女房か、いいじゃねぇか」
「エ…疾風さん?」
「義丸の女房役には年上の女が似合うと思ってたんだ」
「いやいや何をおっしゃるんですか。そういうことじゃなくて」
「なんだ義丸じゃ不満か?」
「だからそうじゃなくてですね」
「日向さん、体の傷も心の傷も一緒に治していこうな」
「義丸くんも一回冷静になろう、こんな傷明日には治るよ、それを結婚て話が飛躍しすぎだよ」
「日向さんが姉御になるんですか」
「舳丸くん?君も何言ってるの?」
「あねご?」
「重くんも変なこと言わないの」
「ヨシ、ちゃんと幸せにしてやれよ」
「勿論です」
「ねえお願いだからちょっと待って」

冗談なのか本気なのか。いやにやにやしてる疾風さんはたぶんからかってるんだけど、義丸くんと重くんはかなり本気っぽい。お頭に報告しなきゃとか重の子分なのにあねご?とか言ってる。いや重くんに関しては結婚て状況よくわかってない節もあるけど。町で言われた幸せ家族計画が実現しそうな予感…?いやだからそんなのありえないですから。
舳丸くんはいつも通りの無表情。かと思いきや、

「日向さん、義丸の兄貴は浮気するんで考え直したほうがいいですよ」
「あってめ舳丸!」

苦言を呈された。ごもっともな指摘である。だからそもそも結婚なんて考えてないけどね。

「余計なことを言うんじゃねぇよ」
「兄貴たちが買い出し行ってる間にも浜の乙女子が兄貴を訪ねてきましたよ」
「え、どの子?」
「橋のところの」
「あーあいつか。最近会ってなかったからなあ」
「肩を落として帰って行きました」
「あとで顔見せてやっかな…」
「日向さん、聞いたでしょう。義丸の兄貴はやめておいた方がいいです」
「あっこら舳!誘導尋問するな!」

…今のは引っかかる方もどうかと思うけど、うん、やっぱり結婚はないな。義丸くん助けてくれた時、すごくカッコよかったけど、誰にでも弱点というか、欠点はあるものなんだなあ。

「とりあえず義丸くんに責任なんてないから。本当に気にしないでね」
「でも歳食った後その傷が原因で結婚できなかったって言われても俺どうしようもないよ」
「う、うん…言わないから大丈夫だよ」

結構心えぐること言ってくるね、それは傷が原因というより私自身の諸々に原因がある事で起こりうる未来だと思うけど。なにはともあれ一回り歳が離れた男の子と結婚なんてわたしにはできませんよ。
わたしよりいい子もたくさんいるし、ちゃんとした人を見つけるんだよと言えばわかったと頷いた後義丸くんはいそいそと例の橋の女の子のところへ出かけて行った。と思いきや、商家近くの女の子のところへ向かったのを見たという目撃証言が。素直に助言を聞き入れるいい子だと思ったけど人間そう簡単には変われないようだ。

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