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新しく米屋が町にできたらしい。へーっと聞いていたら何してんだ行くぞと蜉蝣さんに背を叩かれた。え?と頭に疑問符をつけるとなぜか皆さん出かける準備をしている。

「お米、買うんですか?」
「餅が撒かれるだろ」
「ああ、オープン記念とかで」

よく見るよね、新装開店!とかリニューアル!とかでお餅やお菓子を捲く光景。あれかーと頷いていればぐいと手を引かれた。見れば重くん、なにやら巾着袋を持っている。

「これにいれるんだ、もち!」
「しげくんもいくの?」
「あにきたちもみんないくぞ!」
「みんなで取りに行くの?」
「そう!しげはいそべときなことくるみがすき!」

にこにこしながらほっぺを抑える重くん、控えめに言ってかわいい。そっかーじゃあ一緒に行こうと手を引いて、町へ向かう。ぞろぞろとやってくる海の男達に町の人たちも若干引き気味だけど、みなさんお餅が好きらしい。たしかにおいしいよね、おもち。醤油で、とか、くるみ味噌で、とか、話しながら歩いて行くと件の米屋さんの前は既にかなりの人だかりができていた。ぎゅむぎゅむと押しつぶされそうになっている。

「重くん、大丈夫?」
「へーき!もちたくさんとるぞー!」

たくましいなあ。がんばろうねーなんて言ってるうちに餅が撒かれ始めた。うおおおなんて野太い声は10割10分水軍の人達のものだろう。わたしと重くんも一生懸命手を伸ばす。ばらばらっと撒かれるお餅、わーわーと強まる喧騒、徐々に押し合う力が強くなって、不意に重くんと繋いでいた手が離れる。慌てて繋ぎ直せばあまりの人混みに餅をとるどころではなく、一旦人混みの外に出ようとぐいと手を引いた。わいのわいのとどこまでも続く人混みをかき分けかき分け、なんとか喧騒の外に出たころにはすっかり息が上がっていた。

「はあ、はあ、重くん、大丈夫………………誰」

振り向いた先にいたのは全然知らない男の人。ぽかんと口を開けると男の人も首をかしげる。

「君こそ」
「わたしはただの…って重くん?しげくーーん!」

慌てて手を離して人混みに戻ろうとする、と、あれ、なぜか動けない。前に進めない。振り返れば男の人はがっちりと私の手を握りしめたまま。なにしてるんですか?

「あの、離してください」
「どうして?」
「どうしてって、いや、わたし人を探さないと」
「私を勝手に連れて来たのは君だろう」
「間違えたんです、すみません」

だから離してと手をブンブン振るけどがっちり掴まれた手は離れる気配まるでなし。なんだこれ。なんか変な人を引っ張ってきてしまった?というか黙ってついてくるのも意味がわからない、なんで抵抗なり声かけるなりしなかったんですか!と半ば八つ当たりに近い気持ちでいると男の人は面白そうに笑った。

「いや、誘ってくれてるなら乗らないわけにはいかないなあと思ってね」
「何言って…って心読まないでください!?」

こわっ心の中読まれたよなんなのこの人?誘うって何、こんな真昼間の往来で何口走ってるのこの人。なんだか自分の身が危ない気がしてきて慌てて距離を取ろうとするけどやっぱり手は繋がったまま。いい加減離してほしい。

「にしても、私の手をなんなく掴むなんて、君、なかなかやるね」
「だから誤解です、人違いです、謝りますから離してください」
「ただじゃ嫌だなぁ」

いい大人が何言ってるんだ。にやにやと楽しそうに笑っている男の人はしっかりと手を握ったまま、何かしらの見返りを寄越せという。ただ手を掴まれただけで、心狭いというか図太いというか。私はただ餅まき参加してただけなのに、なぜこうなった…。

「私何も持ってないですよ」

開き直るつもりで手を広げてみせるが生憎重くんの巾着袋しか持っていない。男の人は繋いでいない方の手を顎に当ててふむ、と考えるそぶりを見せたけど、すぐいやらしい笑みを浮かべた。

「じゃあ、君の体で」
「おっおまわりさーーん!!」

変態が、変態がいる!この時代きてからなんだかんだ優しくていい人にしか出会ってなかったけど、どの時代にも頭おかしい人はいるものだ。いままさにその頭おかしい人に捕まっている状態であるというのは全く笑えないけど、この時代にいるはずないお巡りさんを呼んでしまうくらいには身の危険を感じていた。危ない、この人本当に危ない人だ。

「こらこら、大きい声出さないの」
「おとうさーーん!おかあさーーーん!!」
「ちょっと」
「きょうえいまるさーん!!だれかー!!」
「おーい私の声聞こえてる?」

冗談だってーなんて笑ってるけど結局手離してくれないし。むしろこのまま叫び続けて水軍の人か警邏の人に助けてもらおうか。なんてもう一回息を吸い込んだところで「わかったわかった」と男の人は降参のポーズをとった。呆気なく話された手にすかさず距離を取る。

「君面白いね」
「どうも、そしてさようなら」
「これだけありがたくもらっておくよ」

えっと振り返ると男の人の手にはお煎餅。まさかと巾着袋の中を見る。予想通り、おやつとして入れておいたお煎餅がなくなっている。いつの間に?慌てて顔を上げると、もうそこには誰もいなくて。は、はあ?と呆然と立ち尽くしていると、ひなたーー!と大声で名前を呼ばれた。

「あっ…重くん」
「どこいってたんだよー!さがしたんだぞ!」
「ご、ごめんごめん」

お餅を両手いっぱいにかかえた重くんはぷんぷんと怒っていたけど、たくさん取れたね、すごいね、と褒めればすぐに笑顔を見せてくれた。

「つかれたー日向、おせんべたべよ」
「あ」
「え?」

乾いた笑顔の私を見て、すかさず巾着袋に視線が移る。素早い動きで奪い去られた、空っぽになった巾着袋、重くんに激怒されたのは言うまでもない。



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「小頭!こちらにいらしたんですね!」
「ん?よくわかったな」
「捜しましたよ…あっ、またお菓子なんか食べて」
「貰ったんだ」
「貰った?誰にです?」
「…内緒」



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