義丸くんの話


日向さんは面白い人だった。ある日突然水軍にやってきて、ヌレオナゴだのなんだの言われたりもしたが、よくよく知っていけば優しくて明るい女の人だった。俺より少し上くらいに思ってたから歳聞いたときには驚いたけど、そのわりは無垢というか、知らないことが多くて垢抜けないから、ちび達も日向さんにはよく懐いていた。かくいう俺も、姉のような妹のような、なんだかはっきりしない、けれど温かい存在だと思っている。それは、弟分一いい意味で可愛げのないこいつにとっても同じなのだろうか。

「みーよしまるー」
「義丸の兄貴」

泳いで来たのか、髪の濡れた舳丸が通りかかった。引き止めるとなんですか?と言わんばかりの顔。

「この前は迷惑かけたな!」
「いえ、いつものことですから。慣れました」
「おっまえなー」

こいつ、根が真面目だからかこういうところあるよな。嫌味で言ってるわけじゃないのはわかっているから、頭をぐりぐりしてやった。

「海か?」
「はい」
「ちび達も?」
「そうです」
「…日向さんも?」

ぱちくりと目が瞬く。すぐにその目に剣呑さが宿った。

「そうですが…」
「ふーん、日向さんも泳いだの?」
「…疾しいこと考えないでください」
「はっ?おいおい、ただ聞いただけだろ?お前俺をなんだと思ってんだ」
「義丸の兄貴」
「どういう意味だそりゃあ」

やれやれ、日頃の行いとは言え随分な言われようだな。肩を竦める俺に、舳丸はじっと見上げて来た。

「なんだよ」
「変なちょっかい出さないでください」
「え?」
「日向さんは客人ですよ」
「ん〜?なんだなんだ、お前が他所の人気にするなんて珍しいな」

まあ彼女はもう身内みたいなものだが。水軍以外の人間にあまり興味を示さない舳丸が彼女のことを話題に出すものだから、ついからかってしまいたくなる。

「丁重にもてなされるのがすきって人でもないだろ、日向さんは」
「ですが…」
「やけにこだわるな〜あっさては舳丸、日向さんに惚の字だな!?」

ははは、なーんつって〜。まあ舳丸に限ってそんなわけないか!は〜からかいすぎたか?いつもみたいに冷たい目で見られるんだろうな〜なんて思っていたが、あれ?まるで図星を突かれたかのように固まってしまった舳丸、どうした?手を顔の前でひらひらさせても反応なし。様子がおかしい。おい?と声をかけて肩を数度叩くと、はっと我に帰ったらしい。何言ってんですか、と顔を逸らしながら答えた舳丸の耳は真っ赤で、とにかく変なことしないでくださいと言い残し、海行って来ます、と出て行ってしまった。海って、お前今帰ってきたばっかじゃねぇの?明らかに動揺している。

「…まじかよ」

初めて見る弟分の姿に、俺も動揺が隠せない。うわー、あいつ、日向さんのこと……てか、舳丸、お前、そんな感情持ってたんだな。舳丸の浮ついた話なんて聞いたことなかったけれど、まさか歳上好き、それも日向さんだったとは。…まあ日向さん好きになるのもわかる、ほっとけない人だし。舳丸なんか特に持ち前の真面目さと義務感で余計に気にかかるのだろう。あの様子じゃ、自覚はしていなかったようだが。ま、恋に年齢は関係ないって俺は思ってるし、まさに始まったばかりってところだろう。頑張れよ〜兄貴は応援してるぞ!

でもあわよくば、なーんて思ってるところもあったりして。へへっ。

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