15
「日向さん、結婚するの?」
「げほっ…」
夕飯を食べていると、俄かにやってきた義丸くん、大真面目な表情をしているものだから何ごとかと思って居住まいを正せばそんなことを聞いてきた。思わず噎せる。ごほごほと咳き込んでいると背を撫でながら義丸くんがくっと涙を堪える仕草をした。
「俺とのことは遊びだったんだね…」
「ごほっごほっ…いや、義丸くんとの間に何かがあったことなんて一回もなかったからね…げほっ」
やけに悲痛な顔してるけどそんな事実一度もなかったぞ。はーっと息をついてお茶を飲むと、なんだか鋭い視線を感じた。そっちを見ると案の定、舳丸くん。君だね、義丸くんに報告したのは…。
「義丸の兄貴が遅くなった理由を教えろと言うので」
「だからあれは誤解だってば」
そう伝えても舳丸くんは納得いかない表情。結局誤解は解けないままである。いや誤解というか、怒り?結婚云々が真実じゃないっていうのは舳丸くんもわかってる気がするんだけど、それを詰るのはなんとなく舳丸くんが怒ってるから、という気がする。何に怒ってるのかはよくわからないけど。彼の発言から察するに、水軍でお世話になってるのにやすやすと他の人のところに行こうとしているのが気に障る、というところだろうか。行くつもり微塵もないけど。
「ひなた、けっこんするの?」
舳丸くんの隣でご飯を食べていた重くんが不思議そうにこちらを見上げた。いや結婚なんて…と言いかけたところで、ちっちゃい子達がわらわらと質問をぶつけてくる。
「けっこん?だれと?」
「まぎり、よしにいだとおもう!」
「えー、みよにぃじゃない?」
「みよにぃはだめ!!」
「かわらきいてたよ!しらないひとだって」
「えっすいぐんじゃないの?」
「そしたらひなた、いなくなっちゃうの?」
「やだー!」
ひしひしっと抱きつかれて感慨無量。こんなに懐いてくれてたのか。う、嬉しいぞ。水軍からいなくなっちゃやだ!としがみついてくるちっちゃい子達、うん、大丈夫、間違ってもあの人のところに嫁いだりしないから。お世話になるとしたらここしかないからね。結婚だの相手は誰だなど騒いでいたせいか、次第に周りにいた人々もなんだなんだと話に混ざってきた。
「日向結婚するのか?」
「何処の誰とだよ」
「しませんしません。誤解です」
「おい聞いたか?日向が結婚するらしいぞ」
「なに?日向お前、結婚するのか?」
ついには協栄丸さんまで話に入ってきた。話広がりすぎだから。そうかーと顎に手を置いて協栄丸さんは考え込む。
「俺としちゃあ水軍の若いのとくっついてくれりゃあいいと思ってたんだが…」
「はい!俺!立候補します!」
「ヨシ、お前はまず今いる女をどうにかしてからだろ」
「恋は待ってくれないんですよ、疾風兄ぃ」
なるほど、そんな感じだから義丸くんは女の子との噂が絶えないんだね。キメ顔のまま義丸くんががしっと手を握ってきた。
「日向さん、俺あと10年したらかなりのいい男になってるはずだよ。今のうちに懇ろになっとこうよ」
「す、すごい自己PRだね…」
青田買いってこと?義丸くんすでに成熟してる気がするけど。苦笑いしてやりすごそうとしていると、おいおいおいと横から声が飛んできた。
「義丸みてぇなのが好みなら止めねぇが、鬼蜘蛛丸の将来性は随一だぜ?日向、鬼蜘蛛丸にしとけって」
「え、ええ…」
「待て待て、んなこと言ったら舳丸だっていい男になってるだろうよ!日向、舳丸にしとけ」
「は、はあ…」
「あめぇな、重がとびっきりの男になってるかもしれねぇだろ!選ぶなら重だ!」
間切だ!東南風だ!いや俺だ!などなど各人の主張で夕飯は混迷を極めてしまった。そもそも私結婚する気なんてまるでないんですが。いや、いや、いや、と断り続けるうちにだんだん話も結婚から逸れていき、誰が一番良い海の男になるか、そもそも今一番の海の男は誰なのか、いやそりゃあお頭だろうそうだろう、などといつものパターンになってきている。お約束だねこれは。いつのまにかまた将来誰が一番の海の男になるかという話に戻ってきて、あーだこーだと議論が交わさている。置いてけぼりの私は呆然とそのやり取りを見守り、しかしやがて我に返ってご飯を再開する。冷めちゃったな、急いで食べよう。しかしすぐさま依然鋭い視線の舳丸くんが質問してくる。
「結局結婚するんですか」
「だから、しないよ」
聞いていたらしい義丸くんがちっと舌打ちした。仮に思い合ってたとしても15歳に手を出したらそれは犯罪だろうし、第一ずっとここにいるわけじゃないんだから結婚してもね。
「恋愛に年齢は関係ないよ」
「流石に15歳はなぁ…」
「じゃああと10年したら考えてくれる?」
「うーん、どうかなあ」
10年後か。彼らがどんな風に成長するのか興味はあるけど、10年間もここにいるわけはないだろうしな。でもそれを口にするのは憚られて、ご飯と一緒に飲み込んだ。
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