周期把握されて薬隠される話


俺が預かっておいた。
ばきりと掌の中で瓶が砕ける。中身ごと地面に落とされて、呆然と王を見た。
なんでと呟いた声に彼は笑った。
そんなの、お前と番になるために決まっているだろう。
熱とαの匂いに、もう抵抗しようという気すら削がれていた。涙で滲む視界のまま男を見上げる。

必死で掻き抱いた腕は宙を切る。

外せ、と短く告げられた言葉の意味が、朦朧な頭でも理解できた。相手はαだ。頸を晒して噛まれてしまえば生涯を支配される。そんなこと許されないという理性と、彼のものになってしまいたいという思いがぐちゃぐちゃに渦を巻く。

「ほら、早く」
「あッ…ひゃ、あ!」

殆ど剥がれかけた理性で、それでも踏みとどまる日向を見て、それならば先に体を墜としてやろうと王は腰を抱え直した。上から突き下ろすように勢いよく腰を落とすと、日向の体が仰け反る。けれど直接的な刺激はそれきりで、その後は弱いところを掠めるように、焦らされるように嬲られて、日向はもう訳がわからなかった。
(頭、おかしくなる)
子を為す準備をしようと、腹の奥が作り変わっていくのを感じる。子宮が降り、口を開いて男の陰茎を、その子種を待ち望んでいた。日向の意思を置き去りにして王のものになろうとする彼女の体に応えるように、王も腰の動きを速める。膨れ上がった陰茎が受け入れろと奥を突く。逃さぬように腕の中に閉じ込め、もう意味のある言葉を発することもできず、ただ快楽に溺れる日向は愛らしく、哀れでもあった。
もう一度、外せと声が落とされる。できないと返す前に耳朶を柔く食まれ、吐息と舌で嬲られると思考が霧散した。だめもいやだも色欲に濡れた喘ぎにすり替わる。理性などもう欠片も残っていない。

「我慢するのは、辛いだろう?」
「ああッ、やぁ!」
「俺なら楽にしてやれる」

(おわる、?この、くるしさ、から)
落とされる声に最後の砦が決壊した。この地獄がおわるのならもうなんだってよかった。震える手が首元に回り、首輪を掴む。ぐいと覚束ない手つきでそれを外そうとするが、力ない指先では上手くいかない。
見かねた男の手が日向の手に添えられる。がちゃがちゃと不器用な様子ではあったが、ようやく首輪が落とされたのを見て、王は喉を鳴らして笑った。
力づくで首輪を取ることもできた。日向の首が締まるのを気にすることさえなければ、彼の力でなら簡単に首輪を引きちぎれただろう。けれど、そうしなかったのは日向が自らの意思で首を差し出すことに意味があったからだ。日向が自分自身の手で頸を、その身を捧げなければ、本当の意味でこの女を手に入れたことにはならない。

「ふふ、いい子だな」
「はあっ、はッ」

羞恥とどうしようもない焦燥感でぶるぶると震えている日向の体に背中から覆い被さると、ゆるりと腰が押しつけられるのだからたまらない。焦るなと笑って頸を舐めた。晒された頸は羞恥で赤くなっている。勿論噛み跡など一つもなく、間違いなく番を待つΩの頸である。ぞろりと舐め上げ、そのまま耳元で囁いた。
お前を、俺の番にする。
言葉にすれば改めて日向が息を呑んだ。怖れではなく、期待だろう。その時を今か今かと待ち望む日向の頭は沸騰寸前である。薬を取り上げられていたことも、周期を把握されていたことも、もはや意識の片隅に追いやられていた。いや、頭の片隅にすらなかったかもしれない。圧倒的な力で己を組み敷く雄に全てを委ね、支配されたいとそればかりだ。
けれど男は頸に口付け、優しく舐めるばかりで一向に噛む様子を見せない。そこに唇が触れるたびに体の中枢を鷲掴まれているような気分になる。否、正に自分の命運を握られているというのに、男はここまできてまだ焦らすような真似をした。まただ。また試されている。まだ足りないのか。どうしてと問いかけようとすると、止まっていた腰がパンと打ち付けられた。過剰に跳ね上がる体に涙が浮かんだ。
もういやだ、こんな、訳もわからず、誰彼構わず反応する体は。周りの男達全てに怯えながら生きていくくらいなら、もう、いっそ。

「噛んで、噛んでッ、おねが、い」

涙を散らして、なりふり構わず日向が懇願する。陥落した愛しい女を前に、その時王は恐ろしい程の愉悦を顔に浮かべていた。間髪入れずにがっと首と肩を掴むと、傷一つない頸に躊躇なく牙が食い込んだ。

「ーーー!!」
「これで、やっと」

君を手に入れた。

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