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「服のことは気にするな」
長らく使っていなかったであろうキッチンで、奇跡的に冷蔵庫に入っていた卵とベーコンでサニーサイドアップを作る。にやにやしながら隣に立つダンテは、「そんな格好で、甲斐甲斐しく朝飯とは新妻みたいでいいな」と上機嫌だ。
「気にするよ…いつまでもこの格好でいるのは嫌だからね」
「似合ってるぜ」
「どうも、嬉しくないけど。…ダンテ、フライパンあげて」
「ほら」
両手が繋がれた状態では料理も満足にできない。お世話になりっぱなしだから、朝ごはんくらい作ると申し出たものの、やっぱり手錠は外してくれなかった。繋がれたままじゃ料理なんかできないとごねた結果がこれである。わたしの指示通りフライパンを操り、お皿を用意し、トーストをオーブンにかける。
「すっごく食べにくい」
「食べさせてやろうか?」
「結構です」
出来上がった朝食は簡単なものだけど、どれも満足いく出来だ。ちゃんとサニーサイドアップもとろとろ半熟。久しぶりにまともな朝飯だとダンテも嬉しそうだった。自分では作らないだろうけど、作ってくれるような人いないのだろうか。
「ダンテ」
「ん?」
「ダンテは…恋人いないの?」
心外だな。と呟いてからダンテはぺろりと指を舐めた。
「お前を探してたのに、恋人なんか作る暇はなかったぜ」
「あー…それはごめん」
「ハハ、謝るなよ。今は探してたお前が目の前にいるんだ、充分さ。にしても、突然どうした?」
不安になっちまったか?俺にはお前だけだから安心しな。そう言うことを言ってるんじゃない。
「不安といえば不安だなあ。その年で結婚してないんだなって」
「失礼なやつだな。言ったろ、お前がいるのに他のやつとくっつく気はねぇよ」
「うーん…わたしはダンテの幸せを願ってるけどね」
いい人いるといいね、トーストを齧るとダンテが不服そうな顔で続ける。
「…18年前から言ってたけどな、俺はお前以外目に入ってねぇよ」
18年前のダンテを思い出す。何事にも全力で、若さ故の熱さで何にでも切り掛かっていったダンテ。それ故に慢心もあった、怪我をしたダンテを手当てするのはわたしの役目だった。もっともほとんどの傷は彼の治癒能力であっという間に治ったけれど、何かと理由をつけてやってくる彼から目が離せなくなったのは、危なっかしさと愛おしさが確かにあったから。でもそれは恋愛ではない、年下の生意気な男の子を心配するがためだった。
「18年間探してくれてたんだよね?もうそれ以上縛る気はないよ」
「縛られてたつもりはない。俺がやりたくてやってたことだ」