badend
「やだ、やだ!」
「動くなって…痛いだけだぞ」
ぽつりと呟けば、日向が驚いた顔でこっちを見上げた。脅しでないことをわからせるために掴んだ手首に力を込めれば痛みに呻いて顔を顰める。
「いッ…」
「大人しくできるな?」
ぺろりと唇を舐め上げると、彼女は普段からは想像もつかないほど小さい声で俺の名前を呟いた。ぞくぞくと背中に悪寒が走るが、それが庇護欲から来るのか、嗜虐心から来るのか、もしくはそのどちらもなのか、判断はできない。瞼に口付け、改めて組み敷かれた女を見つめる。
目の前にいるのは確かに日向だ。18年前、俺を守り、慈しんでくれた。そして18年後、変わらない姿で俺を大切に思ってくれた。いつも弱さを見せない日向が、今俺の下で、俺に怯えた目を向けている。あの、日向が。
もう限界だった。
「あッ、ア!」
ぐちゃぐちゃに蕩けたそこに躊躇いなく突っ込む。一番奥を目指して深く腰を進めれば、がしゃりと手錠を鳴らして日向が声にならない声を上げる。ぐちぐちと奥まで咥え込ませ、一息ついて日向を見つめると、浅い息を繰り返しながらぼたぼたと涙をこぼしていた。その様子にぐらりと頭の芯が揺れる。
ああ、やっと、手に入れた。
無意識に上がる口角を抑えられない。興奮のままに初めから遠慮なく抽出を繰り返すと、途端に嬌声が上がる。
「ィッ、あぁ!」
「ハッ…日向、すげェ気持ちイイ」
顔を逸らして目を瞑った日向、それじゃお前の瞳が見えないだろう。僅かに腹が立ちぎゅっと胸の飾りを摘むと予想外の刺激に日向が短く鳴いて目を開いた。笑う俺の姿を捉えた日向の瞳に、やはり現実なのだと絶望が浮かぶのを見てまた俺は笑みを深くする。そうだ、これは現実なんだ。だからこそ目でも耳でもこの状況を楽しみ、味わい尽くせと俺の中の本能が叫んでいる、まったく、本当に悪魔になっちまった気分だ。
初めて味わう日向の中、今まで何百回と頭の中で抱いたが、想像以上だ。絡みつく熱いナカも、嬌声と涙をひっきりなしに零す姿も、俺の欲望を直接、熱烈に揺さぶる。かつてこれほど興奮したセックスがあっただろうか。
余すことなく喰らい尽くそうと、歯を食いしばりながらひたすらに腰を振った。
「なあ、わかるか?締め付けて、俺を離さない」
「んん…!」
衝動のまま唇に噛み付けば日向は苦しそうに呻いた。夢中で口内を荒らし、日向が息継ぐ暇も与えずひたすらに貪った。酸欠寸前なのか、反応の鈍くなった舌に気付いて漸く口を離せば、飲み込めなかった唾液で口元を汚した日向が咳き込み喘ぐ。苦しさ故か快楽故か、おそらくそのどちらもであろう波に翻弄されている。
ある一点を掠めたとき、必死に呼吸する日向の息が不自然に詰まった。試しにもう一度突き上げてみれば日向が頭を振り乱し、やめてくれと鳴いた。思わず口角が上がる。
「ま、って…!そこ、おかしく」
「…ハハ、おかしくなっちまえよ」
反応が良いところ目掛けて暫く腰を振り続けると、突然日向の体が痙攣し、それからくたりと力が抜けた。どうやらイってしまったらしい。随分早いが、先程からの蕩けた様子では当然か。だが、達した余韻で断続的に締め付けられるナカに、俺の興奮は収まらない。感じ悦った様子で虚ろな目の日向に構わず、ぐいと足を持ち上げ肩に引っかけると、ぴくりと日向が反応した。そのまま腰を捻じ込み、角度の変わった抽送にまた日向が高く鳴く。
「ひあ!?だ、だめ、もう」
「ダメじゃなくてイイだろ?」
「やぁ、とまってッ!」
さらに追い詰めるように、「ここも気持ちいいな?」と蜜に塗れた陰核をぐりぐりと押し潰せば、背が仰け反り痛いくらいに中が締め付けられる。シーツをめちゃくちゃに引っ掻いて、なんとか快楽から逃れようとする、日向のこんな姿を見るのは初めてだった。許容範囲を超えた快楽に余裕なく喘ぎ、助けを求める、だがその快楽を与えているのが自分だと思うと頭の芯から蕩けるような心地がした。逃げるようにずりあがる腰を掴み直し容赦なく引き寄せれば、ぱちゅんといやらしい音を立てて自身を飲み込むその光景にまた熱が上がっていく。
「やァ、んン!」
「ほら、気持ちいいか?」
「あ…ま、た、イッ…!」
再び絶頂を迎え、搾り取るように締め上げる中に奥歯を噛み締めて堪える。背を反らせてびくびくと震えた体は、やがて弛緩してベッドに投げ出された。日向、と声をかけても返事はない。顔を覗き込むと、目こそ閉じられていないものの、虚ろに空を見つめている。体をそっと撫ぜるとそれにすら感じてしまうのか、ぴくりと反応して熱い息を零した。
煩わしい拒否の言葉を聞かないうちに、ずるりと一度自身を抜く。手錠を外し、今度はうつ伏せにひっくり返す。晒された背中に唇を寄せ、きつく吸い上げてやる。俺のものだって証だ。この証が一生消えなければいいのに。
されるがままの日向は暫く浅く呼吸を繰り返していたが、やがて意識が戻って来たのか、か細く何かを呟いた。なんだと顔を寄せてやれば、ぐっと息を詰めて途切れ途切れに俺の名前を呼んだ。涙声で呼ばれた名前に、罪悪感よりも興奮を覚えてしまった俺はもう手遅れなんだろう。再び蜜口に触れた熱に、制止も聞かないまま腰を進めれば、日向が声にならない声をあげた。同時にびくびくと強く締めつけられ、驚いて日向を見つめる。
「〜〜〜ッ!」
「ッ、おいおい…いれただけでイっちまったか?」
「あ、あ…う」
「はッ…ヤラシイ体」
日向が悔しげに唇を噛む。感じやすいのは喜ばしいことだが、すっかり堕ちた体に対して日向の意識はまだ理性にしがみついている。攻め立てる言葉を掛けても必死で首を振り否定しようとするから、堪らなくなって律動も口もますます苛烈になってしまうのだ。
「ほんとここ好きだなァ?ちょっと擦っただけですぐイっちまう」
「ひぁ、ダン…あ!」
「ほら、もっとイッてごらん。見ててやるから」
その言葉通りに容赦なく日向を攻め立て、理性を剥ぎ取る。ナカを擦り、陰核を撫で、呼吸を奪う。自分が与える刺激一つ一つに従順に反応する体が愛おしい。
そうして何度目かの絶頂を迎える頃には、拒否の声も小さく、力なくなっていた。やっと堕ちたかと顔を覗き込めば、その瞳が疲労と快楽にどろりと蕩け始めているのがわかった。
日向が誰かに支配されるような人間ではないことはよく知っているが、それでも今だけは圧倒的な快楽に溺れる姿を見て日向を征服したような気分になった。
「やだ…や…ァあ」
口付けを落として飽きもせずに弱いところを攻め続けると、ついにぐすぐすと泣き出してしまった。初めは劣情のまま律動を続けたが、ダンテと呼ぶ涙声が嬌声よりも目立ってくれば、少しばかり不安になる。一度動きを止め、額を付き合わせる。日向、と名前を呼べば、至近距離で黒く潤んだ瞳が俺を捉えた。
縋る腕を抑えて唇に噛みつき、たっぷりと日向の口内を味わう。ちゅる、と舌を割り込ませると、驚いたことに日向の方からも舌を擦り付けてきた。拙いが一生懸命応えようとする舌の動きが愛しくて、腹の底がどくりと熱くなる。舌ごと絡め取って吸い上げてやれば、じゅる、と疚しい音が響いて日向が鼻から抜ける声で鳴いた。それにまた興奮してより深く貪る。お互いの唾液で口元がぐちゃぐちゃになる頃、漸く口を離すと日向がいやだと譫言のように首に手を回す。
「日向?」
「ダンテッ…」
ぐいと頭を引き寄せられる。ちゅ、と軽い音を立てて唇が触れ合い、そのままぎゅうと抱きしめられた。離れないでと呟いたきり、あとはひっきりなしに嗚咽が続く。
固まってしまった俺は、呆然と日向を抱きしめるしかできない。そしてやがて、言われた言葉の意味を咀嚼して口元を抑えた。あやす様に頭を撫でる手が震える。求めていた姿を目に焼き付けて、熱い息を吐く。
自分ならば、と思っていた。自分だけは、許してくれるのではないか、と。
18年前も今も、さんざ迷惑をかけ甘えてきたことは自覚しているんだ。ただのわがままに小言を言うことはあったが、日向はいつも受け止めてくれた。
今、俺は日向の体に触れて、日向を支配しようとしている。けれど、涙をこぼして首を振っても、日向はきっと最後には笑ってくれるのだ。俺に対してだけ向けられてきたその優しさを、俺はいつだって利用している。
何もかもぶち壊してしまえばいいと思った、けれど、願ってしまった、日向と愛し合いたいと。わかっていた、初めから、それこそ18年前以上前から抱いていた思いだ。体を手に入れれば満足するかと思っていたが、強くなる一方だった。
日向を守ってやりたいし、めちゃくちゃに泣かせてやりたいとも思う。日向を害するものは全部俺が殺してやるとそう考える反面、日向を傷つけたいという欲望も確かに存在している。相反する思いに限界が来て、こうして体を犯したのに、思いは激しくなるばかりで。答えが見つからないことに焦れて、日向を貪った。
衝動のまま再び腰を緩く動かしてみれば、びくりと日向の体が強張った。腰を掴む腕に力なく手が添えられる。
「や…ダンテ、もう…」
「俺はまだイッてない」
絶望的な顔をする日向に対して、俺はまだ一度も達していない。普段ならとっくに数度は出しているであろう程時間は経っている、にも関わらずだ。ひたすらに日向を追い詰めることを優先したからだろう。なら、そろそろ俺だって解放したい。
「や、だめ、もう、む…ンあ!」
俺に縋ってくる日向。その姿を見るためなら、何度だってぶっ壊してやる。
「ッは、…日向、いくぞ」
「や!ァ、だめ…だめ!」
「全部、受け止めてくれるよな」
「ダン、テ!」
痕が残るほど強く腰を掴み、がつがつとスパートをかければ日向が必死に腕を突っぱねきた。まだそんな力が残っていたのかと思うほど強くシーツを蹴って、なんとか逃げようとする。その足を捉えて引き上げ、上から打ち付けると高く悲鳴を上げた。びくんと大きく体が跳ねて、耐え難い刺激に襲われついに俺も限界を迎える。
息を呑み、奥の奥に熱を放つ。「あ、あ、」と断続的に声を上げて、尚も逃げようとする体を抑え込み、全て注ぎ込んだ。出し切るようにゆるゆると腰を振り、抜かないまま日向の腹に手を当てる。
「ハッ、はー…ああ、日向」
「ひ…ぁ、ア」
子宮のあたりをくるりと撫でれば日向の腰が跳ねる。余韻を味わうようにゆったりと揺らしてやると、誘うようにナカが締まった。可愛らしい反応に笑い、頬を撫でると日向がまた泣いた。愛しい存在を確かめるために顔から首、胸元に唇を落とす。
「名前、呼んで」
日向の目がゆるりとこちらに向けられる。
「俺だけだって、言ってくれ」
祈るような気持ちで胸元にキスを落とす。求めているのは体だけではない。寝物語でいいから、今は言葉が欲しい。