口約束
願ったことがあった。あまりにも突拍子なく、自分勝手な願い。
「俺が帰ってきたら、結婚してくれ」
クリフォトの頂上で、そう告げた。
女はじっとこちらを見つめ、それから、
「いいよ」
「ダンテ」
ひょっこり、背後から覗き込まれて思わず肩が跳ねる。慌てて雑誌を押しのけ立ち上がると、日向は首を傾げた。
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
ちらりと背後を見ようとする彼女から、背で如何わしいそれをカバーしつつ尋ねる。
「どうした?」
「ああ、ごはん。できたよ」
するりとエプロンを外して微笑む。そのままくいと手を引かれてダイニングへと誘導されれば、食欲をそそる匂いが鼻腔を刺激する。
「うまそうだな」
「ふふ、がんばったんだ」
並べられた日向の手料理。家庭的だが、俺好みの味付けになっているであろうそれら。
「ダンテ」
後ろから抱きしめることを許されている。腕の中でもぞもぞと向きを変えて、ぴたりとくっ付き合う。意外にも、触れ合う、スキンシップが好きなのだと知ったのは一緒に住むようになってからだ。すり、と胸元に顔を寄せたかと思えば俺を見上げて笑った。
「ダンテのにおい」
「セクシーだろ?」
「うん、すき」
素直にそう告げらればこちらが照れくさくなってしまう。安心するんだ、と続ける日向はまたぴとりと顔を胸に寄せた。
「日向」
「うん?」
「…あー、あのさ」
「なに?」
「俺たち、その…結婚、したんだよな」
「うん」
さも当然と言わんばかりに頷き、不思議そうに見上げてくる日向の頬を撫でる。確かにここにある感触と温もり。目を細め嬉しそうに手に擦り寄る姿は幸せとしか形容できない。
「幸せだなぁ」
「っ」
ぴくりと手が反応する。まさに今思っていたことを日向も同じように感じていて、なんとも言えない気持ちになった。
「っ日向」
「わっ」
力強く抱き寄せる。