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「ただいま」
「遅かったな」
「あ、ごめ…わ!」
事務所のドアを開けると、すぐにダンテが出迎えてくれた。と、そのままがっしりと抱きしめられ、思わず持っていた荷物を落としそうになる。ダンテにハグされるのは前からだ、しかし同一人物とはいえ驚いてしまった。怪我とかしてないか?とやたら心配してくるダンテから離れて大丈夫と伝えれば、大量の荷物を私から受け取り、そのまま部屋まで運んでくれる。
「ずいぶん買ったな」
「ごめん、お金は返すから」
「いいさ。気にするな」
もともと服が一着もない事もあったけれど、レディに勧められるままあれよあれよとたくさん買ってしまったのだ。ダンテのお金を借りているのに、確かに買いすぎたかもしれない。
「楽しかったか?」
「うん、話もたくさんできたし、いろいろ見て回れたから」
「…ほお」
事務所に戻るダンテの後を追うと、どかりとソファに腰掛けた。わたしも隣に腰を下ろして、レディの仕事のこととか、きらきらした服とか、美味しいケーキのお店とか、いろいろなことをダンテにも聞いて欲しくて、でも、あれ?ダンテはさっきからわたしの方を見ようとしない。ダンテ、なんだか、聞いてない?
わたしが話せば話すほどへえとかふーんとか、生返事というかテキトーな相槌になっていく。なんだろう、何か癪に触ることでもいっちゃったのかな。
「ダンテ」
「あ?」
「わたし何か変なこといった?」
「いや?何も?」
嘘だ。だってあからさまに機嫌悪い。
「なんでそう思うんだ」
「だって、」
18年前のダンテもそうだった。
「ダンテ、怒ってる時わたしの方見ないけど」
「…」
「傍からは離れないから」
今だってそうだ、返事が適当になるのと同時に、わたしの手をしっかり握りしめている。向こうを向いたまま、器用なことにわたしの掌をちゃんと捉えた。指摘すれば驚いたようにこちらを振り向く。ほらね、大当たり。見た目は変わっても、そういうところは変わってないんだな。
「ダンテ、ごめんね」
「…何のことだ?」
「わたし、あなたを一人にして眠ってたんだね」
「…」
レディに言われて気がついた。一番傍にいたいときに、傍にいてほしいときにそうすることができなかった。唯一の血縁を失って、崩れそうな彼を、支えるのがわたしの役目だったはず。手を取り、言葉を交わして、寄り添うことで、ダンテは自分を奮い立たせていたのに。兄を失ったばかりの彼にとって、自分という存在がどれほどの支えになっていたのか、それが小さくないことは誰よりも理解している。なのに、突然その依り代がなくなって、彼はどんな思いだったのだろう。今目の前にいるダンテはそれから18年経って、傷も癒えたではあろう。けれど、わたしという支えを失ったばかりの彼を思えば、わたしは謝らずにはいられないのだ。
レディに言われた言葉と、帰り道ずっと考えていたこと、自分がどうすべきか。眠りから覚めたばかりで、全部かはっきりしているわけじゃないけれど、これだけは決めたんだ。
「暫くはあなたのそばにいる。一人にしてしまった分、あなたの近くにいさせてほしい」
「日向」
「迷惑じゃなければ、だけど」
最後の方は恥ずかしくて小さくなってしまった、聞こえたかなと様子を伺うと、言葉ではなく腕が飛んできた。ぎゅうと苦しいくらいに抱きしめられて、18年経ったのに、やっぱり彼は変わってないなと苦笑いする。
「ずっとここにいてくれ」
縋るように囁かれた言葉に、わたしはうんと頷いた。ダンテを一人にしてしまった分、何かで返してあげたい。本当は1人が嫌いで、でもそういうところを見せない悪魔のために。