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「まって、ニュート、まっ…」
ぎくりと体が硬直した。
呆然と彼の顔を見上げる。暗い、どこまでも暗い色の瞳。その目を、覚えているはずはないのに、覚えている。この風景を、私は見たことがある。
「……日向」
声が出ない。首を振って、何とか逃げ出そうとするけれど体は全く言うことを聞かない。伸し掛られた手も足も、ぴくりとも動かなかった。
どうしてこんなことするの、どうして。
「今日は…どこまで堕ちてくれるかな」
わからない、何を言ってるの。
杖が一振りされて、しゅるりと身に纏っていたものが解けていく。愕然と彼を見上げる、向けられているのは仄暗く恍惚とした眼差し。相変わらず何も言えないままでいると、耳元に熱い息が落とされて、ごくりと喉がなる。それから彼の指先が迷うことなくわたしの胸元に置かれた。
「愛してるよ」
優しく唇が重なって、涙がこぼれた。
嘘だ、嘘だこんなこと。
前からこんなことしてたっていうの。
「日向、僕のものになって」
いつの日か、オレンジ色の輝きが灯っていた私の指に、彼の指が絡まる。あの日とは違う、触れられている部分は熱いのに、体の中心は冷え切っている。
汗ばんだ掌をしっかりと握りしめられる。どうしようもなくて、何かに縋り付きたくて、思わずその手を握り返した。ニュートが泣きそうな声でわたしの名前を呼ぶ。好き勝手に揺さぶられ、反動で零れ落ちた涙、視界がクリアになる。その先で、彼が杖を手に取るのを見た。いつか、彼と2人で任務に行ったとき、ボガートが変化した、彼と同じ。真っ直ぐ向けられる杖の先、その先で彼もまた瞳を潤ませていた。
ああ、わたしはやっぱり、彼のことが。
「…オブリビエイト」
ほろほろと、記憶が剥がれていく。同時に遠くなって行く意識の中、たしかに思った。ニュート、ねえ、お願い。消さないで。お願いだから。
「ニュー、ト」
わたし、あなたのこと、好きだったの。