彼女の独白

わかっている、ハンクは絶対にわたしに振り向かない。振り向くわけがない。彼がわたしを娘のように思っているのは知っている。想いを伝えるたびに困ったように笑う、優しい彼。誠実に答えるけれど、わたしを突き放すことはなかった。彼はわたしの心を、思いを砕きはしない。それが彼の優しさだと少し考えればわかることなのに、愚かなわたしはそれを勘違いする。同じ思いをもっているのではないかと。伝わったのではないかと。そしてまた繰り返してしまう。
少しでも伝わればそれでいいと思っていた、けれど願ってしまった。受け止めてほしいという気持ちは際限なく膨らみ、自分で抑えることは難しくなっていく。今日の行いはそうした思いを発散させるためのようなものだったのに、またわたしは願ってしまった。そして勝手に傷ついている。傷ついているのはハンクだって同じだ。伝わらない思いを伝え続けるわたしの行為に、彼だって同じくらい痛みを感じているのは想像に難くない。優しい彼のことだ、わたしの身勝手な告白にも申し訳なさを感じているんだろう。だから、謝ったのだ。彼は何も悪くないのに。
傘を差し出してくるのは求めた存在ではない。私の相棒だ。それ以下でもそれ以上でもない。けれどまた彼も特別な存在だった。それはわたしが愛してやまない彼にとって。アンドロイド嫌いのハンクの相棒というだけで、彼に幼稚な嫉妬心を抱いたのはハンクもわかっていただろう。けれど当の本人は命を賭して私を守ってくれた。相棒だからと。ハンクに教えられたからと。自分の幼さを見せつけられた気がして、アンドロイドとしてではなく相棒として彼に接することができるようになったのはごく最近のことだった。そう、ようやく「相棒」になれたはずなのに。押し倒されて体を繋げた。苦しみの代わりに自分を見てくれと。わかっている、彼と彼の思いを利用したのは他でもない自分だ。結局変わらない。伝わらない思いを別の誰かに重ねることで昇華しようとしている。それも、生まれたばかりの無垢な子どもに違わない、コナーというアンドロイドに。自分の身勝手さに吐き気がする。それでも今更彼を突き放すことはできなかった。抜け目なく今晩の約束まで取り付けて!

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