転機

「行こう」

日向が車のキーを手に取った。


現場は町外れの廃墟だった。所謂ゴーストタウン状態のそこは、犯罪を生業とする者にとっては絶好の隠れ家となっているのだろう。隠れて悪事を働くにはもってこいの場所だ。
変異体たちが最後に目撃された建物の前でジェフリー警部補から指示を受ける。数年前までは豪邸だったのだろうその家は、今は見る影もなく朽ち果てて、その大きさも相俟って不気味さも他とは一線を画していた。我々に割り当てられたのは南棟一階。目撃者の証言から得られた情報を日向と共有しながら進む。

「相当な錯乱状態にあるようです。自己破壊の可能性が高い」
「交渉はできそう?」
「可能な限り、試してみます」

ガラクタの転がる通路は薄暗く、靴音だけが響いている。時折足元を通り過ぎるネズミ以外には生体反応は感じられないが、スキャンすると複数の変異体の痕跡が見て取れた。

「靴跡…。まだ新しい」
「近くにいるかもしれません」

くるりと辺りを見回す。廊下の先は行き止まり。その前に一つドアがある。外で見た屋敷の見取り図と照らし合わせると、恐らく寝室だろう。

「変異体は寝室へ向かった…」

外へ連絡を入れ、慎重に進む。日向が手で制して、拳銃を構える。静かにドアノブに手をかけ、呼吸を整えた、その瞬間だった。

「!」

バンと発砲音。別チームが変異体に遭遇したらしい。反射的に壁に身を隠した途端、発砲音につられたのか寝室のドアが開き中から変異体が飛び出してきた。手には報告通り短銃を持っている。壁に隠れつつ変異体が近づいてくるとすぐさま飛びかかった。虚を突かれた変異体は壁に叩きつけられるが、すぐさま銃を構え、ぱん、と銃声が響く。頬を掠めたそれに気を取られず、腕を捻り上げると日向が至近距離で眉間に銃口を突きつける。パン、と音が鳴り、硝煙とブルーブラッドが静かに溢れた。

「…やるね」
「どうも」

対象が倒れ、完全に沈黙したのを確認した時、ふと背後に気配を感じた。はっと振り返ると別の変異体が日向の背後で銃を構えている。


気がついた時には体が動いていた。

「日向!」
「!」

ぱん、と発砲音が響いた。

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