「ッ待って」

ぐっと肩を押される。見下ろせば焦った顔。

「こういうことするために付き合ってもらったわけじゃない…!」
「…僕が断ればあの店へ行くつもりだったんでしょう?」

彼女の表情が目に見えて硬くなる。図星を突かれて返す言葉もない彼女に畳み掛けるように言葉を続ける。

「なら、僕が相手でもいいじゃないですか」
「な…」
「人間同士の接触ではそれなりのリスクもある。人に知れたら外聞も良いとは言えない」
「ッ」
「ですが僕ならあなたの家に出入りしていてもおかしくはないでしょう。性行為によるリスクを心配する必要もありません」
「でも…ッ」

言葉を遮って耳元を撫でると、彼女の肩が跳ね上がった。素直な反応に口元を緩ませながら唇を寄せる。

「日向」
「な、に」
「僕はあなたを知りたい。あなたは快楽を得られる。利害は一致しています」
「利害って…わっ!」

彼女の体を抱き上げると反射的にがしりとしがみつかれ、その反応にも気を良くしながら廊下を進む。寝室のドアを開けると、薄暗い部屋の中でしっかりメイキングされたベッドが目に入った。
ベッドの上に丁寧に体を下ろしてやれば、日向が恐々と目を開いた。

「コ、ナー…本当に」
「大丈夫、…心配しないで」

すっかり怖気付いた様子でこちらを見上げてくる。こんな姿を見るのは初めてだった。どくりとシリウムポンプの脈動が大きくなる。ソフトウェアの異常を感知するが、目の前の彼女の様子を観察することが優先されエラー処理どころではなかった。
もう一度頬を撫でて唇にキスをする。軽く触れただけでも強張る体。まだこの行為に逡巡する思いがあるのだとわかった。同僚、それもアンドロイドとなればその躊躇も理解できる気がする。けれどもうじっくり悩む時間は与えられない。彼女の意識がキスに集中している隙に、手早くシャツを捲る。途端に、ぎゃっと短く悲鳴が上がった。

「もう少しムードのある声を出してほしいです」
「だっ、急にっ…」

怯えていた顔を今度は真っ赤に染めた彼女は羞恥に震えている。プログラムにはないはずの加虐心が湧き上がった。
露わになった下着の上から胸に手を置くと、ひっとまた悲鳴。今度は手を止めることなく、弱い力で揉み込む。柔らかい感触、初めて体験する感覚だ。下から掬い上げるようにすれば日向はぐっと息を詰め、弾みで反った背中にすかさず手を伸ばし、ホックを外す。あっという間に開放された胸元に、日向がぎこちなく鼻で笑った。

「…慣れてる、ね」

皮肉のつもりだろうか、精一杯の強がりだろうか。どちらにせよ震えながら言われても虚勢にか見えないが、あえて正直に答えておくことにする。

「あなたといつかこうなれればと思って、プログラムをダウンロードしておいたんです」
「は…はっ?」
「実経験はありませんが…安心してください。今までのどの性行為よりも快楽を得られるはずです」

衝撃の事実に日向は目を白黒させた。相棒が知らぬ間にそんなプログラムを、しかも自分を相手と想定してダウンロードしていたなど寝耳に水だろう。動揺している隙に下着を上に押し上げると赤い飾りが現れた。勃ち上がった突起の周りを指でなぞると、鼻から抜けるような声。数度繰り返し、日向が刺激に慣れてきたところで前触れなく強い力で突起を摘む。

「ッァ!」

性感を感じている声音。くりくりと指で挟み転がしたり、つまんで引っ張ったりと弄んでいると、どんどん突起は赤く、硬くなっていく。掌で全体を揉み込みながら指先で突起を弄ぶ。それに従順に彼女の体が反応する。けれど声は我慢しているのか、時折短く嬌声が漏れるだけ。反応を見るに感じていないわけではないだろう。寧ろあからさまに戸惑っている。自分の体はこんなにも感じやすかっただろうか、と。
暫く胸元を可愛がってやると、浅い呼吸の合間に日向がすりすりと膝を擦り合わせているのに気がついた。

「こちらも、ですか?」
「!」

太ももに掌を這わせ焦らすように撫でる。ぴくっと震えた日向が悔しそうな目でこちらを睨みつけた。気にせずショートパンツの隙間から差し込んだ指で下着のサイドを引っ張った。途端にシャツを掴む力が強くなる。

「だ、め」
「どうして?」
「だって、だって…」
「だってはもう聞きませんよ」

泣きそうな顔で拒否する日向には悪いが止めるつもりは毛頭ない。制止の言葉を遮るように足を抱え上げショートパンツを脱がせると、そのままベッド下に放り投げた。下着のクロッチをすり、と指で撫で上げると日向が息を飲んだ。彼女の顔を見ながら下から上へとなで付ける。一番敏感な突起を下着の上から撫でた時、不自然に力のこもったつま先がシーツを蹴った。感じているのだとわかり、笑みが深くなる。数度繰り返し、徐々に湿り気を帯びてきた下着の横から指を入れる。

「ンッ」
「濡れていますね」
「う、るさ…あッ!」

秘部の入り口付近、溢れた蜜を指に絡めてくちゅ、と音を立てる。際立った水音に日向は耐えきれないとばかりに顔を枕に押し付けてしまった。これでは日向の表情が見えない。

「日向、こっちを向いて」
「む、りぃ…」
「…仕方ないな」
「え、あッ、あアッ!」

入り口付近をなぞっていた指に蜜を纏わせ、直に陰核に触れる。軽く触っただけでも過剰に跳ね上がった体を見下ろし、更に遠慮なく押し潰すと、日向が抑えられない声を上げた。

「やッ!ああっ!」
「ほら、こっちを向いてください」
「アッあぅ…!」

一番敏感なそこをくりくりと捏ね回してやると息絶え絶えの日向が枕から顔を離す。しどけなく濡れた声に違わず、涙の張った瞳や上気した頬は強烈な色香を放っていた。「かわいい」と頭に浮かんだ言葉そのままが口から滑り落ち、つられるように口付けを落とす。泣きそうな顔で必死にキスを受け入れる日向に対して、愛おしいという感情が溢れてくる。もっと見たい。彼女がどうなるのか、全てこの目におさめたい。

「や、も、もう…ッ」
「…イきそうですか?」
「ァあッ、コ、ナァッ」
「いいですよ、見ていますから」

溢れ出る嬌声を飲み込むように口付け、陰核を撫で上げる。と、呆気なく彼女は絶頂に達した。びくびくと痙攣した後、ゆっくりと体が弛緩する。
全力疾走した後のように荒い呼吸の彼女の頬に、宥めるようにキスをした。ある程度彼女のバイタルが落ち着いたところで、続ける許可を目で訴えると、恥ずかしいのか躊躇いがちに視線を逸らされる。待ても否定もしないということだ。

「気持ちよかったんですね」
「…ッ」

羞恥と悔しさ、そして快楽が綯い交ぜになった表情。唇を噛み締めて何も言わない。今はまだ言わずとも、いつかは日向から強請るようにしてみせよう。そう内心決意しながら、今回は精一杯愛してやりたいと思った。
湧き上がる興奮のまま指を中に突っ込む。ぐちゅっと派手な水音を立てるだけあってナカはすっかり濡れている。緊張しているナカをほぐすように丁寧に、けれどある程度の力を込めて撫で回すと、日向が途切れ途切れに僕の名を呼んだ。

「こ、こな、あ」
「なんですか?」
「そこッ、つよく、しないでぇ」

くるりと指を回したところ、恐らくそこが彼女の膣内で一番敏感な部分、所謂Gスポットなのだろう。そこに触れるたび嫌々と首を振り、怯えた顔でこちらを見上げる彼女が可愛くて、つい虐めたい気持ちになってしまう。自然に、そこには触れないように、けれど時折ごりっと抉るようしてやると喉が仰け反る。わざとだとわかっているらしく、恨めしげなく目で見てくる日向に笑顔とキスを返す。素直であったり、こうして反抗的な目をしたり、次々に変わる彼女の表情と姿に僕も何も感じずにいるわけではなかった。

「日向」

水音を立てて指を引き抜く。幾分か力の抜けた体で、日向がぼんやりと僕を見つめる。どんな反応をするだろうか。そっと日向の手を取り、己の股間部に押し当てた。

「っ!!」

慌てて手を引っ込めようとするがその行動は予測できた、そうはさせない。がっちりと手首を掴んだままぐり、と腰を押し付ければ痺れるような刺激が思考を揺らし、思わず息が詰まった。

「…ッ」
「こ、こ、コナー…」

呆然とこちらを見上げる日向に微笑み、そっと体を抱き上げる。向かい合う形で座り込んだ日向の目の前でジッパーに手をかけると、窮屈だった中から猛ったそれが顔を出す。彼女の手を再度自身の生殖器を模したパーツに触れさせると、ごくりと唾を飲み込む音。見れば日向はそれを凝視している。

「…そんなに見られると照れますね」
「!」

はっと我に返って慌てて目を逸らす。それからぽつぽつと言い訳めいたことを呟いた。

「アンドロイドの…って、初めて、見た、から…」

アンドロイドとするのは初めてなのか。僅かに感じる優越感に口角を上げながら、握った彼女の手に腰を押し付ける。びくっと肩を跳ねさせて硬直した日向はそのままに、自分の手を重ねてゆっくりと扱く。
換装した最新型の生殖器パーツは人間のソレと見た目も機能も大差はない代物になっているらしい。大きさも硬度も増すし、専用の感覚ユニットと接続すれば、人間が「快楽」として得ている刺激を感じ取ることもできる。そう、今まさに、日向から与えられている感覚だ。
されるがままになっている日向の掌は小さくて柔らかい。本当は離したいのだろう、時折僕の手を払い除けようとするが力では敵わない上に、アンドロイドとはいえ男性の局部を握っているという羞恥があるのかうまくはいかなかった。
日向の手が滑るたびにカウパーを模したローションが垂れ、その手を汚していく。ちら、と日向の方を見ると、羞恥と困惑が混ざった瞳の中に、僅かな期待が見て取れた。こくりとまた小さく喉を鳴らす。無意識だろうが意識的だろうが関係ない。彼女の体は自分を待ち望んでいるとわかって、どくりとポンプの脈動が速くなる。

「気に入りましたか?」
「あっ」
「これが今からあなたの中に入るんです」

耳元で熱く息を吹き込み、そのままキスする。ぎゅっと目を瞑った日向。その様子を間近で見つめながら、静かに手を離すと日向もすぐに手を引っ込めた。離れたことに安心したのか、ほーっと息を吐く。油断している彼女の肩を押せば、どさりといとも容易くベッドに倒れた。見下ろす僕をみて彼女は慌てて体勢を立て直そうとするが、両足首を持ち引き寄せればなす術はなかった。足を閉じようとしても遅く、すかさず自身の足を割り込ませ、ぐいと腰を彼女の秘部に押し付ける。途端に目に見えて体も表情も強張った。安心させるように頬に手を添える。

「大丈夫、痛くはしません」
「…そういう、ことじゃ」

不安げに見上げてくる彼女の額、瞼、頬にキスを落として、ゆるゆると擦り付ける。くちゅ、と濡れた音が聴覚を刺激して、同じようにその音を耳にした彼女の体がピクリと跳ねる。

「気持ちのいいことだけです。約束しましょう」
「も、もう…十分、だから…」
「生憎、僕はまだ満足していない」

絶望的な顔で見上げられる。

「観念するんだ」

シーツを握っていた掌を強引に絡ませると、日向も諦めたのか、控えめに握り返して来た。それを合図に腰を進める。

「ッ…〜ッ!」

柔らかく熱い中。狭さと締め付けにこちらも歯を食いしばりながらゆっくりと侵入していく。日向もより強い力で掌を握りしめているが、痛くはないようだ。ぴくぴくと断続的に跳ねる体を見下ろしながら、奥まで収めようと腰に手を添えた。反射的に上にずりあがる腰を引き戻せばこつりと先端が最奥に届き、日向が喉を仰け反らせる。

「ひ、あ、あァ」
「はっ…日向」

動かずともきゅうと締め付けてくる中に耐えきれず、すぐに抽送を始める。押し出すように、絡みつくように、腰を引き抜きまた落とす。腰のあたりのセンサーがから感覚プロセッサに昇ってくる刺激でさっきからエラーが頻発している。マインドパレスは警告でいっぱいで、もはや煩わしさしか感じない。エラー表示をオフにして、ただ視界いっぱいに日向を収める。
日向は泣いていた。律動の振動で瞳から零れ落ちた涙はぽろぽろと止め処なく溢れ続け、眦にキスして舐めとっても次から次へと。苦しみや痛みからくるものではない。与えられる快楽に体と頭がついていかないのだろう。快楽に翻弄される他ない日向を好きにしているのは自分なのだと改めて認識してまた機体の熱が上がるのがわかった。このまま続けると熱暴走を起こす可能性がある、名残惜しいが一度クールダウンしなければ。
ゆったりとした動きで腰を引き抜く。それだけのことでも日向がまた鼻にかかった声で鳴くものだから、すぐに押し込みたくなったが、なんとか堪えた。
溜まった熱を逃がすため、シャツを脱ぎ捨てた。そして激しい動きではなくゆるゆると押し付けるように腰を動かすと、引き抜いたモジュールが時折陰核を撫で上げるその動きに日向がひっと不器用に息を呑んだ。

「…ここが好きなんですね」
「アッ、あ!」

先端で何度も摩ってやると日向が涙声で僕を呼んだ。

「なんですか?」
「もッ、そこ、やめ…、」
「中の方がイイ?」
「ンああっ!」

ぐちゅっと勢いよく腰を打ちおろす。びくりと仰け反った体に伸し掛かり、そのまま深く深くキスをした。…排熱などもう知ったことではない。腰を打ち付けるたびに律儀にびくびくと反応する日向が可愛くて仕方ない。もっと感じて欲しくて、先程見つけた膣内の一番敏感な部分に熱を押し付けると、一層強く締め付けられた。

「いッ、やぁあ!」
「日向、気持ちいいだろう?」
「だ、め!おか、し…く、なッ!」

腰の動きを速めながら、僕は笑っていた。おかしくなって仕舞えばいい。全部壊れて、堕ちて、めちゃくちゃになってしまえばいい。涙を零しながら嬌声を上げる日向に興奮は高まる一方で。日向の血流と自分のブルーブラッドの脈動がどんどん激しくなっていく。制御できない感覚に溺れていくようだ。
びくりと彼女の体が一際大きく跳ねる。絶頂を迎えたことも、その様子やナカの締め付けからすぐに気づいたが腰の動きは止まらない。夢中になって彼女の体を貪り、快楽を享受する。圧倒的な刺激の波の中で、見失わないように日向の頭と背中に腕を回してぎゅうと抱き込む。すると日向の腕が僕の背中に回って、同じように抱きしめられた。

「はッ…日向、日向」
「ンァッ、こなあッ!」

泣きながら首元に擦り寄る仕草、必死に僕を呼ぶ声、飛び出しそうな鼓動。打ち付ける腰はいよいよラストスパートと言わんばかりに速まり、日向の嬌声も悲鳴に近いものになっていく。

「ィ、あ!ま、た、コナぁ…ッ!」
「どうぞ、何度でも」

ぎゅうと抱きしめる力が強くなる。彼女の声にならない声と共に、かつてない強さで中が締め上げられ、あまりの刺激に思考回路が一瞬フリーズした。その隙に、処理しきれなかった快楽が感覚プロセッサにダイレクトに伝導され、擬似精液が彼女の中に放出される。想像以上の刺激にぐっと奥歯を噛みしめる。出し切るために腰を揺らすと、それだけでも思考回路が途切れそうになるほどの快楽が襲う。これは…クセになりそうだ。
僅かにも離れないようにぴったりとくっついていた日向の体から、名残惜しくもそっと自身を抜き取ると、ひくん、と体が痙攣する。顔を上げれば日向は浅い呼吸で四肢を投げ出していた。涙の跡を唇で伝い、キスを落とす。

「コ、ナー…」
「無理をさせましたね…すみません」

掠れた声で僕の名を呼ぶ日向に、僅かに罪悪感に似た感情が芽生える。そっと頭を撫でると、日向は目を閉じた。

「眠っていいですよ。後は僕に任せてください」
「ん…」

微睡みの中で頷く日向は怠惰な色気を放っている。緩やかな呼吸に投げ出された裸体。体の中心が再び熱を持つのを感じて頭を振る。今夜はもう十分だろう。彼女と繋がったという事実だけで、それ以上を求めるのは次の機会だ。次の機会があれば、の話だが。
先ずは彼女が安らげるように、体液で濡れた体とシーツを綺麗にしなければ。…擬似精液とはいえゴムくらい着けるべきだっただろう。それほど興奮し、余裕がなかったのかと自分でも笑ってしまう。苦笑いを零しながらサイドボードのティッシュペーパーを手に取り、太腿から濡れた肌を拭き取っていると、いつの間にか日向は寝息を立てていた。

「…おやすみなさい」

卸したシーツを体にかけて、自分も横になる。穏やかな寝顔を見て、「愛しい」という気持ちを実感しながら、僕も静かに目を閉じた。


雨は静かに降り続いている。

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