椿時雨


甘えさせる彼女


「んん…リオルやめて…」

こんなに、舐める子だっけ?なんとなく違和感を感じて目を開くと、視界に紫色。明らかにリオルじゃない。この重さ、匂い、思い当たるのは1人だけ。

「ダンデ?」

はっと起き上がるとすぐさま押し倒された。ぼふっとクッションに沈む。首筋に生暖かい感触を感じる。なに、なんでこんなことになってるの。わけがわからずダンデの名前を呼ぶと、返事の代わりにちゅう、と肌を吸う音がした。ぞっと鳥肌。

「うわわわわ」
「…」
「ちょっと、ダンデさん」
「…」

背中を叩いたり服を引っ張っても無反応。仕方ないので遠慮なく髪の毛を引っ張るとようやくダンデが顔を上げた。目が据わっている。よく見ればジャケットも着たまま。たぶんタワーから帰ってきたばかりなんだろう。

「ダンデ、どうしたの」
「…」

なにも言わない。これは、かなりお疲れだ。

「大丈夫?」
「…」
「…おかえり、ダンデ」

頭ごと抱きしめると、すん、と鼻を鳴らしてダンデが首筋に顔を埋めた。相当、疲れたんだろうな。頭を撫でるとまたちゅう、と肌に吸いつかれた。やめてーと言ってもお構いなし。ひたすら吸われるから思わず笑ってしまう。

「ふふ、赤ちゃんみたい…」

思わずそう言えばちら、と金色の瞳がこっちを見る。

「…甘やかしてくれるか?」
「え」

ぱちぱちと瞬き。
珍しい。ダンデがそんなことを言うなんて。いつもはわたしのことたくさん甘やかそうとするのに、今日は本当に疲れているみたいだ。いいよ、と返すとちょっとだけ目に光が戻ってきた。とりあえずクラバット外す?と聞くと外してくれと返ってきた。早速甘えたモードかあ、まあいいや。くっついているせいでよく見えないけど、手探りでダンデの首元のスカーフを抜き取る。と、ダンデが体を起こして首元を緩めた。ふう、と息をついてこっちを見下ろす。

「ご飯食べた?」
「軽くな」
「また軽食?ゼリーはご飯に入らないよ」
「んん…」

手を伸ばして頬を撫でると、すりすりと顔を寄せてくれた。かわいい、ワンパチみたい。ふあ、とあくびまで漏らしている。

「寝る?」
「嫌だ」
「嫌って」
「やっと帰ってきたんだぜ…もっと堪能したい」

何を、なんて聞かなくても自覚している。わたしもここ最近忙しかったから、ダンデと一緒にいられる時間はごく僅かだった。だからダンデとこうして触れ合えるのは、わたしもすごく嬉しい。仕方ないなあと言いながら顔が緩むのは抑えられなかった。よしよしと頭を撫でてやればダンデも大人しくのしかかってくる。正直かなり重いけど、今日くらいいいや。
ダンデが満足するまで抱き枕にされた後、2人でシャワーを浴びる。普段滅多に一緒には入らないけど、「一緒に入ってくれないのか…」と捨てられたワンパチのような顔をされては断れなかった。温かいバスタブにゆっくりと浸かって、彼の長い髪を乾かす。そしてそのままベッドへダイブ。シャワールームでも寝室でもぴたりとくっついて離れないダンデ。甘やかすって言っても私は抱きしめて頭を撫でたり、髪を乾かしてあげたりするくらいしか思いつかない。

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