平行線、されど幸福は近く
かっこいい幼なじみ、かわいい幼なじみ。
いつの時代でもそんな存在がいることは少なからず色々な人々の憧れであると思う、実際はどうか置いておいて。
*
「あいつマジふざけんな」
「私も今まったくおんなじこと考えてた」
教室の扉の斜め前、廊下の壁に寄りかかっているなまえの隣で、今にも舌打ちをしそうなほど憤っている岩泉が深いため息とともに罵言を吐き出した。
無理もない。なまえと岩泉の視線の先には、及川徹その人が楽しそうな表情を浮かべていた。
「一緒に帰りたいから待っててくれって言ったの、誰だっけな」
「岩泉クンの大親友じゃないですか?」
「#みょうじ#サンの幼なじみですよね?」
「岩ちゃん、ブーメランって言葉知ってる?」
みょうじなまえ、岩泉一、及川徹は幼なじみである。家が近所で同い年ということで、お察しの通り親同士が仲良くなり3人でいることが多かったのだ。
小学校、中学校、高校と同じところに進学した。なぜか3人は馬が合い、なまえは岩泉と及川が昔からやっているバレーボールを試合の際にはできる限り応援をしに行くように心がけるなどしている。
そして、どこまで馬が合うのか気が合うのか、高2春休み現時点ではまさかの志望大学が一緒なのだ。いい加減幼なじみ離れしなよ、とは3人が口々に言うものの、なんだかんだ一緒にいるのは楽しいし気が楽なので
志望校が被ったことは言わないだけで嬉しく思っている。
しかし、しかしだ。だからといって、部活終わりに人を引きとめて忘れ物を取りに行くのに教室まで付き合わせた挙句、同じく部活動で登校していた同輩や後輩(言わずもがな異性の、と前につく)に囲まれ笑顔を振りまいて話している幼なじみを待つほどなまえも岩泉も優しくはなかった。
「帰ろっか、岩ちゃん」
「そうだな、10分も待った俺たちは寛大だったしな」
「そうだね。たった10分かもしれないけどねえー、徹には」
口元に形だけの笑みを添え及川の耳にも届くような音量でなまえと岩泉がそんな会話をすれば、教室内で話し込んでいた及川が二人の方を振り向いた。
「二人ともごめんー」
「誠意が足りない、誠意が」
へらりと謝った及川になまえがそう切り捨てれば、隣で岩泉が深く頷いた。
「つーか俺、マジで帰るわ。なまえ、こいつと一緒に帰ってやれよ」
「え、岩ちゃん!?」
なんでよ! となまえが非難の声を上げれば、岩泉は表情を変えずに一言。
「この前今とまったく同じ状況があったとき、なまえに俺がさっき言ったみたいなこと言われて取り残された仕返しに」
幼なじみとは、ときに非情であるのだ。
つい先ほどまでなまえと同志とも言える相手であった岩泉の背中はすでに遠い。
「……ちょっと、徹のせいで岩ちゃん帰っちゃったんですケド?」
階段の奥へと消えていった元同志を見届けたあと、及川を振り返る。
「今の半分くらい自己責任じゃ……」
「うるさい、グズ川って呼ぶよ」
「ごめんって」
「許すから急いでねグズ川くん」
及川が何か言葉を返したがなまえは聞かなかったことにして早く、とさらに及川を急かす。
「ごめんねなまえちゃん、気付かないで及川くん引きとめちゃって」
「ううん、大丈夫ー」
謝ってきたクラスメイトと慌てて頭を下げた後輩たちになまえは気にしないでと笑顔を返し、鞄を肩に引っかけて教室を出てきた及川には、そのわき腹にチョップを入れた。
「痛っ!」
「あっ手が滑ってつい……!」
なまえが真顔でそう言えば、及川も負けじと言葉を返す。
「ほんっとにかわいくない幼なじみだな……」
「キャーオイカワサンコワーイ」
くだらないやり取りをしていれば、クラスメイトらからくすくすと笑い声が漏れた。
「くだらなくてごめんねー、特に徹が」
「いいよー、仲良くて羨ましい」
楽しそうに目を細めたクラスメイトがじゃあね、となまえと及川に手を振った。
「ばいばーい」
なまえと及川も手を振り返し、廊下を歩き出す。すると、ああいう言い合いって幼なじみって感じでいいよね、というような内容の会話が先ほどの彼女らの声で背中から聞こえた。
思わず二人で顔を見合わせる。ふわりと口元が緩んだのは同時だった。
「岩ちゃんにも聞かせてあげたいね」
「岩ちゃん、なんだかんだ言ってゆっくり歩いてくれてそうだから走れば追いつくんじゃない?」
じゃあ岩ちゃんに追いつこう! レッツゴー、と片手を高く振り上げて小走りで下駄箱に向かう。
靴を履き替え校舎を飛び出せば、校門の近くに岩泉の背中があった。
「岩ちゃーん!」
なまえの声に反応して岩泉が振り返るよりも早く、なまえと及川は岩泉の肩に腕を回した。
「うっわ、なんだよいきなり」
「なんでもなーい!」
楽しげに笑う幼なじみ二人に、岩泉は怪訝そうな表情をする。
「まあまあ、お母さん。細かいことは気にしない気にしない!」
「誰がお母さんだ及川てめー」
すっかり恒例と化したこのやり取りに、ついついなまえは笑ってしまう。こうして一緒に帰ることも、同じ時間を共有することも当たり前。だけどそれはやはり、とても幸せなことなのだろう。
「取り敢えず、今日は徹にアイス奢ってもらおうよー岩ちゃん」
「そうだな」
「え、ちょ……!」
1番高い奴を頼もう、と言い合うなまえと岩泉に、及川は諦めたようにわざとらしくため息をついてみせた。
他愛ない掛け合いが面白くて、ふとなまえが右隣に並ぶ岩泉とその隣に並ぶ及川を順に見やり顔を綻ばせれば、岩泉と及川も素直な笑顔をのぞかせる。
よく漫画であるような異性の幼なじみに恋をする憧れの展開なんてなまえたちにはないけれど、それでも軽口を叩き合えたりくだらないことで笑いながら一緒に帰ったりできる。そんなことがとても嬉しいのだ。
3人でじっと顔を見合わせていれば誰からともなく笑い声が上がる。夕日に照らされながらじゃれ合って歩く3人の影が、幸せそうに揺れていた