もっと怖い顔をしているのかと思った。
ぼんやり感想を浮かべながら、射るような眼差しを受け止める。月のように煌く色をした瞳は、奥の方でぎらぎらとした激情を孕んでいるように感じられた。
言の葉を必要とする魔法使いを無力化させるには、喉ひとつ押さえればいい。
この窮地から脱する方法が思い浮かばず、ただただ整った顔を見つめていると、鎖が擦れる音が鳴った。
「俺が勝った場合、これをどうするか決めていなかったな」
彼の左手から下げられるお守り。仮面の内にあった顔は意外と表情豊かで、今はお守りを小馬鹿にするように笑っていた。
「なぜこんなものに執着する? ただのガラスの継ぎ接ぎだろう。何の役に立つっていうんだ?」
「……」
答えようとして、口が開閉しただけで終わる。察した彼が少し手を緩めたので、しばし咳き込んだ。体から力が抜けて、汗がどっと噴き出してくる。
「まさか、絆の証とでも言うつもりか?」
「絆は、形じゃ、ない……」
荒い息の合間に出た声は掠れ、喉の奥がひゅうひゅう鳴った。
「けどそれは、アクアがくれた、みんなとお揃いの宝物……だから」
「下らないな」
彼の顔や声に侮蔑が混じる。
首から離れない手を振り払おうと、もがきながら嘲笑を睨みつけた。
「君にだって、大切なものくらい、ある、でしょう? 私にとって、っ」
彼の眉が跳ねたと思ったら、また声が禁止される。
恐怖や痛みに麻痺し、意識が混濁してくる。これから自分は彼にどうされてしまうのだろう。消されてしまうのだろうか。
彼がいっそう低い声で言った。
「……大切なものほど、壊れやすい。──こんな風にな」
お守りが地に落ちた。その上に彼の靴が乗り、渇いた割れ音が耳に届く。
「あ──!」
ぴき、ぱきん。
彼が靴を動かし音が続く。怒りのあまり魔力を溜めようとしたが、すぐに気づかれ力を増された。
「や……めてっ……!」
「だいたい、おまえがこれを持っていること自体、おかしなことだと思わないのか?」
「……?」
「また知らないフリを続けるつもりか」
フリではなくて、本当にわからない。目で訴えると、彼の唇が釣り上がった。
「仕方ないな──あの日の続きだ」
首を掴んでいた手が顎に移り、上を向かせられる。鼻先が触れるほどの距離まで顔が寄ってくるが、抗うことすら忘れて話に聞き入っていた。
「なぜ、キーブレードが使えないおまえがあの地にいた?」
それは、彼と初めて会ったときにされた質問。心の奥を暴かれるような錯覚に、心臓が大きく鳴る。
理由なんていらない。大好きなみんなと、毎日仲良く楽しく暮らせれば、それだけで。
けれど、あの地は選ばれたものがいずれ世界を守るために修行をする場所であって……。
資格を持たない者が、なぜ世界の秘密を知れる場所に存在を許された──いいや、存在しなければならなかったのか。
「…………」
「まだ分からないか?」
それ以上は考えてはいけない。疑ってはいけない。信じなければ。そうしないと──壊れてしまう。
無理やりに顔を逸らすと、くすくす笑い声が迫ってくる。
「なら教えてやる」
耳に吐息を感じるほどの距離から語られる、秘密を囁く甘い声。
嫌、嫌だ、知りたくない。そう言わなくてはならないのに、言葉がひとつも出てこない。
「いつか、おまえを消すためだ」