「もうすぐ日も暮れるし、あとは明日にしよ」
カイリの宣言で、みんなの作業の手が止まる。生乾きだった白布は見事な帆となって、立派なイカダができかけている。あとは板の長さをもうちょっぴり足せば完成だろう。
「リクの言ったとおり、明日には完成できそうだね」
「ああ。水と食料を積んで、明後日には出発だ」
「疲れた〜」
のんきのびをするソラに、みんなで顔を見合わせ苦笑する。
ボートへ向かう途中、桟橋の近くを通ったときにカイリが言った。
「島へ戻る前に、みんなで夕日を見ていこうよ」
カイリは、この島から見える夕日が大好きらしい。ティーダたちは帰ってしまったのか、もう姿はなかった。
パオプの木にソラがよじ登り足をぶらつかせると、その隣にカイリが座った。カイリに助けてもらいながら彼女の左隣に腰掛け、リクは一番左端で木に背を預けた。
正面にある圧倒的な輝き。すべてのものを赤く照らしながら、ゆっくり海と空の隙間へ落ちてゆく。満ちてゆく波のさざめきと巣に帰る鳥の鳴き声に耳を澄ませる。一日の終わりが近づいているのを肌で感じていた。
「……海の果てまで行ったら、カイリたちの元の世界があるんだよな」
おもむろにソラが言った。それに「わからない」と答えたのはリク。
「でも行ってみないと、わからないままだ」
「イカダでどこまで行けると思う?」
「さあな。ダメだったら別の方法を考えるさ」
ソラの更なる質問を、リクは片手を振ってあしらった。
「ねえ。リクは別の世界に行ったら何するの? ソラみたいに見れば満足?」
わくわくしたカイリの質問に、リクが少しうんと唸る。
「実はそんなに考えてない。ただ──俺は、俺たちがどうしてここにいるのか知りたい」
「ここにいる、理由?」
なぜだろう、心臓がドクリとし、思わず片手で胸元を押さえる。
「他に世界があるのなら、どうして俺たちはここでなくちゃダメだったんだろう?」
なにか焦燥に似た気持ちが溢れてきて、ドクドクが強くなった。
「他に世界があるのなら、ここは──そう、大きな世界の小さなカケラみたいなものだから──」
だめ、だめ。
「どうせカケラだったら──ここではない、別のカケラでもかまわないわけだよな?」
そんなこと、別に知らなくても──。
「わかんねぇ」
ソラが足を放り出し、木のうえで寝転がりながら言った言葉で我に返った。拳をつくっていたせいで、服にしわができている。
時折こみ上げてくる、変な気持ち。記憶を失ったせいで不安定なのだろうとお医者さまに言われ分かっているも、不愉快だし苦手──何より、怖い。
「そういうことだ。じっと座っていても何もわからない」
リクが木から背を離し数歩進んだ。その瞳は黄昏色の空の彼方を見つめている。
「自分で動かないと何も変わらない。同じ景色しか見えないんだ。だから動くんだ」
自分たちは彼の提案に賛同して、いっしょにイカダを作り始めた。大掛かりだが、それでも遊びの誘いだと思っていたのだけれど、リクは真剣な決意をもっているみたいだ。
「リクって、いろんなこと考えてるんだね」
感心したようにカイリが言った。リクがこちらを見る。
「カイリたちのおかげさ。カイリとフィリアがこの島に来なかったら、俺、何も考えていなかったと思う。ありがとう、カイリ、フィリア」
「なんだか照れるなあ」
「うん……えへへ」
カイリと顔を見合わせ、曖昧に笑いあった。