ドボンと水の中に落ちプハッと水面から顔を出す。洞窟の中にはいたるところに仕掛けがなされており、今はランプの間の入口を塞ぐ仕掛けを解くため冷たい河が流れる洞窟の地下を探索していた。
ジャスミンを想うあまりせっかちに進むアラジンは、早々に水から出て周囲を見回す。
「ランプの間を塞いでる柱は……たぶんあっちだ。みんな、急ごう」
「アラジン、ちょっと待ってよ。服を乾かさないと」
方向を確信するや、水浸しの状態で行こうとするアラジンを引き留める。彼はハッとしたあと苦笑して、濡れた髪をかきあげた。
「すまない。ジャスミンのことを考えると、いてもたってもいられなくて」
「急ぐ気持ちはわかるけどさ」
パンツまで濡れてる状態で戦うのは心地が悪いし、身動きもとりづらい。
隣でグーフィーが服の端をぎゅ〜っとしぼる。
「洞窟の中は涼しいから、このままでいたら風邪をひいちゃうよ」
「僕の魔法ですぐに乾くから、ちょっとだけ待ってて」
濡れた毛玉になったアブーが、アラジンから離れてドナルドに続く列へ並んだ。
「うぅ、つめたい……」
水滴を垂らす体を抱きしめて震えるフィリア。いまの服は水着みたいだけれど、性能はただの服だ。髪や薄布が濡れて肌にぺっとり張り付いた姿をなんだか見てはいけないような気がして視線をあちこちに飛ばした。顔が熱い。
みんなでドナルドに乾かしてもらったあと、アラジンに早歩きでついてゆき、無理やり岩をねじ込んだような、いびつな石柱を発見した。フィリアとドナルドと一緒にファイアの魔法で一部を破壊してみると、柱の継ぎ目がきっちり嵌る。これで先に進めるだろう。
「これで道が開けたはずだ」
「よし、行こう!」
長い階段を駆け上り、ランプの間へ唯一繋がっている宝物庫へ飛び込んだ。目が痛くなるほど黄金色した宝物に溢れたこの場所にいると、ドナルドとアブーの目つきが怪しくなる。地下で宝石を使った仕掛けを解いたとき、アブーが彼の体躯ほどもある大粒のルビーにしがみついてしばらく戻りたがらなかったことをきっかけに、アラジンは宝の前ではアブーをしっかり抱きしめるようになったし、自分たちもドナルドの両脇をグーフィーとがっちり固めるようになった。
読み通り、ランプの間への封鎖は解かれていた。ジャファー、ジャスミン、そしてジーニーもこの中にいるはず。戦闘になるぞ、準備はいいか。突入前にみんなで視線を交わし合って、頷きあった。
★ ★ ★
「例の子どもが?」
ジャファーがプリンセスを捕まえ、魔人の力によりこの世界の鍵穴を発見したとの報告を受け、再びこの世界へ戻ってきた。自分が去ってからさほど時間は経っていないはずだが、さすがこの世界の支配者となった男である。
まさしくこの世界の心の鍵穴であることを確認している間に、ジャファーはペラペラとここに至る経緯を述べてきた。重要なのは、あの鍵を持った少年のこと。
「我々の存在にも気づいているようだ」
意外であったが、想定内のことではある。なにせ、あの王の手下と共にいるのだ。しかし、こちらがどこまで先手を打っているかまでは彼らには分かるまい。
「リクといったか。なぜあの少年に真実を教えないのだ?」
ジャファーはしきりにこちらの顔色を窺っていた。情報を引き出し、利用し、取り入って――いつかはこの魔女すら裏切り本当の意味で世界の支配者になろうとする算段なのであろう。
「そうすれば我々の計画も――」
そこで、ドタバタと品のない足音をたてて勇者一行がやって来た。装いを変えたのか、映像とは違う姿をしたあの少女もいる。他の者たちがこの魔女を見つめ息をのむ中、ひとりだけその後ろの鍵穴をひたと見つめていた。面白い――やはり、彼女は見極める価値があるかもしれない。
「おまえがマレフィセント?」
キーブレードの勇者が迷子の仔犬のような表情で訊ねてくるが、邪魔者の始末は手下の仕事である。ジャファーに任せ、またしばし姿を消すこととした。
★ ★ ★
マレフィセントはシャドウのような漆黒に身を包んだ長身の魔女で、こちらに強大な魔力の気配と威圧感を与えていった。ソラが話しかけたのに彼女は全く眼中にない様子で消えてしまって、場が一瞬静まり返る。
「ジャスミンを返せ、ジャファー!」
すぐに彼女を知らないアラジンがジャファーに怒鳴る声で我に返った。ジャスミンはジャファーの後ろ、鍵穴の側で倒れていた。気絶しているようで返事がない。
ジャファーはアラジンへニタリと笑い、マントを優雅に翻した。
「そうはいかぬ。彼女はプリンセスの1人だからな。扉を開く力を持つ7人のプリンセスの!」
「扉を――」
「開く?」
「その扉の先を君たちが見ることはないがな」
グーフィーとドナルドを嘲笑したジャファーがランプを掲げる。その視線の先には、しおれた花のような様子で浮かんでいるジーニーがいた。
「ジーニーよ。ふたつめの願いだ。こやつらを叩きのめせ!」
ジーニーはげんなりとした表情だったが、やはりジャファーに従って、ぐんと体の体積を増させ、こちらに拳をふりあげ寄ってきた。ジーニーは友達だし、ハートレスを指を鳴らすだけで消せる彼に本気で襲われて勝てるだろうか。彼に剣を向けられないアラジンが彼に訴えた。
「やめてくれ。ジーニー!」
「ごめんよ。アル。ランプを持ってる人間がご主人様なんだ」
ジャファーの魔法で鍵穴と出入口が封鎖されるのを合図に、戦闘が始まった。