アラジンの鼻先からだいぶ離れた場所を目を瞑ったジーニーが「えーい」と殴る。太い腕が風をきり、勢いあまってくるくると回っている様にジャファーが神経質そうな細眉をつりあげた。

「何をやっている。ばかもの!」
「あら〜? 避けられちゃいましたァ」

 すっとぼけた様子で答えるジーニーに業を煮やしたのか、顔をしかめたジャファーが蛇の形をした杖を構えた。マーリンやマレフィセントほどの深淵さがなくとも、ジャファーだってこの世界でトップクラスの魔法使い。ハートレスと違って言葉を交わせるのに分かり合えない、世界を闇に堕とそうとしている邪悪な大人との初めての戦いに身震いした。彼を倒せなければジャスミンが、ジーニーが、この世界がどうなってしまうのか――悪い考えにとらわれて足が止まってしまいそうだったが、躊躇わずにジャファーへ立ち向かってゆく仲間たちの姿と、逆らえないなりに抵抗してくれているジーニーからウインクされたとき、体は自然と前へ進んだ。

「覚悟しろ。ジャファー!」

 一番にソラがジャンプしてジャファーに斬りかかる。とっさに杖で防いだ彼は「なめるなよ、小僧!」と炎をまとわせた杖を振り回した。大量の火の粉が降りかかるまえに、エアロを唱えてソラを守る。
 ソラが防御しながら数歩下がるのと入れ替わりグーフィーの盾やアラジンの剣、ドナルドの杖がジャファーへ殺到するも、彼が杖を地に打ちつけると衝撃派が発生して、みんなをたやすく振り払ってしまった。

「うっとおしい虫けらどもめ。わしの力を思い知らせてやろう」

 魔法で宙に浮いた彼は、部屋の上空をスイスイと飛び回り、杖の蛇飾りの眼からサンダラを撃ってきた。当たると怪我では済まない電撃に臆さず、魔法を避けながら追ったソラがキーブレードを振るうも、あとちょっとの所で届かず簡単に引き離されてしまう。
 走って追いつけないのなら魔法の出番だ。
 掌を合わせるように構え、瞬時に炎の魔法を具現する。魔力を食らって燃え盛る火炎は慣れてきたこともあり、何十回も連続で撃てるようになった。

「燃えろ!」

 火の力をジャファーを狙って解き放つ。魔法の中でも特に高い追尾性を誇るファイアはジャファーをぐんぐん追いかけて、マントに触れたところで爆発した。ソラやドナルドも一緒にファイラをたくさん唱え、宙にいたジャファーはあっという間に太陽のように燃え盛る。その少し離れた上空ではジーニーがカツラをかぶり「アラジン、チャチャチャ、ヘビなんてぶっとばせ」とチアリーダーの恰好をして踊っていた。

「えぇい、調子に乗りおって……!」

 煙に包まれたジャファーからうめき声がする。シャボン玉のような虹色のバリアを張って身を守ったジャファーは、脂汗を浮かべ、ぜいぜい肩で息をしながら着地した。上等なマントやターバン、ヒゲまで黒焦げた姿は、出会った時のような威厳さに欠ける。

「まとめて始末してやる!」

 ランプの間の空気がピリッと震えた。霧のように、あたりがジャファーの邪悪な魔力で満ちてゆく。

「ウーン。何か、凄そうだよ」
「唱えさせちゃダメだ!」

 ぽやんと呟いたグーフィーの横でドナルドが叫んだ。鬼気迫る声にみんなで慌ててジャファーを止めんと走り出したが、自分からは魔法を唱えても間に合わないほど距離がある。
 掲げた杖をぐるぐると回しながらぶつぶつ唱えるジャファーへ、ソラとアラジンが左右から同時に斬りかかろうとした時に彼の魔法が完成した。ランプの間のにブリザガによる大きな吹雪が巻き起こる。魔力で作られた巨大な氷がブリザードとなって襲いかかってきた。視界一面が真っ白に塗りつぶされるなか、暴風にのまれた仲間たちの悲鳴が聞こえてくる。

「みんなっ」

 数十秒だけとはいえ魔法でこんな激しい吹雪をつくれるなんて。とっさにエアロを何重にも重ね自分の身だけは守れたが、他の仲間たちは擦り傷や打撲だらけだった。足から血を流すソラに、頭の上で星を回しくらくらしているドナルド、盾が凹んでしまったグーフィー。特に重傷だったのはアラジンで、まともに魔法をくらってしまったようだ。全身痣や裂傷だらけで、あちこちから血を流しうずくまっている。

「アラジン、いま傷を癒すから」

 慌ててアラジンに駆け寄りケアルを唱えはじめると、上空からジーニーが「これでもくらえー」と言いながら緑や透明の回復効果のあるボールをたくさん投げてくれた。それをアブーがかきあつめてアラジンへ次々差し出してくれたこともあり、アラジンの傷はみるみるふさがってゆく。

「うぅ、ジャスミン……」
「小汚いドブネズミめ。おまえごときが、ほんとうに姫に愛されると思っているのか」

 未だ目覚めぬジャスミンを見やりアラジンが呟いたのを、耳ざとく聞いたジャファーが高い場所から見下ろし嘲笑ってきた。

「ジャスミン姫は、新たなアグラバーの支配者たるこのわしの妃となるのだ!」

 その瞬間アラジンの表情が引き締まり、瞳は怒気に満ちた。治りきっていないケガがあるのに、刃こぼれした剣を握りしめてジャファーへと走り出す。

「ジャスミンは僕が守る!」
「アラジン! まだ傷が――」
「フン、愚か者め。ふさわしい最期をくれてやるわ」

 ジャファーがアラジンに杖を向けてあの電撃を放とうとしていた。当たってしまったら今度こそ命に関わるかもしれない。アラジンの様子に気づいたソラたちも、それぞれ傷を治したようでジャファーへ走り出していた。
 自分も援護しなくては。ファイアでは間に合わない。今からここから放ってジャファーの動きを一瞬でも止められる魔法は――。トラヴァースタウンで唱えた雷の魔法をイメージしながらファイアの時のように掌を構える。

「お願い!」

 しかし具現したのは掌くらいの雷弾だった。えっと驚く暇もなく、願った通り目にも止まらぬ速さで飛んでゆきニタニタ笑っていたジャファーに当たって彼をピシャッと感電させる。

「ぐぁっ!?」

 ジャファーがアラジンへ魔法を解き放つ寸前で動きを止めた。その隙にドナルドのブリザドがジャファーの足を地に縫い留め、グーフィーの投げた盾がジャファーの顔面にバコンとぶつかり、彼が真っ赤な顔で大きくのけ反ったところをアラジンとソラが同時に斬りつけた。終いにジャファーの杖に宿ったままであった電撃が暴走し、彼自身を襲う。

「うう、あああ!」

 ジャファーが大きな悲鳴をあげて、うつ伏せに倒れる。部屋を塞いでいた光の壁が消え失せた――勝ったのだろうか。

「ぃやったー! 最高! やるじゃないの!」

 アラジンを先頭にジャスミンの元へ駆け寄る横で、ジーニーがチアガール姿のままポンポンを振って勝利を祝福してくれていた。

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