はしゃいでそこらじゅうを走り回るピノキオを連れて、クジラの腹の中を適当に進んでいた。未だソラたちは追いついてこない。

「そんなにあの子たちが気にかかるかい」

 ピノキオが少し離れたタイミングを狙ったように、突如、背後にマレフィセントが現れた。どうせ予定のないこの寄り道を、いつもの水晶で見ていたのだろう。

「あの少年はおまえよりもキーブレードと新しい仲間を選んだというのに」
「別に気にしてるわけじゃない。ちょっとからかってやっただけだ」
「そうかい。まあ、いいけどね」

 全て見透かしたような態度がうっとおしい。早くいなくならないかと思っているこちらにかまわず「それと」と魔女はまだ話を続けた。

「あの少女を連れてゆくなら、船を使いな。とても闇の力に耐えられそうにないからね」
「フィリアを――?」
「おや。そのつもりだったんじゃないのかい」

 マレフィセントに指摘されて不覚にも動揺した。もちろんフィリアが望めば連れて行くが、故郷ではいつもソラにくっついていた彼女の方から、ソラと離れてまで自分の方へ来てくれるとは思えなかった。
 魔女が歩き出して、自分の横を通ってゆく。

「心の中の闇に気をつけな。ハートレスの大好物だからね」
「俺は大丈夫だって言ってるだろ!」

 闇の中に消えてゆく背に怒鳴るも、魔女は何も答えず消えて行った。闇を操る魔女め。別世界にいても、いつも見張られている。

「――きゃああぁっ!」

 苦々しく魔女の消えた場所を睨んでいると、すぐ隣の空洞から少女の悲鳴が響いてきた。ここにいる少女はひとりしかいない。
 考えるより先に体が動いた。通路をくぐれば、すぐにバレルスパイダーにのしかかられているフィリアの姿が見えた。目をつむり、腕で頭を守っている。瞬時にソウルイーターを出し、ダッシュしながら斬りつける。一撃でハートレスは心をはじき出して霧のように消え去った。

「……リク!」

 おそるおそる目を開いたフィリアがこちらを見てパッと表情を明るくするだけで、心のどこかが満たされてゆく。どうやら数多のハートレスに襲われたらしい。さっき会った時よりも髪は乱れ、ややくたびれた格好になっていた。

「怪我はないか?」
「うん。ありがとう、リク」

 フィリアに笑み返しながら周囲を探る。さきほどまで一緒だった仲間たちがひとりもいない。

「ひとりなのか――ソラたちは?」
「私の不注意で、はぐれちゃって」

 しょんぼりとうなだれるフィリア。どんな理由があれ、こんな場所で女子をひとりにするなんてソラたちの無能さに腹がたった。あと少し遅れていたらどうなっていたか。自分ならばもっとしっかり守れるのに。

「リク、ピノキオは?」
「あぁ、こっちだ」

 フィリアと歩き出そうとしたところで、またハートレスたちが現れだした。とっさにフィリアを背に隠し対峙する。

「リク」
「フィリア、下がってろ」

 どれもホロウバスティオンに侍っているハートレスよりも弱かった。片っ端からソウルイーターで切り捨てていると、ふと、ハートレスたちが少しおかしいことに気がつく。ほとんどのハートレスの視線がこちらを向いておらず、フィリアを見ているのだ。
 そのことに気づいた瞬間、全力で駆け、斬りつけ、容赦なく全滅させた。終るなりフィリアの手を掴み、闇が薄い場所へと連れて行く。





★ ★ ★





 一騎当千のような戦いを見せたリクに連れてこられたのは、他よりもせまい空洞の中だった。
 どうやら、この中ではハートレスは現れないようだ。
 ソラと話していた時はなんだか別人のように冷たかった様子のリクが、自分を助けてくれて、微笑んでくれて、いつものように優しくしてくれた。自分の知っているリクだとホッとする。
 ふと足を止めて、掴んでいた手を離し、リクは振り向くなり優しく言った。

「フィリア。俺と一緒に行かないか」
「えっ?」

 想像もしてなかった提案に、思わずポカンとしてしまった。真剣な表情のリクが、強めに両肩を掴んでくる。

「俺ならソラと違って、絶対におまえを守ってみせる」
「リク……?」

 ソラに対して棘のある言い方が気になった。自分の不注意だと伝えたのに、リクはソラに怒っているのだろうか。

「私、みんな一緒がいい。リク、ソラと仲直りして。ソラにはリクが必要なの」
「あいつが、俺を? とてもそうとは思えないね」

 リクの顔色がサッと不機嫌なものに変わっても、必死に続けた。

「ソラはキーブレードの勇者になっちゃったから、世界を救わなければならないの。私、リクにソラを助けてあげてほしくて――」
「どうして俺が。あいつには、あの新しい仲間がいるだろう」

 リクから突き放されるような口調で拒否されることなど初めてで、怖くなり思わず口ごもってしまった。リクだってドナルドとグーフィーと仲良くできるはずである。トラヴァースタウンで反対されたことで、ふたりのことを誤解してしまったのだろうか。
 悲しくてうつむくと、リクが頬に触れてきて、顔を上げさせられた。水色の瞳は真摯な眼差しをたたえている。

「それに、助けがいるのはフィリアのほうだろ」
「私?」
「フィリア。おまえ、ハートレスに狙われているんじゃないか」

 どうしてそれを。
 言わずとも察したらしい。突然、リクに引き寄せられて抱きしめられた。唐突なことに恥ずかしいやら困惑するやらで、頭の中が真っ白になる。

「わ、わっ、リク!?」
「約束しただろ。俺がフィリアを守ってやるって」

 耳元で低く囁かれて、なんだか頬が熱くなる。旅立つ前に交わした約束を覚えていてくれたことは嬉しかった。

「だから、俺と一緒に行こう」
「でも、リク。私……」

 なんて答えれば良いのだろう。ソラとリクはもちろん、ドナルドとグーフィーからだって離れたくないのに。けれど、リクが嫌がっているのにこれ以上お願いするのは自分のワガママなのだろうか。自問がどんどんわいてくる。
 せめてリクと行けばソラの負担にならずに済むのだろうか。それと、これを断ればきっとリクはまたひとりで行ってしまうような不安があった。ならば、リクと行くべきなのだろうか。
 答えられずにいると、パシャパシャと軽快な足音が近づいてきて横を素通りして行った。ピノキオの後ろ姿が続く通路の先へともぐりこんでいく。続いてやってきたのは複数人の足音。ピノキオを追いかけて、ソラたちが現れた。

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