「ピノキオ。もう、待てってば!――えっ?」

 こちらを向いたソラの瞳が怒りから驚きに変わる瞬間を見て、いまの自分の状況を思い出した。はぐれた仲間が友だちと抱き合っているなんて想像もしていなかったであろうソラたちは「なんでふたりが抱き合ってるんだ?」と言わんばかりに口をパカッと開いて硬直していた。
 自分の方は、さっきまであれこれ悩んでいた思考が全部吹き飛んで強いショックを受けていた。頭の中は「ソラに見られた」のひとことでいっぱいになり、恥ずかしくて、慌ててリクの腕からぬけだそうと試みる。

「ちが、違うの、ソラ。これは、その……!」

 何が違うのか、どう違うのか。説明できないくせに、口をからそんな言葉が飛び出すばかり。
 ソラが「えぇと……」と返答に困った様子に更にいたたまれなくなって、この場から逃げたくなった。

「ーー私、ピノキオを追いかける!」

 リクがあっさり手を離してくれたので、隣の通路の先へと逃げる。ソラが名を呼ぶ声が聞こえたが止まらなかった。



 他の空洞はどこもいびつな形をしていたが、そこはきれいな円の形に形成された場所だった。中央に向かってアリ地獄のように傾斜がかった不思議なつくりになっている。
 ソラに変な誤解をされてしまったらどうしよう。熱をもった頬を押さえながら歩いていると、ピノキオはちょうど中央近くに立っていて、ふふふと楽しそうに笑っていた。

「鬼ごっこ、とっても楽しかったね!」

 無邪気に笑いかけられてしまい、なんだか怒る気持ちがなくなってしまう。鬼ごっこは終わりなのか、近寄っても、もうピノキオは逃げなかった。

「ねぇ、お父さんが言っていた緑の化け物、見た?」

 グリーンレクイエムのことだろうと考え、彼に頷く。

「僕も見たんだ。キラキラッて光ってキレイだったね!」
「あれは、本当はとっても危険なの。もうこんなところで遊んじゃダメだよ」
「えぇ、でも……」
「大切なお父さんを心配させたり、悲しませたりしちゃダメ。ね?」

 人を叱ったことがないので、こんな感じでいいのだろうか。とりあえずピノキオが「はぁい」と答えてくれたのでホッとしたのも束の間、突然何かが落ちてきて足元がドンと揺れる。大きなカボチャみたいな顔の上に、長い触手を持った顔がくっついている巨大なハートレスだと分かった次の瞬間には、下の顔の口が大きく開いてこちらを呑みこもうとしていた。

「――ピノキオ!」

 巻き込んでしまう! とっさにピノキオを突き飛ばしたが、ハートレスのほうが上手だった。触手が包み込むように伸びてきて、ピノキオごとハートレスの口の中へ放り込まれる。

 



★ ★ ★



 

 フィリアを探しているとピノキオを見つけ、鬼ごっこだとはしゃぎながら逃げるピノキオを追いかけ回していたら、突然はぐれたフィリアがリクに抱きしめられている場面に遭遇した。
 一瞬、心臓が痛いと思うほどドクッと鳴る。
 フィリアが無事でよかったけれど――リクとフィリアってそういう関係だったのか? モヤモヤぐるぐる考えている間にフィリアがこちらに気づいて「ちがう」と言うものだから、何がどう違うのか更に混乱した。フィリアは真っ赤な顔で、ついに泣きそうな感じになって

「私、ピノキオを追いかける!」

 と、呼び止めるも奥へ行ってしまった。島では誰に対してもぽやぽやと微笑んでいたフィリアのあんな顔、初めて見た。
 一方で、リクは赤くなるどころか鋭い目つきでこちら見ていた。その視線に冷や水をかけられたように、ハッとピノキオの件を思いだす。

「リク、何でこんなことするんだよ!? 何やってるかわかってるのか?」

 戦えない無防備なピノキオを、自分への当てつけのようにこんな危険な場所で連れまわすなんて。からかいの範疇を超えた行動へ怒っているのに、なぜかリクはもっと怒った顔をしていた。

「ソラ。おまえこそ何をしてるんだ? あちこち飛んでっちゃ、そのキーブレードを得意げに振り回してるだけじゃないか」

 指摘され、思わず手元のキーブレードを見おろす。突然この手に現れたこの不思議な剣の使命に従ったのは、リクとカイリを見つけるためだ。後悔はないが、確かにしたかったことだけをできてきたわけじゃない。

「フィリアだって、さっき俺が助けていなきゃハートレスに食われていたぞ。傍にいる子すら守れないくせに、本当にカイリを助ける気があるのか?」
「それは――」

 カイリを見つけ、助けてあげたい気持ちは本当だ。けれど未だカイリの手がかりすらつかめていない状況で、いまのリクの言葉に言い返すことができなかった。
 うつむいたとき、隣の部屋から悲鳴が聞こえた。フィリアとピノキオのもの――。
 みんなで急いで駆けつけると、フィリアとピノキオが巨大なハートレスの口の中に閉じ込められていた。ふたりを閉じ込めている下の顔の、隙間だらけの歯の部分がちょうど牢獄の檻の役割をしている。ピノキオがそこから顔を出して「助けて!」と何度も大きく叫んでいた。

「ソラ! リク!」

 フィリアの呼び声に、今助けると頷き返す。
 リクの横に立ち並ぶと「倒せるか」と問われた。先ほどのいざこざはちっとも解決していないが、リクが共に戦ってくれることは素直に嬉しい。

「やれるさ! リクと俺なら」

 リクは不機嫌そうにフンと鼻を鳴らしたが、それでもコウモリの羽根のような剣を取り出して、いつものように構えた。

「ついてこれるか」
「そっちこそ!」

 リクと、ドナルドとグーフィーと四人でハートレスに向かってゆく。リクについて気になることはいっぱいあるけれど、今はフィリアたちを無事に助け出すことだけを考えた。





★ ★ ★





 ソラたちとリクが協力して助けようとしてくれている。
 望んでいたはずの光景――しかし、嬉しいと思う余裕はなかった。ハートレスの内側から魔法で攻撃しようと思いきや、急速に生気を吸い上げられてるような感覚に襲われ、身動きどころか意識を保つことで精一杯だ。
 隣では、先ほどまでしきりに「助けて」と叫んでいたピノキオが、ぐったりと目を閉じてしてしまった。
 せめて何かできないだろうか。残り僅かな魔力で彼にケアルを唱えると、いつもよりだいぶ小規模な輝きがふっと現れ木の腕に吸い込まれた。

「私も……もう……」

 ぶあつい外壁が剣や魔法で攻撃される音を聞きながら、どんどん意識が闇に沈んでゆく感覚に抗えなかった。




★ ★ ★





「ソラ。真横から狙え」

 リクの短い助言に従い、巨大ハートレス、パラサイトケイジの横に滑り込んだ。正面は攻撃されて危険だし、背面はぶよぶよしていて攻撃を弾かれていたが、真横の口の端ならば確かな手ごたえ。振り回される触手はドナルドとグーフィーが引きつけてくれているので、リクと両側から何度も繰り返し攻撃した。
 腹の中で苦しそうに倒れてしまったフィリアとピノキオが気になって仕方がない。早く助けないと。

「ふたりを放せ!」

 キーブレードを思いきり振り下ろすと、ついにパラサイトケイジはバテたように力を抜いた。もう少しだ! もう一撃おみまいしてやろうとしたら、なんと歩きすらしなかった巨体が跳んで天井に張りついた。

「この――!」

 さすがにあの高さは届かない――魔法を使おうとした時、パラサイトケイジが牢にしていた口をパッカリ開けた。中にいたふたりがボトボト落ちて、先ほどまでパラサイトケイジが立っていた場所にあったらしい、穴の中に吸いこまれてしまう。
 誰よりも先に反応したのはリク。どこへ続いているかも分からぬ穴へふたりを追いかけ飛びこんでいった。

「僕たちも行くぞ!」
「おう!」

 ドナルドの号令でみんなでいっせいに穴に飛び込み――三人ぎゅうぎゅうに穴につまる。

「ちょっと、なんで一緒に飛びこむんだよ!」
「僕が先だ!」
「いたいよぉ」

 ジタバタ暴れ合ったため、全然抜けない。こんなことしてる場合じゃないのに!

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