薄暗いモヤに包まれて、リクの姿が消えてしまった。自分も魔法を扱えるようになったから、アレは魔法に似て非なるものの力だと分かる。――どうしてリクがあんな力を?
「フィリア、ピノキオと一緒に安全なところへ!」
ソラの鋭い声で、この状況に集中する。せっかく助かったのだ。今度こそピノキオを守ると心の中で誓う。
「ピノキオ、こっちへ!」
パラサイトケイジがこちらに向かって口を広げたが、ソラが口端をなぐりつけるとよろめいた。その隙にピノキオの手を引いて部屋のなかで一番遠い場所へと走る。パラサイトケイジが触手を使ってまき散らす胃酸からドナルドの風魔法やグーフィーの盾が守ってくれた。ソラは紙一重でパラサイトケイジの攻撃を全て避け、ジャンプしながら何度もキーブレードで攻撃している。
自分よりも大きなハートレスへ臆せず勇敢に戦うソラの姿はとても凛々しく、サポートしているドナルドとグーフィーも同じように立派だった。
魔力も吸われ、武器も扱えず、ハートレスに狙われている自分はいつも守られてばかりで、先ほどのソラとリクの対峙中、口をはさむことすらできなかった――。
ピノキオを包むエアロだけは絶やさぬように気を配りながら、悔しさのあまり唇を噛んだ。
ソラのトドメの攻撃で、ついにパラサイトケイジが大きな心を吐きだしながら倒れたとき、部屋の中が激しく揺れだした。壁の側に寄れば脈動しているが、いままで大して動かなかったため実感が薄かった。やはりここはクジラの腹の中。胃液が激しく飛び散り、酸性の濃い霧が発生して非常に危険な状態となる。
「逃げろォ!」
ドナルドがみんなに指示するが、ソラだけ足を止めて留まろうとした。
「リク! どこだ、リク」
「ソラ!」
とっさにソラの腕を掴んだ。ソラが焦った顔で振り向く。
「フィリア、リクは!?」
「リクは……もう行ってしまったよ」
その瞬間、ソラが泣いてしまうかと思った。彼はぎゅっと眉根を寄せて、もう一度先ほどまでリクが立っていた場所を見た。
★ ★ ★
フックの船の船長室の中。上等なソファへ横たえたカイリを見つめていた。苦労して見つけた友は、生きているのに全く意識が戻らなかった。
「もう戻ってきたのかい」
ぼうっとカイリを眺めていると、再びマレフィセントが現れた。いまのカイリの状態について魔女はツラツラ無感情に語る。健康状態に問題はない。けれど彼女の心がどこにもない。故郷が闇に堕ちた際に心を失ってしまった。このままだと永遠に目覚めない。
「カイリは心をなくした人形だって言いたいのか――?」
「その通り」
体の維持はマレフィセントが魔法でどうにかできるものの、失われた心をどうにかする魔法はないらしい。
「カイリの心は――」
「ハートレスに奪われたんだろうね」
「どうすればいいんだ!」
ハートレスなんて世界中にどれだけいるか。その中でカイリの心を奪ったハートレスを探すなんて、砂漠で一粒の金を見つけるよりも途方もない話である。
「7人のプリンセスを集めればいい。そうすれば世界の中心――私は世界の心と呼んでいるがね――そこへの扉が開く」
それがマレフィセントの目的であり、自分にジャスミン姫を攫わせた理由かと理解しながら、しかし黙って話を聞く。
「そこは知識の宝庫だ。カイリの心を取り戻す方法は必ずそこでみつかるさ」
「……プリンセスを集めればいいんだな」
どれだけ胡散臭かろうが、それだけが唯一の希望ならば信じるしかない。
マレフィセントが「それだけじゃない」と薄く笑う。
「扉が現れても、世界の心にたどり着くには標がいるよ。果てしなく深い闇の奥にあるからね」
「標?――それはどんなものだ?」
「おまえもよく知っている――フィリアさ」
驚き、思わずマレフィセントを睨んだ。なぜそこでフィリアの名がでるのか分からなかった。
魔女はいつものように淡々と話を続ける。
「あの娘に自覚はないようだがね。けれど、ハートレスを見ていればわかるさ。あの娘を闇の中へ引きずりこみたくてウズウズしているってね」
「それが、フィリアがハートレスに狙われている理由なのかーー?」
フィリアを前にしたハートレスの反応は先ほど見てきたばかりだ。
マレフィセントが両腕を広げた。長い袖が翼のように大きく広がる。
「そうだ――おまえに力をやろう――ハートレスを操る力を――」
体がマレフィセントの魔力――黄緑色の輝きに包まれる。心の中に存在を感じていた闇の力が、そこらへんのハートレスなど簡単に取り込めるほどに強く、大きくなるのをありありと感じた。
「カイリ、待ってろよ」
この力があればフィリアをハートレスから守ってやれる。カイリを救うことができる。寝返りさえうたないカイリを見つめながら、拳を強く握りしめた。