「やっと来たか。待ってたぜ。ジャック」
入口正面に大きな腹の薄汚れたずだ袋の化け物が立っていた。三角形の黒い目と、袋を切り裂いたような大きな口をニタァと歪ませている風貌には、恐怖より先に嫌悪感を覚える。
ジャックは指さしながら、ずだ袋へ言った。
「ブギー、心を返せ!」
「ざーんねん。ちょうど俺のお食事タイムだ」
ゲタゲタ笑い返すブギー。袋の先端、指のない手で掴んだ心を、大口を開けてまる呑みした。「あっ」という顔をするこちらを見てブギーはざまあみろと笑い続ける。
「さあ、このブギー様の元に集まれ。ハートレスよ!」
心を盗んだのはやはりハートレスを操るため。とっさにみんな身構えたが、両手を掲げるブギーの側に侍ったのはガーゴイルが二匹だけだった。
左右を見て「これだけ!?」とショックを受けるブギーに聞こえる音量でソラが言う。
「フィリアの方がもっとたくさん呼べそうだな」
「ぐぬぬ……このブギー様をコケにするつもりかあ!」
ブギーが怒鳴った瞬間、周囲の装置が動き出す。背後で爆風がおきてスロットの中へつき落とされた。スロットは赤と緑が交互に配された下地でオバケ、黒猫、ガイコツ、蛇などイラストが描かれており、中央近くには怪しげなボタンも点滅していて、目がチカチカする。
一方でブギーは降りてこない。こちらを見下ろしてスキップしながら喜んでいた。
「楽しいショーの始まりだ!」
サイコロを数個投げ入れてきたと思ったら、床に落ちた途端小規模な爆発を起こす。魔法に比べたら弱いものでも、まともに当たったら軽い火傷では済まないだろう。少しでも身を守るためみんなに風の魔法を纏わせた。
「さぁて、何が出るかな?」
ブギーの場所までは壁が高すぎて近づけないためキーブレードや盾の攻撃が届かないし、ブギーはこちらの遠距離攻撃が当たりにくい場所へと逃げられるので、圧倒的に不利だった。
ブギーはこちらの炎の魔法を躱しながら今度は爆発しないサイコロをふたつ投げてくる。出たのは一のゾロ目だ。
「ほぅら、足元に気をつけな!」
甲高い機械音を鳴らしながら丸いノコギリ刃が足元を駆け巡りはじめた。刃はあの広場のギロチンのようによく研がれていて、新品のように光っている。
ブギーはぴょこぴょこ跳んで避けるこちらを手を叩いて笑った。
「ジャック。お前がいなくなればハロウィンタウンは俺のものだ!」
「そんなことさせるもんか!」
ジャックがブギーをキリッと睨むけれど、ジャンプしながらだから、なんだか締まらない。
調子にのって投げられるブギーのサイコロに従って、天井から吊り下がってきた大きな鎌の刃がルーレットのように回りだしたり、人形が鉄砲を撃ってきたり、ハートレスが現れたりした。ブギーは翻弄されるこちらを文字通り高みの見物をして楽しんでいる。諦めずに魔法や遠距離攻撃を続けたらいくつかはかすめる程度に当たったものの、紫の煙のシャワーで回復された。
「くそー、もっと近づければなぁ!」
ソラがキーブレードを握りながら歯噛みする。
何回目かのサイコロ爆弾を避けようとして、うっかりルーレット中心部にあるボタンを踏んでしまった。足をくじきそうになったので見てみると、ボタンは先程よりも強く光を放っている。なんだなんだと眺めている間に、乗っていたルーレットのポケットの縁から柵が生えてきて囲われた。一瞬、罠かと思ったが、その柵の一角のみせり上がり、ブギーと同じ高さになる。
「そういうことか!」
このステージの仕掛けが分かれば、あとは簡単。一度はブギーに平手打ちで叩き落とされてしまったが、二度目はソラがキーブレードで強かに打ちのめし、打撃の衝撃でブギー口から何かがボロッとこぼれた。糸状の小さいもの。
「これは、虫か?」
ソラがブギーから距離をとり、落ちたミミズを確認する。すると一度零れ始めると止まらないのか、どんどん虫たちがブギーの口や目の隙間から逃げ出し始めた。まるで虫の洪水だ。おぞましい光景に喉の奥がひきつる。
「あっ、そんな、だめだ、いやだぁ……!」
ブギーは抜け出て行く虫たちを見つめながら、哀れな声を上げて萎んでゆく。
ブギーの正体は、ずだ袋に詰め込まれた小さな虫たちの集合体。
虫たちがすっかり抜けて、ブギーが体の形すら維持できなくなった頃、ソラの足元にポテッとゴキブリのような虫が落ちてきた。ソラが躊躇わずそれを踏みつけ、パキグシャッという音についに眩暈がして床にくずれそうになる。
「大丈夫?」
「う、うん……」
グーフィーたちに支えられてもう一度そうっとブギーを見上げたときには、床の敷物のように彼の外側だけが落ちていた。ブギーに溶けてしまったのか、心はどこにも見当たらない。
「博士の心はまた失敗作だったのか……」
皆が黙っているなか、最後にジャックがため息と共に呟いた。