ブギーの残骸からアンセムレポートを発見し回収した後、フィンケルシュタイン博士の元へ戻ることにした。
 たどり着いた時と打って変わって静まり返ったブギーの館の正面入口を歩いていると、ズンと大きな地鳴りと共にブギーの悲鳴が聞こえてくる。驚いて振り向くと巨大化したブギーが屋敷と一体化していた。

「うわっ!? なんであんなに大きくなったんだ!?」
「ソラ、見て見て! 闇の力あふれてる!」

 確かに、闇色の腫れ物のような半球体がブギーや建物のあちこちにくっついている。

「ブギーは、あの影のかたまりから闇の力を吸いとってるんだ!」
「じゃあ、あれを全部ぶっこわせばいいんだな!」

 皮肉なことに、いまのブギーにはハートレスがうじゃうじゃ集まってきているようだ。ジャックはやれやれと首をふった。

「ブギーめ。諦めの悪い!」
「行くぞ。ジャック!」
「ああ。今度こそ決着をつけてやる」

 ソラとジャックが先頭を切り開いていく。
 大きくなったブギーは建物と同化したため、歩いたりしゃべったりしないので恐ろしさはあまり感じない。むしろ、まるで遊び場のアスレチックみたいとすら思う。ただ、気になることは──

「ねぇ、あの大きなブギーの中身は、虫じゃないよね?」
「なに言ってるの。もし虫が入っていても、倒さなくちゃ!」

 ドナルドに叱られながら、ブギーが持つランタンから飛んでくる炎を避ける。登っていく道中、ガーゴイルに攫われかけたりしたが、落ち着いて魔法で撃退することができた。
 ブギーやハートレスたちからの妨害を押しのけ、影のかたまりを七個すべて壊した瞬間、ブギーと屋敷は崩壊しはじめる。闇の力に頼った代償なのか、今度は瓦礫の一片すら残さずにブギーの存在は全て粉塵と共に消えてしまった。代わりに残っていたのは、これまでの旅で見てきた中では一番巨大なサイズのこの世界の心の鍵穴。まさかこんなところにあったなんて。気味悪さばかりに気を取られていたから、ブギーの執念がなければ見つけられなかったかもしれない。
 ソラがキーブレードの切っ先を天に掲げる。剣先から放たれた光が散って鍵穴に降り注ぐと、鍵を閉める音と共に鍵穴は消えていった。





 フィンケルスタイン博士の研究室への戻り道。ブギーごと巨大な闇が消え失せたおかげでハートレスの気配はだいぶ薄くなっており街は平和になったかと思いきや、墓もギロチン広場もひどく荒れてしまっていた。自分たちがブギーと戦っている間に、ハートレスたちが街で暴れてめちゃくちゃになったのだと、ジャックへすがってきた住人たちは口々に言った。ジャックは彼らに相談されるたびに口数が減ってゆき、研究室に入ったところでついにうなだれてしまう。

「心が無くなってしまったから、もうハートレスとのハロウィンはできないし、僕がハートレスをハロウィンに使おうと言ったせいで街はめちゃくちゃ……僕はハロウィンの王失格だ」

 ジャックなりに悪気がなかったのは分かっている。何か彼を元気づけるような、慰めの言葉を。仲間たちで顔を見合わせて思案している間に、フィンケルスタイン博士の側に立っていたサリーがジャックへ歩み寄った。

「幸い、誰もケガしなかったわ。気を落とさないで、ジャック。また新しいハロウィンを考えましょう? 今度は、私も一緒に──」
「サリー……ありがとう」

 そして、手を取り合うふたり。とってもいい雰囲気である。

「しかたない……『ハートレスとすごすハロウィン』は中止だ」

 切り替えが早く、ソラへパンプキンのチャームを渡すジャックはすっかり元の調子を取り戻していた。

「ソラ、またいつでもハロウィンタウンに来てくれ。今度こそすばらしく恐ろしいハロウィンをお見せするよ」
「ああ。楽しみにしてる!」

 怖いことは苦手だけれど、怖い見た目だから悪い人であるとは限らない。ジャックたちとは、またいつか再会して彼の言うすばらしいハロウィンを見てみたい。
 ブギーが食べてしまった心が失敗だったことを知ったフィンケルスタイン博士は、本のページをめくりながら不機嫌に言った。

「感情≠熈記憶≠焉c…必要なものは全部いれたのに……じゃあ心には何があればいいんじゃ!?」

 こちらへ振り向いた彼は、悔しそうに車いすの腕置きを叩く。

「心ってのは何なんだ!? わしにはさっぱりわからん!」

 誰しも生まれながらに当たり前のように持っている心。ソラのキーブレードの力の源であり、ハートレスが惹かれ求めるもの。
 こころとはなにか。
 確かに存在していることは知っているのに、研究者でも説明できない。
 他人の心を知ることができたらと思う反面、心は自分だけのもので、誰にも侵されたくないとも思う。
 考えた後、こっそりとソラを見る。ジャックと笑い、サリーの質問に答えて、ドナルドにツッコミを入れられ、グーフィーにフォローされている。
 くったくのないソラの笑顔を見ていると、なんだか胸が苦しくなった。こちらを見て笑いかけてほしいと思い、視線を向けてほしいと焦がれ、他の誰のものよりも、彼の心の奥を知りたいと願ってしまう。
 悟られたくない気持ちのまま見つめていると、視線に気づいたソラがこちらに来た。

「フィリア!」
「ソラ」
「あのさ、フィリア怖がってる時には聞けなかったんだけど……」
「なぁに?」
「その耳とシッポってどうなってるんだ?」

 言うなりそっと触れてきて、ふわふわだな! とソラは笑った。優しい指使いに頬が熱くなり、毛がブワッと逆だつ。

「あれ、どうかした?」
「……ソラのえっち……」
「ええっ!?」

 慌てふためき手を離して「そんなつもりじゃ」と平謝りしてくるソラ。敏感なところを撫でさすられるなんてとても恥ずかしかったけれど──本当は嫌じゃなかったことは秘密だ。

「本当にごめん!」
「もう、いいよ。そんなに謝らないで」

 仲間たちが見ていたらしい。許されてホッとするソラをデリカシーがないとか女の子の扱いは気をつけなくちゃとか冷やかし始め、ソラは今回ばかりは返す言葉がないようで、からかわれっぱなしだった。
 楽しい。なんて幸せなのだろう。
 早く世界を救い終わらせなければならない旅なのに、彼らとの時間が心地よくて、もう少しだけ長く、できるだけ長くこの旅が続いてほしいと願ってしまった。



──これが、

「ごめんね」

 次の世界で、

「私、もうみんなと一緒にいられないの」

 あんなに後悔することになるなんて、この時はまだ気づいていなかった。

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