「──リク!」
プリンセスたちから集った光がエンブレムの中央に青い雷となって輝きだしたとき、リクが不気味な衣装で戻ってきた。反射的にリクと呼んだが、すぐに違和感に気づく。いつもは優しく微笑んでくれる彼が、こちらへ一瞥はくれたもののなんの感情の返しもなくマレフィセントの元へ進んで行ったからだ。
「あれがプリンセスたちの『力』の結晶か」
彼はまっすぐマレフィセントの隣に立って、彼女と共にエンブレムを見上げる。
「そうさ。闇へと通じる鍵穴さ」
「あれを開けば全世界にハートレスがあふれるぞ?」
リクから、まるで大した事のないように語られた内容にぞっとした。そんなことになれば、今までソラたちとしてきたことが全て無意味になってしまう。
マレフィセントはのどを震わせるように笑った。
「かまうものか。私は闇にのまれたりしないよ。闇の力を利用して、世界を支配してやる」
「たいした自信だ」
リクが手をかざすと、闇を振りまきながら黒いキーブレードが現れた。それをマレフィセントが食い入るように見つめ、はっと鍵穴を見上げる。
「なんということだ!? プリンセスはそろったというのに!?」
そうして、片眉を上げて振り向いてきた。視線は自分を飛び越えて、背後で眠るカイリを睨む。
「あの娘のせいか!」
そうしてカイリに寄ってきたので、とっさに床に眠るカイリを抱きしめた。ふたりは恐ろしいほどに無感情な瞳で見下ろしてくる。
「心を失っていては、プリンセスの力も消えたままだな」
プリンセスって──まさか、カイリのこと?
カイリを心配する気持ちなんて微塵も感じられない。リクが淡々と言うのを、愕然と聞いた。
怖くてカイリを抱きしめる力を強めたとき、どこからか大きな音が響いてくる。戦闘の音だ。マレフィセントが鼻を鳴らす。
「王の手先が来たようだね──」
ソラたちが来ている。こんな状況だから、どうしたって彼らの到着が嬉しく、頼りたくなる気持ちがあふれた。
「私が始末してやるよ。おまえはここでプリンセスを見張っておいで」
来た時と同じ足取りでマレフィセントが礼拝堂の出口へ向かう。去ってゆく彼女の背を眺め、緑色の瞳は見下したように笑っていた。
マレフィセントの魔力は強大だ。ソラたちが心配になり、加勢したいと思ったが──。
心臓がドクドク鳴る。目の前に立つこの人は、やはりリクじゃない。
「あなた、だれ……リクに何したの」
彼はすぐには答えず、薄く笑ったままジッとこちらを眺めていた。一緒にカイリを助けようと言ってくれた時とは、全くかけ離れた冷淡な瞳。
「この少年は友に勝ちたい一心で、こころを闇に開いたのだ」
「リクが、こころを──闇に?」
「そうだ。彼、自ら望んだのだ」
「うそっ!」
カッとなって言い返した。リクがリク自身でなくなることを望むなんて有り得ない。
「リクを返して、きゃあっ!」
ニヤッと笑ったかと思ったら、彼が右手を掴んできた。ギチッと手首が軋み、強引に引かれたせいでカイリから手を放してしまう。やや乱暴に近くの機械に背を押し付けられて、ぎくっとするほど顔を寄せられた。
「うっ──」
少しでも動けばキスしてしまいそう。否応なしに近距離で視線が合う。ギラギラ光る、好奇心、野望、絶対的な自信に満ちたこんな眼差し、いつかも──どこかで。
何かを思い出しそうで焦燥感が募る。こわい。つい目を逸らしたい気持ちにかられたが、リクを陥れたこの人に負けてしまうような気がして、怯えも震えも奥歯を噛んで押さえこみ必死に彼の目を睨み返した。
しばらく観察するような目つきでこちらを見ていた彼は、「ほう」と感心するような声をあげる。
「どうやら、虚勢を張れる程度には成長したようだな」
言い終わるなり彼はあっさり手を放し、闇を操りどこかへ消えてしまった。
力が抜けるまま床に座り込みながら、カイリのことを知った時と同じくらいの後悔が押し寄せてくる。
ソラに勝つためだけに人間をやめたジァファーや、屋敷と同化してしまったブギーと同じ。闇に溺れてしまった者の末路は悲惨なもの──何を言われても、リクの側を離れるべきではなかったのだ。
「カイリ……私、どうしたらいいの」
再度カイリを抱きしめて呟いた言葉に、答えてくれる声はなかった。