フィリアたちが玉座の間に戻ってくると、部屋の中央に黒いマントを着た長身の女が立っていた。女はこちらを振り向くと、憤怒の形相を隠しもせずに、憎悪の眼差しを向けてきた。

「せっかく手に入れたオーロラ姫の心を解放したのは、お前たちか?」
「マレフィセント!」

 フローラが声を上げる。彼女がマレフィセント。魔女という呼び名に相応しく、強い魔力をその身に宿しているようだ。

「お前がオーロラ姫の心を!」

 フィリアが警戒していると、止める間もなくヴェントゥスがマレフィセントに斬りかかった。しかし、キーブレードが触れる前にマレフィセントの姿が掻き消える──右に気配。

「ヴェン、右!」

 伝えながらそちらを見ると、高い場所に現れたマレフィセントが、興味深そうにヴェントゥスを眺めていた。

「キーブレード……お前がヴェントゥス。そして、共にいる娘がフィリア」
「えっ! なんで俺たちの名前……それに、キーブレードの事も?」

 ヴェントゥスが素直に質問すると、マレフィセントは口端をつり上げた。

「キーブレードは心を集める鍵。テラがやってみせてくれたよ」
「!?」

 突然知っている名前が飛びだしてきて、耳を疑う。

「えっ、テラ? テラがここにいたのか?」
「ああ、そうだよ」

 ヴェントゥスに、魔女がゆっくり頷いた。心を集める鍵。やってみせた?──まさか。

「テラがやってみせたって、どういう意味!?」

 訊ねると、魔女が酷薄な笑顔でこちらを向いた。

「テラが、オーロラ姫の心を奪ってくれたのさ」
「な……!」

 心臓が大きく鳴る。以前、他の世界で会った老婆も、テラを悪し様に言っていた。そんなことあるはずがないと思いつつ、では、どうして彼女たちがテラがそうしたと言ったのか──分からない。

「デタラメ言うな!」

 ヴェントゥスが怒鳴って、キーブレードを強く握った。それを見て、マレフィセントが不愉快そうに片眉を上げた。

「おまえたちには手出ししないように言われていたけど──そうはいかないようだね!」

 マレフィセントの魔力が高まってゆく。闇に近い、呪いの力。あの試験の日、確かテラからも……。

「違う……!」

 思考を無理やり追い出して、フィリアは戦いに集中することにした。





★ ★ ★





 マレフィセントの放った紫色の電撃がヴェントゥスを襲ってくる。反射的に身を翻したくなるのを堪えて走り続けると、フィリアが唱えたリフレクがそれを弾いてくれた。跳びあがってマレフィセントに斬りかかれば、ようやく確かな手ごたえが。目の前でマレフィセントがぐらりとよろめき、負傷した腕と裂かれたローブを見て、その顔が怒りで歪んだ。

「おのれ……手加減してやっていれば生意気な!」

 マレフィセントがヴェントゥスから遠い場所へと移動して、不気味な呪文を唱え始める。魔力による霧のような白いもやが、部屋じゅうを包みだした。

「なんだ、これ?」
「嫌な予感がする──燃えろ!」

 フィリアがマレフィセントに向かって炎を放つが、魔法の障壁を張られて防がれた。キーブレードで止めようにも、この距離ではあちらの魔力が満ちるまでには間に合わない。どうすれば……。

「はやく、こっちよ!」

 声の方がして横を見ると、もやの中をくり抜いたように一箇所だけ輝いていた。いつの間にか蛍のように小さくなっていた妖精たちの魔法だ。フィリアと共に素早くその場所へ駆け込むと、フローラが言った。

「魔法を跳ね返してやりましょう。さぁ、剣を掲げて」
「こう?」

 言われるがままに従うと、周囲の魔力がキーブレードの剣先に集まり始めた。魔法に集中するあまり、こちらの様子に気付いていないマレフィセントは、目を大きく開いて笑い出す。

「永遠に眠っておしまい!」
「くらえ!」

 周囲が一瞬強く光るのと同時に、キーブレードに宿った魔力をマレフィセント目がけて撃った。すると、先程まで大声で笑っていたマレフィセントが、立ったまま眠っている──今だ!

「たぁ!」

 キーブレードでマレフィセントを斬ると、マレフィセントが目を覚ました。更にもう一撃攻撃しようと試みたが、また炎のように消えて逃げられる。

「よくもこの私に……もう許さないよ!」

 歯をきつくかみ締めて、吼えるようにマレフィセントが言った。

「見よ、我が魔力の力を!」

 たちまちマレフィセントの姿が魔法の渦に変わり、こちらに向かって襲ってきた。渦が掠めた岩壁が易々と削られる。これは避けるしかなさそうだ。

「まずは、おまえからだ!」
「あ……!」

 マレフィセントの魔法の渦がフィリアに向かって飛んでゆく。フィリアは動かない。近づいてくる魔法の渦に、ただただ見入ってしまっていた。

「危ない!」

 転がるように走って、フィリアを押し倒して地面に伏せた。次の瞬間、後頭部を渦の気配が掠めてゆく。すぐに顔を上げて次に備えようとすると、渦の魔法は長く続けられなかったようで、マレフィセントは元の姿に戻っていた。杖をついて、荒い息を繰返している。

「ヴェン、ありがと……」

 体の下で、起きながらフィリアが言った。顔色が悪く微かに震えている。あのときと同じだった。

「なかなか、しぶといじゃないか……だけど、これでお終いだよ」

 汗を拭って、マレフィセントが両手を掲げる。その周囲に、大きな雷が集ってくる。
 ヴェントゥスは立ち上がり、キーブレードの先端をマレフィセントに向けた。この技はとっておきで、放つまで身動きできないし時間がかかるのが難点だが、それはあちらも同じだろう。これ以上、フィリアを狙わせるわけにはいかない。

「落ちよ、破滅の雷よ!」
「これで終わりだ!」

 魔女の雷がたくさん周囲に落ちてくる中、キーブレードに集めた力、ラグナロクを解き放った。キーブレードから燃えるような光線が何本も放たれて、マレフィセントに当たり、爆発した。

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