キーブレードに殴られ、険しい表情をしたアンセムの金色の目が光ったと思ったら、想い出の島の全てが黒い霧に包まれて、あっという間に宇宙のような空間に出た。

「なんだ!?」

 想い出の島は見るからに幻影だったから、これが本当のこの空間なのだろう。アンセムの声が響いてくる。

「見よ。無限に広がる闇を。あの闇こそが“世界の心”──キングダムハーツなのだ!」

 一点だけ、闇の中の遠くに白い扉を見つけた。あれがキングダムハーツへと続く扉。美しいステンドグラスまではめ込まれ神々しい反面、不気味な黄泉への扉のようにも見えた。

「どうだ、ひとかけらの光も見えまい。すべての心は、あの暗闇から生まれた。そう、おまえの心も闇から生まれたのだよ!」

 黒霧の中から赤くて巨大な戦艦が現れた。ワールドオブカオスになったアンセムだ。
 これまでに出会ったどの敵よりも大きなワールドオブカオスには、船首には鋭い牙をむき出しにした赤いフェイスがあり、バリアに守られた甲板にはメインコアとそれを守る砲台がずらり。船橋には薙刀を握ったアンセムと、更に禍々しい姿へ変貌した影がいた。
 どこを見ても気色が悪いセンスで、迫力があった。フィリアが見ていたら泣きだしていたかも。こんな怪物と戦うのか? 勝てるのか?
 仲間たちみんな、そんなふうにちょっと怖気づいてしまったところをつけこまれたのだとおもう。いきなり発生した赤黒い闇の中からの引力に引っ張られてしまった。バランスを崩し、真っ逆さまに落ちて行く。ドナルドとグーフィーが吸い込まれ、自分も吸い込まれそうになった。

「どうしたソラ? もう終わりか。だらしないな」

 リク!
 パチッと目が覚めた感覚だった。飛べると信じれば、思った通りに体が上空を目指して飛び始める。ぐんぐん昇って、元の高さでアンセムと目が合った時、キーブレードを構えた。





★ ★ ★





 気がつけば、目を開いたことを疑うくらい、真っ暗で何も見えない空間にいた。体はぬるい温度に包まれていて、何かにきつく縛られているらしい。

「ここは──?」

 確信はないが、モンストロでハートレスに喰われた時と体の状態が似ていて、闇に取り込まれているのではと思い至る。ドク、ドク、と自分ではない何かの鼓動を全身に感じていた。

「動けない……」

 歩くどころか、指一本満足に動かせない。目を開くことすら、だるくておっくうだ。せめて魔法を使えたら──魔力どころか、生命力が根こそぎ吸われているような脱力感に囚われる。

「ソラ、ドナルド、グーフィー、リク、カイリ……」

 友だちの顔を思い浮かべれば心が奮い立つかと思いきや、逆にひどく恋しく寂しくなって、助けてと泣き叫びたくなった。

「だめ。自分で、なんとかしなくちゃ──」

 己を叱咤し、なんとかもがいてみようとも、すぐに息が苦しくなり、意識が混濁してゆく。




★ ★ ★





 アンセムはリクの使っていたソウルイーターを二つ繋ぎ合わせたような薙刀を持っていた。
 上半身の服は脱がれ、背中にいくつもの管が生えている。影の男やワールドオブカオスと繋がっていた。
 キーブレードで殴りかかると、薙刀で受け止められる。

「闇にかえれ!」

 すさまじい力で、かつ舞いのように薙刀が振り回される。勢いに負けて押されると、周囲に紫色の光の塊が飛び、ピッとビームを撃ちだしてきた。

「闇の心地よさを教えてやろう」

 背の管からドクドクとアンセムに何かが流れこんでいた。闇の力ってやつなのか?
 必死にレーザーを避けながらアンセムに斬りかかる。いくつか当たり、こちらも鋭い刃で腕や足を傷つけられた。

「そして全てが消えてゆく」

 あるタイミングで、アンセムの手から薙刀が消え、まるで棺桶で眠るように背後の男に寄りかかってしまった。ハートレスのエンブレムがアンセムの前に現れると、それがどうにも固くて、バリアのようだった。アンセムに攻撃が通じなくなる。
 どうしたらいいんだ。ふと見下ろすと、メインコアの前に虹色に光る空間の歪みを見つけた。根拠はないが、きっとそこへ行くべきだと直感し、迷わず飛び込む。

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