そこは足元にエンブレムが薄っすら光っているだけの、ほぼ真っ暗な部屋だった。おびただしい数のハートレスが待ち構えていたことが瞳の数でよく分かる。ハートレスの中でもエンブレムをもたないもの──ピュアブラッドのシャドウやダークボールがわんさか現れ、次々に飛びかかってきた。
 今更、ザコに構ってる暇などない。魔法を駆使し、キーブレードでまとめて殴り、ひとりでも余裕で殲滅させることができた。
 すべて倒しきった時、部屋の中央にオレンジ色に輝く球体が現れる。恐らくこの船の大事なもの──コアだ。まるで小さな太陽のようにエネルギーに満ちて輝いている。
 これを壊せばいいんだな。直感に従いキーブレードで叩くと、コアは思ったよりあっけなく壊れた。
 よし、次だ。と駆けだそうとした時、ドチャッと何かが落ちる音がして驚いた。ぼんやりした光の中で目を凝らすと、フィリアが床に突っ伏して倒れている。

「フィリア!?」

 もしかして、アンセムの一部にされていたのか?
 駆け寄って抱き上げると、フィリアはぐったりしてはいたが、薄っすら目を開き虚ろな目で呟いた。

「ソラだ──これは、夢?」
「夢じゃない。助けに来たんだ」

 慌ててポケットを探り、ドナルドに持たされていたエリクサーを飲ませた。さすが最高級の薬だけあって、瀕死状態に見えたフィリアにみるみる生気が戻ってくる。

「ソラ。よかった……元の姿に戻れたんだね」

 状態が落ち着いてきたフィリアが、涙を浮かべながら胸元に頬を擦りつけてきたのが可愛くて、思わず赤面した。

「『よかった』は、こっちのセリフだって。本当に、無事でよかった……」

 立てる? と訊ねると、フィリアはすぐに頷き、初めはふらついたが、しっかりと立ち上がった。

「ソラ。ありがとう……」

 それは、フィリアのいろんな気持ちが詰まっている感謝だと感じた。「いいよ」とか「気にするなって」とかいろんな言葉が浮かんだが、なんだか軽い言葉は相応しくない気がして、「うん」と頷くことしかできなかった。

「一緒にアンセムを倒そう!」

 共に脱出口から抜け出すと、ワールドオブカオスの前に戻っていた。アンセムは相変わらずバリアの中だが、先ほどまで砲台を守っていたバリアはない。やっかいな砲台を壊すチャンスだ。

「これがアンセム? えっ、あっ、飛んでる!?」
「フィリア、今は砲台を狙って!」

 いろんなことに仰天しているフィリアは、アトランティカの時と同じく横にぴょこぴょこ飛び始めたので手を繋ぎ引っ張った。
 フィリアにケアルガとエアロガをかけてもらうのはいつぶりだろう。嬉しくて、振るうキーブレードにもいつもより力が入る。





★ ★ ★





 デビルズウェーブをなんとか倒し、先ほど邪魔されて入れなかった洞窟の中へ、今度こそ進む。

「この奥へ行ってみよう」

 微笑ましい子どもたちの落書きに溢れた短い洞窟には、奥の岩に板が貼りつけられている。

「きっとこの中だ」

 ミッキーがそれを扉のように開くと、先に広がる薄暗い空間の中央に金色のキーブレードがふわふわと浮かんでいた。

「あれだ!」
「そのキーブレードが?」
「これが僕の探していた鍵。闇の世界のキーブレードだ」
「闇の世界のキーブレード──」

 マスターエラクゥスから譲り受けたキーブレードのように、普通のキーブレードとは違う、特別なものらしい。
 ミッキーはキーブレードに近づきながら、ぽつぽつ言った。

「二人が闇の扉を結ぶ。二つの鍵が扉を結ぶ──光を封じる闇への扉。光あるものを通さぬ扉──」

 伝承のように思えた。
 ミッキーがゆっくりキーブレードを掴み、掲げる。

「鍵はこれで揃った。あとはこちらから扉を閉じる者」
「それは?」
「光と闇を結ぶ扉は心に光を持つ者は通れない。つまり、そこから闇があふれ出しているんだ。そこを閉じるには、光と闇のキーブレードと両側から扉を閉じる者が必要なんだ」

 光の世界を守るため──ためらいもなく申し出た。

「それならミッキーがキーブレードを使って。私がその間に扉を閉じます」
「いや。扉を閉じる者はもう決まってるんだ」
「えっ?」

 会話中だというのに──空間が不安定なのか──またしても地が揺れ始め、今度は真っ白な光まで満ちて、とっさに目もとを覆った。
 光が収まった時には、海も緑もないあの闇の空間に戻されている。
 あの世界は?
 妙な気配がしてそちらを向く。まるで闇の中で光っているかのよう。純白の美しい扉が遠くに見えた。

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