砲台を全て壊すと、またアンセムの前に虹色の空間の歪みが現れる。ワールドオブカオスの外側と内側を交互に撃破していけば倒せる。強く確信し、フィリアの手を引いて歪みの中に入った。
「暗いけど、気をつけて」
フィリアが閉じ込められていたのと同じ部屋だった。フィリアの魔法の助けもあって、ピュアブラッドたちをさっさと蹴散らし、またコアを出現させる。こんな状況でもハートレスたちは隙あればフィリアを攫おうとするので、気が抜けない。
「ソラ!」
コアの光を目指してきたのだろうか。グーフィーがひょっこり帰ってきた。
「グーフィー!」
「あれぇ、フィリア。無事だったんだね!」
こんな激戦の最中だというのに、グーフィーの声は少し気持ちを楽にさせる。コアを殴っている間、横でフィリアとグーフィーは手を取り合って再会を喜んでいた。グーフィーがここにいたということは、ドナルドも似た場所にいるのだろうか。
コアを破壊し、またワールドオブカオスの前へ出ると、フェイスの部分が活発に動き出していた。バチッと電撃が落ちてくる。今度はここが壊せそうだ。
フェイスは大きい部品だけあって頑丈だった。常にサンダーが落とされるし、全方位にスパーク撃ってくるのでうかうか同じ場所に留まっていられない。
何度目かの攻撃で、フェイスはパカッと口を広げて動かなくなった。あの歪みはその口の中に。食べられるような気分で飛び込んだ。
次の部屋の中では強敵であるインビジブルがわんさかいて、さすがにちょっと背筋がひやっとした。
「ソラ!」
思った通り、ここにはドナルドがいた。久しぶりの全員集合がとても嬉しい。
「フィリア!」
「ドナルド!」
再会を喜びながら、絶好調のふたりの魔法がバンバン炸裂して、あっという間に難敵のハートレスたちを蹴散らすことができた。脱出すれば、フェイスはワールドオブカオスからもげるように消滅する。
「次はどこだ?」
変わったところはないかと見回すと、ワールドオブカオスのメインコアを包んでいたバリアがキラキラ光りながら消滅していることに気づく。はびこる砲台をひとつ残らず壊し、ドクロの顔が浮かんだメインコアを叩きのめした。内臓みたいにぶよぶよと柔らかなメインコアは、最後にひときわ大きな光を放って停止した。
★ ★ ★
ソラがメインコアを壊しきったとき、てっぺんで眠っていたらしいアンセムが起き上がり、薙刀を構えた。背後に控える闇の男と共に睨まれて、一瞬怯んでしまう。
「決着をつけるぞ!」
ソラの激に、みんなが一緒だから、あの男を恐れることはないと気持ちを持ち直した。
「燃えろ!」
補助魔法だけでなく、攻撃魔法でアンセムを攻撃しようとファイガをぶつけると、爆炎を振り払ったアンセムが「やめろ!」と怒鳴って魔力を吸い上げてきた。慌ててドナルドと距離を置こうとするも、離れても魔力は奪われ続けた。
「させるか!」
ソラがキーブレードで影の男を叩いたことで止まったが、魔力をごっそり失ってしまった。ソラがドナルドへ訊ねる。
「ドナルド、エリクサーかエーテルは?」
「もう残ってないよ」
「えーっ!? あんなにあったのに、どうするんだよ!」
「だって、出し惜しみなんかしていられないだろ!」
こんな時まで、いつもの調子で喧嘩をするふたり。
ワールドオブカオスはメインコアを失ったことで大分機能を失ったかと思ったが、アンセムは休んでいる間に十分に力を蓄ていたらしい。闇を大規模に操り、ブラックホールのように吸い寄せる力をもった球体を出現させたり、その球体からビームを周囲に飛ばしてきたり大暴れ。振り回す薙刀でドナルドの魔法を弾き、グーフィーの盾を凹ませてしまった。
ソラのキーブレードとアンセムの薙刀が交差する。互いを傷つけ合いながら何度か切り結んだとき、ソラがくるくる回転しながらアンセムの足元に着地する。その姿を狙ったアンセムの腕にサンダガをぶつけて動きを止めた。
「ドナルド! グーフィー!」
呼ばれた二人はサッとソラの元へ。三人揃ったと同時に彼らの足元に複雑な光の紋章が浮かび上がる。なんて美しくて、眩しい──。
「光よ!」
武器を掲げた三人が力を合わせたトリニティリミットの光の爆発はすさまじく、思わず腕で目もとを守った。アンセムの悲鳴が聞こえ、爆発音がし、収束する頃には、ワールドオブカオスが放っていた禍々しい闇の気配が消えてしまった。
暗闇の空間に残っていたのは仲間たちだけで、アンセムの姿もない。そのせいで油断してしまった。
「終わった?──わっ!」
突然、後ろから引っ張られて仰天する。見れば、体じゅうボロボロになったアンセムに襟首を掴まれていた。
「フィリア!」
また捕まりたくない。抵抗したが、力づくで筋肉質な腕が首に回って取り押さえられてしまった。魔法を撃とうとすると、更にきつく締めあげられて息ができなくなる。力を使い果たしたはずなのに、腕力は残っているようだ。
「フィリア!」
「悪あがきを!」
「動くな。この娘の命は我が手中にある」
怒ったソラとドナルドがグッと口を閉じる。アンセムがソラを見やった。
「無駄だ。おまえのキーブレードだけでは闇の扉を閉じられん」
そして、あの白い扉へ手を伸ばした。背筋がざわつく。
「キングダムハーツよ。私に闇の力を──」
その言葉を聞いた途端、体が引きちぎられるような痛みに襲われて、気がつけば「やめて!」と叫んでいた。
嫌なのに、アンセムの意志に従ってあの扉が開く音がする。
「大いなる闇よ──」
アンセムの呼び声に闇が呼応している。
果てのない闇が引きずり出されてしまう。
「違うッ!」
場を貫くソラの声に、濁りかけていた意識が戻る。
ソラは言った。
「キングダムハーツはどんな闇も消し去ることの出来る心──光なんだ!」
途端に扉の隙間から光が射しこむ。アンセムが苦しみだして腕の力が緩んだ。その隙にソラが助けてくれて、やっとアンセムから解放される。
「なぜだ──なぜ、光が──」
アンセムはかすれた声でそう言い残し、光に溶けるように消滅した。