「キングダムハーツの扉──」

 美しい白い扉を見つめながら、ミッキーはハッキリ言った。しかし、あの決戦の時、キングダムハーツに扉なんてなかったが。
 疑問を察したミッキーがこちらを見上げてきた。

「あれは君が知っているキングダムハーツはまた別なんだ。少し規模の小さい、世界の心のキングダムハーツ」

 彼の指で「少し」を表現される。

「真のキングダムハーツではないけれど、このまま開いた状態にしておくと、ここから闇が溢れだして世界を覆ってしまう」

 真のキングダムハーツでなくても、キングダムハーツと呼べる規模の心の集合体を使えば、世界を闇に堕とせるらしい。
 ミッキーがあの金のキーブレードを出した。

「この鍵と光の世界にいるソラの鍵を合わせれば、扉を閉じることができる。あとはリクさえ来てくれれば──」
「ソラ──リク──」
「あれは!」

 ミッキーが叫んで走り出す。彼の視線の先にはヴェントゥスくらいの年の銀髪の少年がいた。彼は一目散に扉を目指していて、こちらには気づいていないようだ。
 ミッキーに笑顔が戻る。

「これで揃った! アクアもいっしょに──しまった!」

 闇の奥から、再びデビルズウェーブが現れる。こちらに目もくれず、リクと扉の方へ向かっていた。闇の世界で散々戦ってきた厄介な相手で、小さな闇の集合体のため一撃で倒すことは不可能。この状況で相応しい手段は──とっさに思いついたのは師から受け継いだ技だ。

「させるか!」

 具現した黄金の鎖でデビルズウェーブたちを球体に押しこめ封じたはいいが、力がすさまじくて御しきれない。激しく抵抗され、左右に揺さぶられた。

「アクア!」
「行ってください!」
「でも!」

 限界はすぐにきて、鎖が弾けデビルズウェーブが自由になってしまった。デビルズウェーブは大きくうねり、先ほどの仕返しと言わんばかりにこちらを飲みこんでくる。
 ミッキーが呼ぶ声が聞こえたが、引きずり込まれ、気がつけば先ほどのディスティニーアイランドに巻き戻されていた。





★ ★ ★





 扉を閉じるため、みんなで白い扉の元へ急いだ。自分もソラに支えてもらいながら辿り着いたが、足に力が入らないどころか、アンセムに絞められていた首が痛くて咳きこんだ。「フィリアは休んでて!」と言ってもらえたので、緊急時に申し訳ないが、地面にへたりこむ。

「扉を閉めよう!」

 ソラたちは一生懸命扉を押して閉じようとするけれど、近くで見ると本当に大きく分厚い扉で、三人ぽっちの力ではピクリとも動かなかった。
 グーフィーがふと扉の中を覗いて「うわぉ!」と叫んだ。ドナルドが「よそ見してる場合じゃないよ!」と叱りつつ自分も覗きこんで「グワワワ!」と同じように叫ぶ。扉の向こう側にハートレスがうじゃうじゃと現れ、こちらに向かって近づいてきているらしい。ドナルドがふわふわなお尻をブルブル振る。

「早く!」

 けれど、やっぱり扉は動かない。先ほどアンセムを通して感じた力を扱えれば──激痛が恐ろしかったが、思い出そうとして──しかしよく分からない。

「ダメか──」

 ソラが呟いたとき

「あきらめるな!」

 リクの声がした。
 扉の内側からリクの手が伸びてきて、隙間からリクの顔が現れた。

「何してるソラ! 一緒にいこいつを閉めるんだ!!」
「わかった!」

 再度みんなで一生懸命に扉を押すも、ちょっとも動かない。内側から大きな闇が現れる気配がする。
 誰よりもチラチラ扉の中を見ていたドナルドが「もうダメだァ!!」と叫ぶ。
 誰よりもいま、リクが危ない。せめて囮になれればと立ち上がろうとしたが、体に力が入らず、自分の体ではないみたいに手足がガクガク痙攣していた。
 パン! と風船が弾けるような音がして闇の気配が薄まる。ドナルドとグーフィーが大きな目をパチクリさせている。
 闇の中に金色の光が見える。先ほどアンセムを消した、けれどあたたかい、キングダムハーツの光。そこに小さなシルエットが現れた。

「王様!?」

 大きな丸い耳。いつか、どこかで見たことがあるような──頭がズキッと痛む。
 彼は金色のキーブレードを掲げた。

「さあソラ! いっしょに鍵をかけよう!」
「早く閉めよう!」
「だけど!」

 ドナルドが急かすが、ソラは躊躇う。閉じてしまったら、扉の向こう側のふたりはどうなるのか。

「だいじょうぶさ。光への扉がどこかにある」

 闇の世界から抜け出す扉があるという保障も確信もない。危険な世界に残されてしまうふたりがとてもとても心配だけれど、不思議とその言葉は信じてみようと思う力があった。

「ソラ、王様を信じよう!」
「急げ! また来るぞ!」

 グーフィーがソラへ言い、リクが振り向いて焦っている。

「ドナルド、グーフィー、ありがとう──」

 王様の言葉に、ふたりは涙をこらえている顔で扉を押し続けた。
 その時、頑なに動かなかった扉がやっと動き始める。一度動き出すとスムーズに動き続け、閉じることができそうだ。
 リクがソラへなにごとか囁き、ソラがコクンと頷いていた。久しぶりに見れたリクの晴れやかな笑顔が、扉が閉じたことで見えなくなる。

「リク……」

 ソラがキーブレードを掲げた。そして、おろらく扉の中で王様も。キーブレードの剣先から光が伸びて、施錠の音がした後、扉は静かに消えていった。
 しばらくソラは消えた扉があった場所を見上げていた。リクのことを考えているのだろう。闇の世界はハートレスの世界。彼らの無事を祈るしかないことがもどかしかった。
 周囲の景色が変わり始める。アンセムがいなくなり、キングダムハーツへの扉が閉じられたことで世界が元に戻ろうとしている。
 ソラがハッと振り向いて一点を見つめる。暗い景色のなか、目立つ赤い髪──カイリが立っていた。

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