全身を襲う衝撃の後、地を転がった。すぐあとに大きな振動とガラスを叩き割るような音がする。
「……い……おい! フィリア、目ェ覚ませ!」
「ん──」
呼び声に薄っすらと目を開けると、視界いっぱいにザックスの顔があった。自分は、アイスコロッソスに潰され消されたはず。倒れて一番に見る顔がなぜ彼なのか、どうして抱えられている状態なのか。状況を飲み込めないでいた。
「ザックスも、幽霊になっちゃったの……?」
「はぁ? 何言ってるんだ。体温あるし、足もあるだろ?」
言われてみれば──気温は変わらずとても寒いが、ザックスと触れ合っている箇所は暖かい。
「私、まだ生きてる……?」
「町に行く途中で振り向いたら、コロシアムにあんなのが立ってるし、戻ってみればフィリアが戦ってるし、びっくりしたよ」
「あの壁はどうしたの?」
「フィリアが戦ってる間に壊した。ほら、早く立って。あいつを倒すぞ」
背の剣を抜きながら、ザックスがエリクサーの瓶を投げてきた。
少し離れた場所で、地に片手を埋めたアイスコロッソスが不思議そうにこちらを見ている。……もしザックスが来てくれていなければ、今頃、自分はあの下に……?
「行くぜ!」
「え、あ……んぐっ」
ザックスが駆け出したので、フィリアは急いでエリクサーを飲み始めた。
★ ★ ★
粗方ではあるが、目に付くアンヴァースを片っ端から倒していくうちに、ヴェントゥスはヘラクレスたちと出会った広場に辿りついた。
そこでも、数匹のシェイドジェリーたちがぷかぷか宙に浮かんでいる。
「ここから先は通さない!」
キーブレードを構えながら叫んだとき、急に陽が陰り、ざわめくような気配がした。不思議に思って空を見ると、おびただしい程のシェイドジェリーたちが、ひしめき合いながら広場へ向かってやってきている。
「うわっ!?」
あんな数、とてもひとりでは抑えきれない。しかし、また町に広がったら──。
どうすればいいか当惑していると、誰かが隣にやってきた。フィリアかと思ったら、試合しているはずのヘラクレス。
「ハーク!? 試合はどうしたんだ?」
「棄権してきた。さぁ、一緒に戦おう!」
言って、ヘラクレスが拳を構える。棄権したのなら、フィルのコーチも件はどうなるのか──気になったが、今は問答している暇はない。
まるで雪崩のように、シェイドジェリーたちが広場の空を埋め始めた。
★ ★ ★
アイスコロッソスが強く足を踏み下ろし、周囲に衝撃波を走らせる。それを転がり避けて放ったファイガはアイスコロッソスの胸を穿つが、あっけなくアイスブレスで修復された。
「ったく、きりがないな」
切り落とした角が修復される様を見て、隣に立ったザックスがうんざり言った。気温はどれだけ下がったのか、吐く息は真っ白で、手足が悴(かじか)んでいる。寒さに体力を奪われてゆくこちらをあざ笑うかのように、アイスコロッソスが一度で作り出すアイススピアーの数は増えていく──劣勢だった。
「──守りを!」
アイススピアーの雨をリフレクで防ぐ。共にリフレクの内にいるザックスが、腕の血が滲む箇所を縛った。
「生半可の攻撃じゃ、アイスブレスで治されちゃう」
「一撃必殺で決めろってことか。いいね、英雄っぽいじゃない?」
「必殺技とか、あるの?」
「ああ。昨日思いついたやつだけどな」
「昨日、って……」
あっけらかんと告げられて、気抜けしそうになる。それは、使えるといえるのだろうか。
「フィリアは、さっきのより強い魔法って扱えるか?」
「うん。けど、時間かかるし……氷を避けながらじゃ、ちゃんと発動できるかどうか」
最近やっと使いこなせるようになった上級魔法。これより強いものになると“究極”と呼ばれるものになるが、その難易度は上級と比べてさえも桁違い。他事に気を取られていたら絶対に失敗する。それを伝えると、ザックスは「充分だ」と頷いた。
「俺があいつを引き付けるから、その間に準備してくれ」
「だいじょうぶなの?」
こんな状態だ。彼が倒れたら、もう勝つ望みはないだろう。
ザックスは剣を構えながら、自信に満ちた顔で笑った。
「信じろよ。俺は、英雄になる男だぜ?」
「…………わかった」
頷きあい、ザックスがアイスコロッソスの方へ走り出す。フィリアは近くの氷柱に身を隠し、一度大きく深呼吸をした。
「ほら、こっちだ!」
ザックスが破晄撃を放ちながらアイスコロッソスに呼びかける。挑発の言葉がわかるのか、ただ目の前の敵に反応しているだけなのか、アイスコロッソスが吠え、ザックスを見た。数十ものアイススピアーが作り出され、耳に痛いほどの音を立ててザックスに殺到してゆく。
「っとと、あっぶねー!」
こちらに安全を伝えるためだろうか、元気なザックスの声が聞こえる。それから、氷を弾く剣の音も。
ひっきりなしに鳴り響く激しい攻防の音の合間に、いつ苦痛の声が聞こえてくるか――不安で逸る気持ちに、落ち着けと言い聞かせた。チャンスはこの一度きり。失敗は絶対にできないのだ。
……まだ足りない――――もう少し──!
「──ザックス、いいよ!」
「おうっ!」
氷柱のひとつを足場に、跳んだザックスが裏超究武神覇斬でアイスコロッソスに斬りかかる。アイスコロッソスの角や牙が落とされた瞬間を見計らい、フィリアも溜めていた魔力を開放した。