フィリアの膝くらいの大きさにまで縮んでしまったアイスコロッソスが逃げた後、氷の景色や光の壁は幻想のように砕け消え、気温もすっかり元に戻った。
「俺たちの勝利!」
「勝て、たぁ……」
勝利ポースをする傷だらけのザックスの横で、ぜいぜい荒い息を繰り返す。究極魔法のひとつ、ファイアバーニングの残り火は、まだそこらで揺らめいていた。
「フィリアも一緒にポーズしようぜ」
「だめ……もう立てないよ……」
テーベの町から聞こえる悲鳴は、すっかり小さくなっていた。ヴェントゥスとヘラクレスのおかげだろう。
「仕方ないな。ほら」
「わっ」
投げられた瓶を反射的に受け止めた。エーテルだ。
「エリクサーはもうないから、エーテルな」
「あ、ありがとう。……いつもこんなに持ち歩いてるの?」
早速、瓶を開けて飲み始める。アイスコロッソスのおかげかよく冷えていて、渇きが癒える。ザックスがポーションの瓶を傾けながら言った。
「まさか。前に、モーグリを助けたらお礼に貰ったんだよ。ついでに消費期限も近いしって」
「…………」
無言で瓶のラベルを見ると、消費期限は二日前。思わず咳き込みそうになる。
「お──来たな」
言って、ザックスが飲み終えたポーションの瓶を置き剣を構えた。同じ方向を見ると、コロシアムの入口に数匹のシェイドジェリーたちがいる。
「モンスターが、もうここにまで? ヴェンたちがいるはずなのに」
「あの二人でも、手が回りきってないんだろ」
「二人とも、だいじょうぶかな……」
シェイドジェリーたちが、あっという間に二十を越える数になった。ヴェントゥスたちの安否が気になるが、コロシアムにはたくさんの人がいる。
「ここを守らないと──」
「フィリア、先に行ってていいぞ」
「え?」
まだポーションでも治りきってない傷があるというのに、軽い口調でザックスが言う。
「心配なんだろ、あいつのこと」
「でも、二人で倒したほうが早いよ」
「俺ひとりで十分ってこと! さっさと仲直りして来いって」
「ザックス……」
胸に暖かい気持ちが広がる。出会ってから短いが、彼には助けてもらってばっかりだ。
「ザックス。私……」
「お礼は、デート一回な」
「でっ、え!?」
言い伝えきれないほどにあった感謝の気持ちがどこかへ吹っ飛ぶ。狼狽している間に、ザックスがアンヴァースたちの方を向いた。
「んじゃ、ぱぱっと道を開くから、その隙に行けよ」
「あっ、ちょっと、待って……!」
ザックスが駆け出したので、フィリアもふらつきながら走り出した。
★ ★ ★
ヴェントゥスは頬に流れる汗を拭った。数え切れないほどの数を倒したが、広場の空は未だシェイドジェリーで埋められている。
「ハーク、だいじょうぶか?」
「平気だよ。ヴェンはどう?」
「俺も、これくらいどうってことない」
強がりを言い合って励まし、気力を奮い立たせる。数で責められることが、こうも辛いことだとは思わなかった。
「そういえば、ヴェン。知ってるかい?」
「何を?」
お互いにシェイドジェリーを消し去りながら、会話を続ける。
「ヒーローはこういうとき、仲間と合体技を使うんだ」
「合体技……?」
「そう。僕たちもやってみようよ!」
シェイドジェリーを蹴飛ばしながら瞳を輝かせるヘラクレスに、少しだけ嫌な予感──不安を感じる。
「そう言われてもな……どんな技にするのか考えてあるの?」
「もちろん。ヴェン、僕の方へジャンプして!」
「おう――――えっ」
言われるがまま、シェイドジェリーの三匹を払い斬りながらヘラクレスに向かってジャンプすると、ヘラクレスは自分の足をそれぞれしっかり脇で掴み回転を始めた。
「いっけぇぇえぇぇえ!」
「うわぁぁああぁ……」
ヘラクレスの叫びと共に宙へ放られる。ぐるぐる回転しながら飛ぶ様は、まるで大砲から発射された砲弾の気分だ。シェイドジェリーたちは風車のように回るキーブレードに当たったようで、いくつか手ごたえだけはあった。
「やったぁ! ヴェン、いい感じだよ!」
「はは……俺には、あんまり、いい感じじゃないかも……」
視界が浮いたり沈んだりしながら回っている。気持ちの悪さに足がもつれた。
──あ、だめだ。
「ヴェン!?」
ヘラクレスが呼ぶ声を聞きながら、ヴェントゥスは意識を手放した。