人魚の入江と呼ばれる場所に、人魚たちはいなかった。
「いつもならあそこにいるんだけどなぁ」
クマの格好をした少年、カビーの言葉を聞きながら、フィリアたちは道なきジャングルの中を進んでゆく。鬱蒼と茂る植物たちはフィリアたちの背たけよりも高いので、行き先を邪魔する葉っぱたちをひとつひとつ手で除けないとまっすぐに歩くことすら難しい。
「そんな日もあるよ」
キツネの格好をした少年、フォクシーが面倒そうに葉を払う。
「そうだね……残念だけど、次は会えたらいいな」
自分を納得させるためにもそう答える。海だけでなく、これから流れ星まで見られるのだ。そのうえ人魚もなどと、いつまでも欲を張るのは贅沢だろう。
熱帯地域特有の植物の中を尚も進むと、広場のように少し開けた場所に出た。中央には雷に打たれたような姿をした大きく太い枯れ木が一本だけ佇んでいて、ところどころに先を円に結んだロープがかけられている。そこはかとなく恐ろしさを感じさせられる大木。いったい、何なのだろう。
フォクシーたちに訊ねようと思ったとき、奇妙な鳥の鳴き声が響き渡った。
「ピーター・パン!」
フォクシーとカビーが満面の笑みで空を見たので、同じように見上げると、なんと人間が空を飛んでいた。目の錯覚かと一度目を擦ってみるが、間違いない。緑の衣服を着た少年が両手を広げ、何にも頼らずに飛んでいた。ティンカー・ベルが嬉しそうに彼の元へ飛んでゆく。
ピーター・パンと呼ばれた少年は自分たちの顔の高さまで降りてくると、手を顎に充て、訝しげに眺めてきた。
「誰だこいつらは? 見ない顔だな」
「俺、ヴェントゥス。ヴェンって呼んでくれ」
「私はフィリア。はじめまして」
「ふーん。ま、いいか」
どうでもよさげに返事をしながら、ピーター・パンは地に足を着ける。
「気をつけ!」
号令に合わせ、フォックスとカビーが敬礼し、直立する。
「おまえたち、海賊のお宝は欲しくないか!?」
「海賊のお宝!?」
「欲しい!」
フォックスとカビーの反応に気を良くしたピーター・パンは、上機嫌で続ける。
「フック船長が、お宝を隠しているところを見たんだ。それを横取りしてやろうじゃないか!」
「おもしろそう!」
「行こう! 行こう!」
流れ星の話はどこへやら、ピーター・パンの誘いにフォックスとカビーはあっさり乗ってしまった。
「いてっ!」
「いたっ!」
怒り顔のティンカー・ベルがフォックスとカビーの顔を蹴っ飛ばし、ピーター・パンの眼前にて抗議する。
「ティンク、どうしたんだよ?」
「みんなで、流れ星を探しに行く途中だったんだ」
「海賊のお宝のほうがずっと楽しいって。ティンクもいっしょに行くよ!」
ティンカー・ベルが体ごとそっぽを向く。しかし、ピーター・パンは彼女を更に怒らせてしまったことに気がついてないようだった。
「なんだよ。せっかく誘ってやったのに。ヴェン、フィリア。君たちもいっしょに来ないか?」
「ありがとう。でも、俺は流れ星を探すよ」
「私も。宝探し、がんばってね」
「行きましょ!」と言うようにティンカー・ベルが側に飛んでくる。
フィリアたちは彼女に導かれるまま、いっそう繁茂しているジャングルの奥へと足を進めた。