気がついたら、リクと部屋に閉じ込められていた。部屋の扉には「キスしなければ出られません」とだけ書いてある。
 初めは、ふたりともなんとか出ようとがんばった。けれど、キーブレードで開かない部屋をどうやって開ければいいのか。結局、私は諦めて、いまだどうにか脱出しようとがんばっているリクの背を眺めていた。

「絶対に、出してやるからな」

 疲れきっている様子なのに、リクはまだがんばろうとしている。確かに私たちは恋人同士ではないけれど、それなりにいい関係を築いてきたと思っている。キスの一回くらいで壊れるものではないと信じたかった。

「リク」

 そっとリクの腕を掴むと、彼は爽やかに「なんだ? 心配いらないぞ」と勇気づけてくれる。闇から戻ってきたリクは、いつもこんな風に私たちを守ってくれるけれど、私のこと、どう思っているのだろう。

「もういいよ、リク」
「えっ?」
「キスで開くのなら、キスしちゃおうよ。リクが私でよければ――だけど」

 強制されてするキスなんて、口と口をさっと合わせてしまえばいいのだ。そう、軽く考えていた。
 リクがこちらを振り向き、真剣な表情で私の目をじっと見つめてくる。15歳の頃の彼も美形だったけれど、最近は背がうんと伸びて、更にかっこよくなったと思う。

「いいのか?ーーいや、後悔しないか?」
「リクとなら、後悔なんてしないよ。リクこそ、ごめんね。相手が私で」
「……わかった」

 リクはしばらく目を伏せて、決心したようだった。私は自分で言い出したことなのに、本当にリクとキスすることになるなんてと、心臓がドキドキ高鳴りだす。一瞬で終わることだ。ほんの一瞬、たった一瞬だけ……。

「じゃあ、パッと終わらせちゃおう」

 恥ずかしさを誤魔化すように笑いながら、リクを見上げ、目を閉じて、さぁ来い! とキス待ちをしたところ、ぐっと手を引かれ、リクに抱きしめられていた。

「えっ?」
「フィリア」

 いつものと温度の違う、優しい声音で呼ばれて、頭の中に「!?」がいっぱいになる。こんなの、まるで本当の恋人同士みたいだ。キスだけでいいのに、どうしてこんなことするのだろう。リクは優しいから、こうやって私の緊張をほぐそうとしてくれているのかもしれない。

「リク、あの、私、本当に大丈夫だから、早く……」
「俺がこうしたんだ。だめか?」
「う。だめじゃ、ない……」

 闇を克服してから、爽やかさまで手に入れたリクにこう言われて、断れる女性がいるだろうか。おずおずとこちらもリクの背に手を回して、抱きしめ返した。
 ううう。リク、なんだかいい匂いがする。たくましい腕がかっこいい。自分の胸がリクの胸板に触れているのが恥ずかしい。などなど。あまりの情報量に頭がクラクラしていた。

「ねぇリク。私、その……初めてだから、あんまりこんな風にされると恥ずかしいよ」

 そろそろ勘弁してと訴えると、リクからフッと笑む気配がする。こっちはこんなにも大変なのに、なぜリクはこんなに余裕なのだろう。うーん。黒コートを着ていた時代に、女性経験も積んでいたりしたのだろうか。

「余計なことは、考えなくていい」

 なんで考えてたことが分かるの。問う前に、頬に手が添えられ、あっさりキスされた。頬がかっと熱くなる。しかし、離れようとしたところ、背にまわったリクの腕が強まって、頬の手は後頭部に移動して、逃げられなくなったことに硬直した。

「ん、んんっ……!?」

 力をこめて離れようとしたが、角度をかえて更にキスが続いた。次は舌が入り込んできて更に驚く。噛むのはリクがケガをしてしまうので、口内を舐めまわす舌を自分の舌で押し返そうとしたが、失敗し、からめとられた。
 キスの音がなまなましく耳に届いてきて、頭の中が真っ白だ。息継ぎタイムのようにわずかな間隔をあけられては、浅く、深く、数えきれないほどキスされた。次第に意識がぼうっとしてきて、気持ち良さに、後半はもう自分からも舌を絡ませてしまっていたような気がする。
 膝から崩れそうになったが、リクが支えてくれたというか、そんな状態でもキスが続いたというか。
 唾液が繋がるくらいに長いキスが終わったあと、リクの腕の中で荒い息を繰り返していると、リクが私の口元を指でさっと拭ってくれた。

「扉が開いたな。フィリアのおかげだ」

 そして「ありがとう」なんて、平然と美しく微笑むリク。恥ずかしさだとか怒りだとか、いろんな感情がこみあげてきて、彼の胸板を力が入らない拳でぽかぽか殴りつけた。

「どうして、こんなキスするの。一瞬で済まそうって言ったのに」

 すると、リクはつんと澄まし顔になった。

「軽々しく、男とキスをするなんて言うからだ」
「だ、だって、リクだし。リクならきっと紳士的に、一瞬で済ませてくれると思ったから……」
「俺だって男だぞ」

 リクがあからさまにムッとした表情になる。

「好きな子にキスしようなんて平然と言われたら、さすがに怒るさ」

 ポカンとしていると、リクが「で、返事は?」と訊ねてくる。思考も身体も固まったままでいたら、もう一度軽くキスされた。





2.3.25

- 39 -

*前次#


ページ:

トップページへ