序章[5]


練習でも思っていたけれど、どうしてこう、儀式というものは長ったらしいのだろうか。……と、そういうことを考えるのはいかがなものかとは分かっているもののやはり退屈だ。

聖堂の時計の鐘がなるのと同時に、儀式は始まった。初めはもちろん、この儀式を取り締まる大神官様の話というやつだ。村長の話は尋常じゃなく長かったからそれに比べればこれは可愛らしいものなのだろう。この演説自体は本番前の練習でもなんとなく聞いていたから、たいして長いものではないということは分かっている。
それなのになぜ退屈なのかというと、話の内容が内容だからだ。基本的に神官様の使う言葉は難しい。学校の精霊学や化学の授業でも思っていたが、大人の話というのはどうにも難しい単語ばかり使いたがるような、そんな気がしてならない。
ほら、隣に居る筋肉なんかもう飽きて足をぶらぶらさせている。学校に上がる前の子供か。母親に連れられて儀式の見学に来た子供なら許されるわけだが、それがもうすぐ成人の儀を迎えようかという男では許される要素が皆無だ。

「ラシア様、ボドゴリッツァ様、そろそろこちらへ」

不意に小声で話しかけられる。さっき僕たちを案内してくれた神官様だ。
神官様の誘導に従い、音を立てないよう席を立つ。聖堂の奥にある、祠へ向かう。
でも、ここから先は誰の誘導もない。誰の助けもない。どうしようもなく大きな重圧の中、僕たちは僕たちだけの力でこの仕事をやり遂げなければならないのだ。

――とはいえ、やるべき仕事は簡単だ。実にシンプル。一つ一つの動作にかける時間が長いのを除けば、その工程はたった三つになる。
一つ目――祠の前に進み、女神様に対する文言を述べてからその鍵を開く。
二つ目――祠の中にあるご神体に向き合い、祈りを捧げる。
三つ目――ご神体に新しい封印のための札を貼り、古い札を剥がす。

そう、たったこれだけだ。
頭の中でもう一度その流れを確認しながら、大きく息を吐く。

「……大丈夫、できる」

今隣に立っているのであろう奴のことは気にしない。僕は僕にできることを精いっぱいやろう。

ゆっくりと、また歩き出す。祠の前で跪く。

「この世界を取り巻きしすべての精霊よ、永き眠りに就きし我らが女神よ――」

噛まないように気を付けて、文言を読み上げる。これで、一つ目はクリアした。
慎重に鍵を押し上げ、祠の扉を開く。中には、目を閉じた髪の長い女性の石像。おそらくこれが、「ご神体」だ。
目を閉じて手を組みさっきの文言と同じようなことを頭に浮かべる。祈りを捧げる、と言われても何を祈ればいいのかよくわからないからだ。
でも、そうだな、それなら……この儀式が無事に終わりますように、とでも――

『――それで、いいの?』
「っ!?」

突然、誰かにそう囁かれたような気がした。驚いて体が強張るが、今は神聖な儀式の途中だから声は出せない。
冷静に考えれば、儀式の最中には誰の声もしないはずなのだ。それにも関わらず、確かにその声を僕は聞いた。僕の声でも、筋肉の声でもない、一つの声。
そして次の瞬間、瞼を下したはずの視界は真っ白に塗りつぶされていた。


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