序章[6]


――――これは夢だ、と思った。夢を夢だと思いながら見るなんて珍しいこともあるものだ。でもこれは、確かに夢だった。
眠りの中のように暖かく頭はぼうっとして、なのに思考は冷静にこの状態を観測している。……これ以上ないぐらい、奇妙な気分だった。
うすぼんやりとした景色の中に、いくつかの人影が浮かび上がる。子どものようだった。男の子が二人と女の子が二人。僕が見ているのは彼らが森の中で遊んでいる夢のようだった。我ながら呑気な夢を見るものだな、と思う。

「気を付けないと、転ぶよ」

背の高い方の男の子がそう言った。蝶を追いかけて走り回っている女の子に向けた注意らしい。森の中は石や木の根で足場が悪い。確かに、これは危ないなと思った――そして、その忠告の直後、盛大に彼女は突き出した岩に足を引っかけて転び泣き出した。

「あっ、ちょっと、大丈夫?」

慌ててその子に近寄ったのは忠告をした男の子ではなく、もう一人の女の子だった。男の子の方は呆れたといった顔でため息をついている。

「ねえ、助けなさいよ。お兄ちゃんでしょ」
「気を付けてって言ったよ」
「言うのが遅いわ」

転んだ子を抱き起してにらみつけてくる女の子に、男の子はたじろいで目をそらした。なおも彼女は責め立てようというように口を開きかけたけれど、その前に今まで黙っていた方の男の子が止めに入る。なんとなく気の弱そうな子だ。

「ちょ、ちょっと」
「何よ」
「口喧嘩は良くないよ。それに、もしケガをしていたら手当てしないと」

ケガをしていたら、というのは当然転んだ子に対してだろう。怒られたらいやだな、とでも思っていそうな顔でおどおどと告げた彼は、怒っている女の子というより抱えられている転んだ彼女の方を見ているようだった。

「……あたし、塗り薬持ってるわ。足、見せてみて」

彼の言葉を聞いて、女の子はこの場ではひとまず怒りをおさめたらしかった。肩にかけていたポシェットの中から小さな缶を取り出してそんなことを言う。

「あ、僕も薬持ってるんだけど……」
「あんたはいいわ」
「……えー」

即答で申し出を断られて彼はしゅんとした。転んだ子の兄らしい男の子はまたため息をついている。どうもこの四人の子供たちのヒエラルキーが見えた気がした。

それにしても本当に呑気な夢だ。……そう、夢だ。これは夢だった。
こんな夢を見ている場合じゃない。寝ている場合じゃないはずだ。確か今は儀式の途中だったはず――思い出した瞬間、僕は我に返った。


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あと1センチ