序章[8]


聖堂での騒動からしばらくして、とりあえずのところすぐに何かが起こるわけではなさそうだとわかると村役場の人を中心として未だ動揺している人々の避難と誘導が始まった。
聖堂に集まっていた神官様たちに調査をお願いし、ひとまずは村民全員が自宅待機ということになった。遠方からの客人たちは村役場の地下に案内したらしい。僕と筋肉もそれに続く――わけには当然いかず、村長の家に呼び出された。

「さて、お前たち。……何があった?」

目の前の村長が、いかにも聞きにくいことを聞くように重い調子で話し出した。いや、実際これはものすごく重大なことなのだけれど。

「本当に、申し訳ありません。村長」
「今謝罪はいらない。私が訊いているのは、何が起きたか、だ」

 僕が謝ると、意外にも村長はそんなことを言った。正直、どう罰されても仕方ないと思っていただけに、ちょっと拍子抜けする。村長は謝罪はいらないと言った。一体どういう風の吹き回しだというのだろう。
 ……とは言っても、実のところ僕も何が起きたのか、よくわかっていなかったりする。僕の方が訊きたいぐらいだ。
 気が付いたら爆音がして、僕の方ではないもう一つの祠が吹き飛んでいて、それからパニックになって――そうだ。何が起きたのか、訊くべき相手はあいつの方ではないのか。

「……おい、お前は何か知ってるんだろ?」
「……」

隣で未だぼけっとしている幼馴染の、背中をばんと叩く。奴はその一撃で我に返ったらしいが、それでもまだ夢でも見ているような様子だった。――現実が受け入れられない、というやつか。

「……気が付いたら、爆発してたんだ」
「は?」

なんだそれ。思わず訊き返してしまう。

「よくわかんねえけど、気が付いたら、爆発してたんだ」
「……お前がやったんじゃないのか?」
「違う。それだけは、違う……はずだ」

語尾に若干自信がないのが気になるが、どうもこいつの話ぶりに嘘はなさそうだった。それがわかってしまうのもなんだか癪なのだけれど、不本意ではあるものの古馴染みが濡れ衣で処罰されるのを平然と見ていられるほど僕の神経は図太くない。まあ、本人がやってないと思い込んでいるだけとかなら話は別だけど。

「村長。あの、信じられないかもしれませんけど、多分こいつの言うことは本当です」
「ラシア……お前……!」
「こいつ昔から嘘つくとき必ず左上を見る馬鹿なんで。多分本当です」
「……え、嘘?」

僕が(一応の)弁護をすると、奴がとたんに目を輝かせてこちらを見てきたので即座にネタばらしをする。自分で気づいていなかったようだけど、これ村の同年代の奴らには知れ渡っていることだからな。
……それでも、正直許されないだろうな、とは思っていた。
もしも噂の通り死の女神が復活しているのなら、それはたとえ妨害行為があったとしても儀式をやり遂げなければならなかったのにできなかった僕たちの責任になるだろう。
――と、そこまで覚悟を決めていたのに、次に出てきた村長の言葉はこんなものだった。

「ラシア、ボドゴリッツァ。さっきも言ったが、私はお前たちに謝罪を求めているわけではないぞ」
「……へっ?」
「と、言いますと?」

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。筋肉も同様だ。
 村長は少し声を潜め、もう一度口を開いた。そこから転がり出てきたのは、なんというか、その、とんでもないことだった。

 「妨害にはあったが儀式は成功し、女神は復活していない、ということにした」
 「は!?」
 「まあ、わかりやすく言えば、うちの村はこの件を隠蔽する」

 ちょっと、いきなり何を言い出すんだこの村長。っていうか隠蔽って言っちゃったよ。隠蔽って。……隠蔽って、ことは……

 「……女神は復活したんですか?」

 嫌な予感を、直球に訊く。聖堂を後にしてから、ずっと考えていたことだ。

 「まだわからん。杞憂ならいいがな」
 「おい、ジジ……村長にもわからねえのかよ」
 「私が全能とでも思ったか。女神だの精霊だの、正直私の手には負えん。神官どもに投げてある」
 「え、それでいいんですか……?」
 「構わんさ。それで今まで女神復活の決定的な証拠がないのだから、復活しちゃいないだろう。……ま、復活してない証拠もないんだがな!ははは!」
 「いやそれ笑いごとじゃないでしょう!?」

 村長本当にそれ笑い事じゃないから!僕たちの運命かかってるから!……と言いたいものの、ぐっと飲みこむ。それならばそれで、何故僕たちが呼ばれたのかがますます謎になる。
それをまず僕は村長に訊くべきだった。

 「村長、あの……」
 「ああいい、わかっているさ。何故呼ばれたのか、だろう?」
 「はい」
 「それは簡単な話だ。――お前たちに、仕事を与える」

 村長は急に真剣な顔つきになって、言葉をつづけた。

 「お前たちには、女神の封印をかけ直してもらう」

 無茶ぶりが村長お得意の技だとは常々思っていたが、今回ばかりは固まるしかなかった。


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あと1センチ