とりっく おあ とりーと / 四天宝寺
「なあなあ白石ー、ハロウィンって何?」
事の発端はこの一言から始まった。
部活が終わり部室で談笑していた私たちは一斉に二人のほうを向く。
何なにどーしたの金ちゃん!ハロウィンをその歳で知らないとか人生今まで損してたじゃん…!
ハロウィンとか最高だよもうほんと。
だってただでお菓子が食べれちゃうんだもん!
「金ちゃん、ハロウィンっていうのは」
って私が金ちゃんに説明をしようとしたら謙也とユウくんに口を押えられ、遮られた。
もごもごしながら暴れていたら謙也が、
「アホ、ここで金ちゃんにハロウィンの説明したら大量の菓子をあげなあかんようなるやろ、せやから説明はするなっちゅー話や」
そう耳打ちしてきた。
納得した私は二人にメンゴメンゴと手を合わせ、金ちゃんには「仮装して町を歩き回る日だよ」と言った。
まあこの説明間違いではないよね、むしろこれでいいような気がする。…私はお菓子がメインだけど。
「仮装して町歩いたら何かあるん?」
うっ…。金ちゃんがそう返してくるとは思わなかったぞ…!しくじったあああああ!
みんなも安心した顔してたはずなのに金ちゃんの返答から急に空気が変わってみんなまたあわあわし始める。
そしてみんなの視線が何故か私に注がれる。ナンデダロウ。
私は白々しく知らんぷりをしたが銀さんに肘で突かれてしまいやむを得ずまた言い訳を考えなくてはならなくなった。
んーんーんーなんて唸り声をあげながら必死に考える。……フリをしてる。
だーってみんなの目が本気(マジ)なんだもん。
とくに謙也の目が一段とやばいっすねー。
小春ちゃんとユウくんなんて抱き合って「どないしよ…」とか「大丈夫や、俺が守ったる」なんて言ってる。
どこの恋愛ドラマじゃそれは!!
「まぁ金ちゃんは簡単に信じるから大丈夫ばい」
はにかみながら千歳が私の肩に手をポンッと置いてきた。
だとしてもそれ以前にいい言い訳が思いつかないんじゃい!
自分で立てたフラグだけど今激しくへし折ってしまいたい!
…あ、言い訳なら財前得意のはずだよね。
そう思って部室を見回す、が肝心のヤツはいなかった…!
こんな事態にあいつは何先に帰っとんじゃー!!
やばいやばい助けてもらえないとか終わった…仕方ない、白石にでも押し付けるか。
…ってこの手があったじゃないか!今頃気付くとかおっそ!悩んでた時間を返せえええええええ。
私は白石の元へ行く。
「白石ー、パス」
タッチをしてパス宣言。
白石に慌てる様子はなく、むしろ待ってましたと言わんばかりのキメ顔(笑)をして一歩前へ出る。
「フッ…やっと俺の出番やな」
「待ってたんかいな」
ぼそっと呟く謙也を含めこの場にいるメンバーみんなが呆れ顔をしている。
私は白けた顔をキラキラ光線を出している白石に向けてるけどね!
ほんといつ見てもこの顔は腹立つのぅコラ。
「ええか金ちゃん、ハロウィンって言うんはな」
なんか急に語り出した!?この場の空気の中よく言い出す気になったな、ある意味尊敬…しない。
せぇへんのかい!ユウくんと小春ちゃんが両端でツッコミをいれてきた。
…てか二人ともいつの間に私の両端に来たの!?
しかも何、読心術使えるようになったのおおお!?それともこれはまさかのシンクロ?
いやいやでも私マネージャーだしこの二人ともそんなちょー仲良し☆ってわけでもないしなあー。
なーんてポカーンとしてたらユウくんが「口に出とったで」なんて言うからなんか少し恥ずかしくなった。
「もう、ゆうちゃんてばお茶目さんなんやからっ」
自分の腕と私の腕を絡めて人差し指でこつんっと額を小突く。
「お、おい小春!浮気かっ、死なすど!」
「ふんっ」
「こ、小春ううううううううう!!」
ちょ、お前ら…
「私を挟んで喧嘩するなあああああ!喧嘩をするなら料金払え」
すると二人は声を揃え真顔で「NO」と返してきた。
なんてこったい、なら残念だが喧嘩のお時間はこれでお終いだ。
まあとりあえず一段落ついたところで白石が咳払いをした。
あ、長話が始まるフラグ立った。
ってことで私は帰らせてもらおう。
こっそり荷物を持って誰にも気付かれないように無事外へ出ることに成功した。
「うぅ…さっぶ!じゃ、みんなあとのことはシクヨロってことで」
家へレッツゴーと小声で言っていざ歩き出したとき、制服の裾を掴まれた。
びくっとして掴まれた袖を見るとそこには、さっき逃げたと思われていた財前が怠そうにしゃがんでいた。
「ざ、財前?帰ったんじゃなかったの?」
「先輩の事、待っとたんですわ」
ゆっくりと立ち上がり、裾から手を放した。
「…え、何で?」
「トリック・オア・トリート。お菓子、くれるっすよね?」
……持ってねーよ、つか私は貰う専門なんだから用意してるはずないだろおおおおおおおお!
「あははないんだてへぺろ、じゃあまた明日!アデュー!」
向きを変え、ダッシュで帰ろうとしたが失敗した。腕を掴まれ逃げられない状態に…。
「そない俺に悪戯されたいんやったら最初からそう言うてくれればええのに」
そう言ってヤツは不敵に笑った。
暗がりでもその表情はよくわかってしまう。
…って!この状況だいぶやばいんじゃ……
そう思った時にはもう手遅れだった。
部室裏の人気の少ない場所、部室の中にはまだ数人が残っている状況。
わたしがびくびくしてるのを見てこいつは絶対に楽しんでやがる。
「ね、ねぇ?そろそろ離さない?」
「何言うてるん?お楽しみはこれからっすよ」
財前はゆうの首筋に噛みつき赤い痕を残す。
「んっ…いたいっ…」
「ぼやっとしとると吸血鬼に襲われてまうで」
そう言ってひらひらと手を振りその場から去っていく財前。
――あれ?ハロウィンってこんなだっけ?