「なぁ廉造」
「ん?何や」
「…やっぱええ、何でもない」
朝、登校中に言うてくれるとおもたのに、廉造は言うてくれへん。
…今日はうちの、誕生日なのに。
もしかして、今日はうちの誕生日やってこと忘れとるんやろか…。
それやったら明日どついたろっと。
…廉造がおめでとう言うてくれるん、昨日の夜から楽しみにしとったのに。
せっかくの誕生日なのに気分が全然乗らんわ。
あれから一言も廉造と言葉を交わすことなく学校に着いた。
着いてからも話さんでさっさと自分のクラスに向かう。
授業が始まっても、内容が頭に入ってこうへん。
今、うちの頭ん中は朝のことでいっぱいやから他のことが入る余裕はないねん。
一度も授業に集中することなく一日が終わる。
周りは帰る支度を始め、帰り始める。
一人になりたい気分やったうちは廉造が迎えに来る前に教室を出ることにした。
廊下を歩きながらうちが考えとったのは、廉造のこと。毎年朝におめでとう言うてくれてたんに、今年は言うてくれへんかった。
この事ばかり頭ん中でリピートする。
これだけのことで、自分がこないになるやなんて思わへんかった。
はぁ、と溜息を吐き重い気持ちのまま家に向かう。
「…なんやねん、バカ廉造」
「だぁーれが、バカやって?」
「…へ!?…れ、廉造っ!」
「ほれ、この箱開けてみー」
そう言い小さな可愛らしい箱をうちに渡してきた。
つかいつからそこに居ったん!?
来るなら来るて言うてほしいねんけど!
「これ、何?」
それは開けてからのお楽しみや、なんてニッと笑う廉造にキュンとしてしまう。
うちは箱のリボンをほどき、ゆっくりと開ける。
その中にはシルバーのリングが入っていてうちがそれを見たと同時に廉造は中のリングを取りだし、うちの右手をとった。
ゆっくりとうちの薬指に嵌められるシルバーリング。
その行動にうちは嬉しいと同時に苦しいという気持ちに襲われた。
「ハッピーバースデー。それと、」
廉造は一度俯き、そしてゆっくりと顔を上げまたうちと目を合わせ
「好きや」
そう言った。
うちが最も欲しかった言葉、この言葉をどれ程の時間待ったやろか。
けど、今この言葉を言うっちゅーことは廉造が来年遠くに行ってしまうっちゅーこと。
口では言われへんからこうやって伝えてるんや、ずっと一緒に居ったからうちには分かる。
だからうちは絶対に、寂しいなんて言わない。
「――うちも、好き」