ホクロを馬鹿にした者はホクロに泣く / 雪男
放課後、わたしは塾で習った事がさっぱり分からなかったので奥村弟に教えてもらおうと廊下で待ち伏せていた。
「やっほー!ホクロてんてー!」
「誰がホクロだ! 全く、人の名前もろくに覚えることができないんですか」
はぁ、とわかりやすく大きなため息をつき 頭を抱える雪男。
「まぁそれはそうと、今日の復習したいからどっか寄ってお勉強デートかてんてーのお部屋に訪問したいなっ」
語尾にハートでもつきそうな言葉を雪男に投げかける。
が、奴は相変わらずのポーカーフェイスですんなりどっちも断った。
しかもわたしを蔑むような笑顔で。
「僕が教えたとこであなたの脳が覚えるとは限らない。すなわち僕の時間の無駄になるということだ」
「おいそれが先生の言う言葉かよ」
ぶーぶー言うわたしの横を通り過ぎて帰ろうとする雪男の身体にしがみつく。
「ちょっ、何してるんですか!変な誤解を生むようなことしないでください!」
わたしはがっちりホールドをして逃がさない。
が、しかし男の子の力には敵わなく少し暴れた雪男を逃してしまった。
「わああ行かないで!お願いしますもう居眠りしませんからこの通りお願いしますぅ!!!」
廊下におでこをお擦り付け不服だが土下座をして雪男にお願いをする。
わたしの土下座姿を見た雪男は小さなため息をもらし呆れながら腰に手をやる。
「…わかりました。少しだけですよ」
ぱぁあっとわたしの顔は一気に明るくなる。
「ありがとう!!さすが神様仏様ホクロ様!!」
わたしの言葉を聞いた瞬間、雪男の眉間がぴくぴくっと動いた。
「あなたは僕を怒らせるのがお上手なようですね。僕の大事な時間を使って教えてあげるのですから、次の小テストは満点を取ってもらわないと」
雪男は黒い笑みを浮かべわたしを引きずって空いている教室へ入った。
「えっ、ええぇぇぇええええ!??!!!やっ、あの、そういうつもりじゃ…!!!!」
「ゆうさん、さぁ始めますよ」
飛び切りの笑顔で教材の準備を始める雪男。
「いっ、いやぁああああああああああああああ!!」
誰もいない放課後の塾に、わたしの悲鳴が響いたことは誰も知る由もなかった。