居残り / 廉造

「あ゙ぁもう最悪!」

放課後の薄暗い教室に響く叫び声と

「まぁまぁ、落ち着いたって下さい」

それを宥める声。

「何でわたしが居残りなんてしなくちゃいけないのさ!」

「…アホやからやろ」

ボソッと小声で言った言葉をゆうは聞き逃さなかった。

「廉造、だぁーれがアホだってぇ?」

「おげ…!聞こえはったん!?」

わたしの耳は地獄耳なのよ、甘く見ないでくれるかな。
と続けて満面の笑みで言う。

「…厄介な耳なんやね」

ぴくっ

またゆうの自慢の地獄耳が反応した。

「れんぞーくん。そのお口、ガムテープで止めてあげましょうか?」

低い声で言い、最後にはニコッと笑顔を向ける。

「す…すんません冗談です…ははは…」

苦笑いをし、廉造は大人しくなった。

「なぁんで、わたしぃが、居残り、しなきゃなの、授業中に居眠りぃー、してるだーけーじゃーなぁーいー!」

もりの(ピー)さんの替え歌を作って歌いだすゆう。
だんだん歌う、というよりただ不満を叫んでいるだけになっていく。


「相変わらず歌は上手ないんや…ぐふ!」

と、廉造が横でクスクス笑いながら言ってきてムカついたので喋ってる途中でガムテープを口におもいっきし叩き貼ってやった。

「うるさい黙れ変態ピンク」

廉造の耳元で低く囁く。

「んーんー!」

別に両手は自由なんだから口のガムテープなんて好きに剥がせばいいのに、なんて思いつつ居残り課題を進める。


…が、それも長続きはすることなく、ゆうは机に突っ伏した。







「…ん、」

あれからどれくらいの時間が経ったことか。
さっきまで眩しかった夕日も、すでに落ちてしまっていて辺りは暗くなっていた。

それに、体が温かい。

………温かい…?

え、あれ?
夕日が落ちてるんだから寒いはず、だよね?

な、なのに何で…!?
ばっ、と起きて周囲を見回すゆう。

「あっ…」

ゆうの肩から大きめの制服の上着が落ちた。

これ、廉造のやつだ。


その廉造はというと、わたしの後ろの席に突っ伏して寝ていた。

時期が時期だしこんな暗くなったら気温だって低くなるに決まってる。


なのに何でわたしに上着をかけてくれたの…?
自分が風邪を引くかもしれないのに。

わたしは廉造の上着を寝ている廉造にかけてあげた。

そして何となく廉造の顔をじーっと見る。
こうやって廉造のことじっと見るの初めてだなー。

「こいつの寝顔案外可愛いじゃん」


「…それ、ほんまに言うてます?」


「んえっ!??!!!」

急に廉造が喋り出して驚くゆう。

廉造は身体を起こし頬杖をつく。

「ん?どうなん?」

じーっと見られ顔を真っ赤にしたゆうは廉造から顔を逸らす。

「何や ちゃんと言うてやー」

廉造に頬をむにゅっとつままれる。

「に、にゃにしゅんにょよっ」

抵抗するが余計に面白がる廉造。

こんの意地悪野郎!許さない!
ぱっと手を離し立ち上がる廉造。

頬を抑えるゆう。

「さっ、もう時間も時間やし帰りましょ。寮まで送りますんで」

片付けを手伝ってくれる廉造。

なんかむかつくけど優しい廉造にきゅんとした。

…なんて本人には絶対に言わないけど。