準備いいですね / 子猫丸

ある、晴れた昼間のこと。

わたしは珍しく部屋に篭らず外に出て陽の光を浴びていた。

「んっん〜〜〜!久々の日光浴はきもっちい〜!」

寮の屋上で呑気に寝そべっているゆう。

雲一つない晴天。
こんな日の日光浴は格別だ。

誰にも邪魔をされない至福の時。

にゃー


…ん? 今猫の鳴き声がしたような。
がばっと身体を起こして辺りを見回すゆう。

すると、寮の近くに立っている木の上に登って降りれなくなったであろう子猫がいた。

「あっあの子猫!降りれないんだ」

ゆうはそのまま走って屋上から子猫がいる木まで向かった。

にゃー にゃー

怯えながら木にしがみつく子猫。
周りには誰も居ない。

とりあえずゆうは寮から椅子を持ち出し、登りやすいようにした。

「今、助けてあげるからね。大丈夫だから大人しく」

ゆっくり、ゆっくりと登っていく。

木登りは得意ではなかったが自然と身体が動き、子猫がいるところまで登っていく。

後、少し…!


と思ったその時、

バキッとゆうが足を乗せていた枝が折れてしまった。

ゆうは両手で宙吊り状態となってしまう。

そして上にいた子猫が反動で足を滑らせ、ゆうの真上に落ちてくる。

「あっ…!と、セーフ」

片手で落ちてきた子猫を抱き締め、子猫は助かった。

が、枝を掴んでいたゆうの左腕は限界がきてしまい、ズルッと枝から手を離してしまった。

バサッとゆうが落ちたところは茂みとなっていて幸い怪我はなかった。

ただちょっと腰を打ったくらい。

「〜〜ったぁぁ!…あっ子猫!!」

自分が抱き締めていた子猫を見てみるとぶるぶる震えていた。

ゆっくりと離し、頭を撫でてやる。

「怖かったね、でももう大丈夫だよ」

「…はぁ、っはぁ!あの、今木から落ちとったみたいやけど大丈夫です!?」

慌ただしく誰かが来たと思ったらその人はわたしのすぐ側にしゃがんだ。

よく見ると救急箱を抱えている。

「えっと、うん。大丈夫だよ」

にこっと笑顔を彼に向けると彼は安心したのかその場にへたり込む。

「ほんならよかったです。さっきここを通りかかったら子猫を助ける為に木に登っとる女子生徒の姿が見えたさかい、救急箱だけでも て思て取りに行ったんですけど怪我がなくてよかったですわ」

「なんかごめんね走らせちゃったみたいで。わたしもこの子も大丈夫だよ」

子猫を抱っこして彼の前に出す。

すると彼の表情は変わり、子猫に夢中になる。

「はぁぁかわええなぁっ。よしよし」

子猫の頭を撫でてふにゃっと表情を柔らかくする。

あーそや!と彼はポケットから折り畳み式の猫じゃらしを出した。

その猫じゃらしで子猫と遊び始める。

「準備いいんだね。いつも持ち歩いてるの?」
「ええ、いつ猫と出会うてもええように持ち歩いとるんですよ」

子猫と遊びながら満面の笑みで返す。

「へえーっ。あっ、その名前は?わたしはゆう。名乗るの遅れてごめん」

「僕は、子猫丸いいます。よろしゅうね」

にこっと返す子猫丸に、わたしも負けないくらいの笑顔で返す。


「子猫丸か、可愛い名前だねっ」

これが猫好きの彼との最初の出会い。