兄 / ラクサス

ガタガタガタ

「やっ、ちょっと何!?地震!?」
「最近多いのよね、でもすぐおさまるから問題はないと思うんだけど…」

ギルドでミラさんと話すのが日課なゆうは今日もミラさんとプチ女子会をしていたら急に地面が揺れ始めた。
そんなに大きな揺れではなかったためすぐにおさまったがわたしは地震が苦手だ。

…地震というか揺れるものが苦手。
だから乗り物も苦手なの。

ナツたちみたいに滅竜魔導士だから乗り物が苦手じゃないの、単純に昔から苦手で今も克服できてないだけ?

「…ぅえ、ちょっと気持ち悪くなってきた」
「大丈夫…?奥の医務室のベッド使ってもいいから休んできていいのよ」

ミラさんの優しさに甘え少しベッドに横にならせてもらうことにした。

ベッドに寝転んでから少しして医務室のドアが開く。
ミラさんかな?と思い起き上がると、

「よぉ、お前あんな揺れごときにダウンしたんだってな?相変わらずお前はガキん頃から変わんねぇ」

やってきたのはミラさんではなくラクサスだった。
ベッドの横にあった椅子に座り口を開いたと思ったらこれ。
心配してきてくれたのかと思ったのに。

「仕方ないじゃん揺れ苦手なんだもん。ラクサスだって乗り物乗ったらすぐ吐くじゃんか」
「吐かねぇよちょっと気分悪くなるだけだ」

ほらよ、と言ってラクサスはわたしがいつも乗り物に酔った時に渡してくれていた薬の入った小瓶をポケットから取り出す。

「これ…わざわざ届けにきてくれたの?」
「別にそんなんじゃねぇよ、何つーかお前の面倒はガキん頃から見てたから癖になってるみてーだ」

照れ臭そうに視線を逸らし横を向くラクサス。
そんなラクサスにくすっと笑い小瓶を受け取る。

「ありがとう、おにーちゃん」

「だからその"おにーちゃん"って呼ぶのやめろって言ってんだろうが」

「だってラクサスはわたしのおにーちゃんだもん、わたしがギルドに来てからなかなか馴染めなくて1人だった時面倒見てくれて凄く嬉しかったの…っ」

…そう、わたしは両親が闇ギルドに連れていかれて1人残された身だった。
当時10歳だったわたしは行くあてもなく彷徨っていたらこのギルドへ辿り着いたの。
ギルドの前で入ろうか入らないか迷っていたらマスターに背中を押されて入ったのがきっかけ。
でも大人ばかりで全然馴染めなくてギルドの端っこのテーブルでいつも1人で過ごしていた。
そんな時ラクサスが声をかけてくれたの。
無愛想だし無口だし最初は怖かったけど1人じゃない安心感から少しずつラクサスに懐いていった。

徐々にギルドにも馴染めてエルザやミラさん、ナツ、グレイ、カナとも仲良くなれた。
最初は怖くて話しかけられなかったみんなだけど今じゃすごく大好き。

ラクサスはわたしを妹のように育ててくれた。仕事にも連れて行ってくれたりわたしが15歳になるまでラクサスの部屋に住ませてもらって一緒に生活もしていた。
だからラクサスはわたしの兄のような存在だ。

「もうあれから結構経っちゃったね、お互い大人だよ!…わたし、ラクサスが破門になったとき本当に悲しかった。わたしもラクサスについて行こうと思ったの。でもね、マスターに"今はまだ破門中じゃ。時が過ぎるのを待て"って言われてずっと待ってたの」

「…寂しい思い、させちまったな」

「わたし絶対戻って来てくれるって信じてた。でもまさか天狼島で再開できるなんて思ってなかったから本当にびっくりしたよ!」

天狼島での出来事を2人は懐かしい、と思い出に浸りながら話す。

「…そういや明日仕事に出るから支度しとけ」
「え、ちょ、急じゃない!?マスターにも言わないとだし!」
「じじいには俺からもう言ってある、詳しいことは明日話すから遅れんじゃねぇぞ」

そう言って立ち上がるとそのまま医務室から出ようとするラクサスにゆうは大きな声で、

「今日ラクサスの家行くから!そしたら遅刻しなくて済むよね!じゃあ後でね!」

と言ったらラクサスのふっと笑うのがわかった。

懐かしいな、ラクサスと一緒に過ごすの何年ぶりだろう。
後でラクサスの好物でも買って行ってあげようかなっ。

なんて考えながら薬の入った小瓶を見てふふっと笑いまたベッドに潜る。

わたししか知らないラクサスの一面が増えるたびにどんどん好きになっていく。
これからもわたしの兄でいてね。