ギルドマスターゲーム / 剣咬の虎

「なぁみんな!ナツさんたちが面白そうなゲーム教えてくれたんだ!」

ギルドに戻ってくるなりスティングがみんなを集める。
仕事先でたまたまナツたちに会ったらしく何やら面白そうなゲームを教えてもらったとのことなんだけど…一体どんなゲームなんだろう。

でもナツたちのことだからなんか嫌な予感がするんだよなぁ〜。

他のみんなも嫌な予感を感じたのか急用や仕事などでギルドから出て言ってしまった。

「ねえ、残ったのわたしたちだけなんだけどこんな少数人でもできるわけ?そのゲームって」
「人数少ない方楽しいってエルザさんは言ってたぜ!」

今ギルドに残っているのはわたし、スティング、ローグ、ルーファス、レクター、フロッシュのみだ。

ルーファスに至っては読書をしていて我関せずという感じでこちらに目さえ向けないし聞こえていないふりをしている。

「そのゲームの説明をとりあえずしてみて?それによってやるかやらないか決める」
「俺はしない、これからフロッシュと散歩に行くんだ」
「そんなこと言わないでみんなでやろうぜ?な?フロッシュだってやりたいだろ?」
「フローもそーもうっ」

フロッシュに聞いたって返答は絶対それってわかってたくせに…!わかって聞いただろこいつ!

「まぁまぁ皆さん、スティングくんに付き合ってわいわいしましょう!」
「そうだよなレクター!」

何でレクターもそんなにノリノリなの!?状況わかってる!?
どんなゲームかすらわかってないのにレクターってばほんとスティングのことが大好きなんだなぁ…。

「確かギルドマスターゲームっていってナツさんに聞いた話だとこのゲームは、参加人数分の棒を用意してそのうち一本だけ何でもいいからマークを書くらしい。そんで他の棒には数字を描くんだってさ。それを合図と同時にみんなで引いて、マークが書いてある棒を引いた人が他の数字の書いた棒を引いた人に命令ができる。例えば1番が歌え、みたいな感じで」

「え…やっぱり嫌な予感的中だよ…何その危ないゲーム」
「ふん、俺はそんなゲーム御免だな」

「まぁまぁとりあえず作ったから試しにやってみようぜ!ギルドマスターだーれだ!」

そう言ってわたしたちに棒を引かせるスティング。
もちろんルーファスは見ているだけ。

「お!一番手のマスターは俺か!…じゃぁ2番、服を脱げ」
「…っ!!」
ゆうの表情が強張る。
服を脱げ、という言葉はこのギルドが変わる前の時のマスターが弱いものへの侮辱をみんなの前で晒し者にしていてわたしはそれがトラウマになっている。

恐る恐る自分の引いた棒を見る、幸いゆうが引いたのは1番だった。

「フロー脱ぐの…?」
ふるふると震えながらフロッシュが言う。

「スティングお前…!フロッシュを裸にするつもりか!」
「けどこのゲーム、マスターの言うことは絶対だぜ?」
「大丈夫だよローグ、フロー脱ぐから」

そう言ってフロッシュは着ているカエルの着ぐるみを脱いだ。

「くっ…すまないフロッシュ…すぐに着せてやるからな」
「スティングくんもいきなりハードな命令ですね」

「とりあえず次!次いくぞ!ギルドマスターだーれだ!」

ばっと引いてわたしは自分の棒を確認する。

「やったー!わたし!!わたしがマスター!!」
ゆうの引いた棒にはマークが書いてありぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ。

「チッ今度はお前かよ」
「んふふ、そんじゃ命令いっきまぁす!2番がマスターの肩をマッサージする!」

さてさて2番誰かな?とうきうきしながら見ていると、
「…俺だ」
ローグが前に出てきた。
ふふっローグに肩を揉んでもらうなんて普段絶対に出来ないことだからね。
そういう時のためにこのゲーム使えるじゃん!

「はい、じゃあローグよろしくね」

ローグはわたしの後ろへ来てマッサージを始める。
程よい力加減でとても気持ちいい。
ローグにまさかこんな才能があったなんて知らなかったな〜。

「これでいいだろ終わりだ」

3分ほどマッサージをしたところでローグはやめて離れる。
あ〜気持ちよかったのにな〜もっとしてほしかった。
なんて本人には言えないけどっ。

「それじゃあ次いくぞ!ギルドマスターだーれだ!」

「フローがマスターだよー」
「よし、よくなったぞフロッシュ」

自分がマスターではないのにフロッシュがマスターなのをとても喜ぶローグ。
これが親心というやつなのだろうか…?

「それで命令ってなんだ?」
「んーとねー、スティングとゆうがぎゅーし合うのー」

なぜ名指し!?フロッシュこのゲーム分かってないよね?!てかなんでスティングと抱き合わなきゃいけないの!?

「ふ、フロッシュ??このゲームは番号で命令しなきゃであって名指しはだめなんだよ??」
「…うっ、フロー悪い子…?…ごめんなさい…」

わたしが優しく言ったつもりだったのだがフロッシュは目をうるうるさせて俯いてしまった。
その瞬間ローグにキッと睨まれてしまう。

「しっ、仕方ねえな!フロッシュの命令だちゃんと従わねえと。ほらこっちにこいゆう」
「は、えっ、ちょっとわたしがスティングのとこに行かないとなの!?やだ恥ずかしいもん!」
「んな減るもんじゃねえだろ?それに、マスターの命令だぜ」

うっ、としスティングを見ると両手を広げて待っている。
恥ずかしさで上手くスティングの方は見れないがちょっとずつスティングへと歩み寄る。

ガバッ

「ひゃっ!?」

俯いて歩いていたら急に抱き締められて変な声を出してしまった。

「なななな何よ急に!そっちが来いって言ってたくせに!」
「お前が遅いからだろ?…ったく」

そう言ってスティングは優しくゆうを抱きしめる。

スティングの身体ってこんなにたくましくておっきかったんだ…、それにすごくあったかい。

スティングの温かさがあまりに心地よくてわたしはずっとくっついてしまっていた。
わたしだけでなくスティングもわたしを離さないで力を強めながら抱きしめる。

もうどれだけ抱きしめ合っただろうか、すっかりゲーム中だというのを忘れてしまっていた。

「ローグ、前見えないよー」

わたしはハッとしてフロッシュの方を見るとローグが両手でフロッシュの目を覆っていた。

「フロッシュお前にはまだ早い、もう少し大人になってからだ」
と頬を少し赤くしながらローグが言っている。
レクターも顔を真っ赤にさせながら目を手で覆っていた。

「おやおや、君たち2人は恋仲だったのかな?そう記憶しておくよ」

読書をしていたはずのルーファスが二階からこちらを見ていた。

「ちっ、違うから!これはゲームだから!ね、スティング!?」
「…離れるなよ」

ルーファスの反論してスティングから慌てて離れようとしたゆうだったがスティングが離すどころか力を入れてくる。

そしてスティングを見ると一点を見ているようだ。

その先を辿り、目を向けるとバチっとローグと視線が合った。
ローグとスティングは睨み合っている。

その状況が全く理解できず困惑するゆう。

「いい加減離したらどうなんだ?離れたがっているだろう」
「はぁ?んなわけねーだろ。こいつ心地よすぎて離れたくねーって顔してるぜ?」

今にも喧嘩が始まりそうな予感。
空気がピリピリとしている。

「い、いいから!喧嘩はだめ!ゲーム中でしょうが!続きやるよ!」

そう言ってわたしは、するっとスティングの腕の中から抜け出して棒をみんなに引くよう促す。

「ギルドマスターだーれだ!」

「俺!次のマスターは俺だ!」

スティングが嬉しそうにマークの付いた棒をみんなに見せる。

ローグはつまらなさそうな顔をする。

「じゃあ…3番はマスターにキスをしろ」

「!???!!!!!?」

あまりの命令に驚いて声も出ない。
慌てて自分の番号を見る、なんて事だ"3番"はわたしだ。

スティングはにやにやしながらわたしを見ている。
こいつ…わたしが3番だってわかっててこの命令出したな!?
嫌よわたしは!大事なファーストキスをこんなゲームで奪われるの!!

スティングはじりじりとこちらへ寄ってくる。
反射的に後退り逃げていたがテーブルにぶつかってしまいそのままスティングはゆうを押し倒した。

「ちょ、ちょっと待って!お願いこの命令だけはだめ!初めてなの!!」
「知ってる、だから俺がお前の初めてをもらうんだ」

そのまま顎を持ち上げられスティングはどんどん顔を近づけてくる。

「おいスティング!ついに欲に溺れたか!ゆうから離れろ!」

ローグがこちらに駆け寄る、そしてーー…

バタンッッ

床に落ちていた缶に躓きローグはスティングの方へと倒れていきそのままぶつかってしまった。

2人は床に倒れる。
わたしは慌てて起き上がり2人の方を見ると…

「ーー!!?」
「ーー!!!」

2人はぶつかって倒れた拍子にお互いの唇同士がくっついてしまったようで…。

ぷはっと離れたと思ったらお互い意気消沈。
これがこのゲームの終わりになるなんて思ってもみなかった。

レクターはびっくりして目を丸くしてたしフロッシュは目をキラキラさせていた。

「この光景、しっかりと記憶させてもらったよ」
そう言ってルーファスは帰って行った。

「じ、事故なんだし、ね?そんなに気を落とさないで??」

ずっと黙っている2人、これは相当ショックだったんだろうなお互い。

「…じゃあ、2人にちゅーして塗り替えてあげようか…?」

すると2人は勢いよく顔を上げてくる。

「お前…それまじで言ってんのか!?」
「よせ、女の子は自分を安売りするものでは…」
「ならローグはしなければいいだろ」
「そういう事ではなくてだな」

また揉め始めた2人にわたしは呆れて2人の頬にちゅっちゅっとキスをした。

「はい、これでいいでしょ?」

2人は唖然としている。

「え、口じゃねーの…?」
「一言も口にするなんて言ってませんから」

ふふっと笑ったらやられたと言わんばかりの顔をするスティング。
けどローグは頬を赤らめて少し照れているようだった。

「ナツたちもこのゲームしてるってことは…向こうはエルザたちもいるしきっともっともっと過激なんだろうね…」
「じゃあ俺たちも次はもっと過激に…」
「しないから!!」

妖精の尻尾はどんな感じなんだろうな〜なんて思いながらわたしたちはゲームの後片付けをしてまたギルドでくだらない話をして楽しい時間を過ごしたのでした。