とある放課後。
2人が揃って任務のない学生らしい放課後を過ごせるのはまさに数ヶ月ぶり。
その数ヶ月ぶりの放課後を2人を残してクラスメイトが帰ってしまった静かな教室でダラっと過ごす。
窓際に2人並んでグラウンドを眺めながらサッカー部の練習を遠い目で流し見をする。
サッカー部の練習の声が少し響いて教室まで聴こえてくる中、ゆうはそっと口を開いた。
「…ねぇねぇよねやん、わたしボーダー辞めようと思う」
「はぁ、お前それ何度目だよ。どうせまたいつもの突然くるボーダー辞めたい病だろ?」
「と、思うじゃん?」
ゆうの言葉に米屋はため息をこぼし頬杖をつく。
またか、といった表情をしてゆうを見る米屋。
いつもなら「お前が辞めたら寂しい」「じゃあまだ続ける」という会話で終わるのだが今日のゆうはいつもと違う雰囲気を感じさせていた。
「それどういう意味だよ?」
「実はさ〜、両親の転勤が決まったの。だからこの街を離れなきゃいけなくて。これだから両親が同じ会社勤めって大変だよね〜」
グラウンドを眺めながらあっけらかんとして話すゆうに米屋は動揺をした。
「…は?またいつものやつだよな?どうせ辞めないっつってなんだかんだで毎日を過ごすんだろ?」
体を起こしゆうの方に体を向け、左手はゆうの肩を掴み強引に自分と向かい合わせの態勢にした。
ゆうを掴む米屋の腕には力が込められている。
「……ん〜、そうだね。いつもみたいに"やっぱ辞めるのやめた"ってサラッと言えたら気持ち的に楽だったんだけどさ」
米屋の目を真っ直ぐ見るゆうからいつものようなおちゃらけた感じが全くない。
本当の話なんだろう。
「あいつはこのこと知ってんのか?」
「出水には今週中にって思ってる、それに幸いわたしはどこの隊にも所属してないしわたしが辞めても何も変わらないだろうから大丈夫」
「…何が大丈夫なんだよ、ちっとも大丈夫なんかじゃねぇ!残された俺らの気持ちはどうなんだよ!」
「それは…本当に申し訳ないと思ってる。わたしがこの街に来て2年、よねやんと出水が気にかけてくれてボーダー入隊の背中を押してくれた。すっごく感謝してる!…けど両親の転勤が決まった以上わたしはここには居られないし…」
「なら、本部でもどこかの支部でも住ませてくれるとこ探そうぜ!俺も手伝ってやっから!」
「わっっ!」
掴まれていた両肩をそのままバンっと勢いよく叩かれてそのまま腕を引かれ足速に教室を出る。
机の上に置かれていた自分のカバンとゆうのカバンを肩にかけ、ゆうの腕を引き教室を走る米屋の速度に必死について行くゆうはやや息が上がり気味。
「ち、ちょっと…っ、まっ、止まれよねやん…!」
「ほら靴!早く!」
下駄箱に着いたかと思いきやゆうの下駄箱から靴を出し履き替えるよう急かす。
当の本人はもうすでに履き替えて準備はできている。
ゆうは上がった息を少しでも整えようとゆっくりと呼吸を始める。
「ちょっとお前さ〜生身の時の運動能力低すぎねぇ?トリオン体に頼りすぎ」
「…ぁっ、はぁ…!なっ何言ってんの、ばかぁ…っ。これでも、クラスではっ女子の中で1番…はぁ、なんだから!」
「ほう?ならこのまま走るから転ぶんじゃねーぞ!」
ゆうが靴を履き替え下駄箱に内履きを仕舞ったのを確認した米屋はまたゆうの腕を引き走り始めた。
「ぎゃぁぁああ待って待ってよねやん待ってええ!かくなる上は…トリガー起動!」
ポケットのトリガーに触れ、起動させればゆうの体は瞬時にトリオン体と入れ替わる。
「おま!任務以外でトリガー使ってっとまーた上に呼び出されんぞ」
米屋の腕を振り解き、米屋と並走するゆう。
トリオン体のおかげで疲れもなく運動能力も上がっているため米屋に並走するくらい余裕だ。
「だってよねやんが止まってくんないからじゃん!…まぁボーダーのわたしも終わりって思えば最後に上のお説教もいい土産かな」
「そのお別れムードやめろっての、辞めさせねぇから。ってかそのために今本部に走ってんだろ!」
よく喋りながら走れるな!?ともはや関心通り越して引いているゆうを横目に米屋はニッと笑いながらゆうの腕を引く。
「ねぇ体力お化けすぎない?今時の男子校生怖いんだけど」
「お前が体力無さすぎんだよ、そーいやちょっと太ったよな?」
「あああああああああ!!!!わたしが最近気にしてることをサラッと!!!!夜の防衛任務のせいなんだから!!夜勤前に腹ごしらえして夜勤後にみんなでご飯行ってたらそりゃあ嫌でも肥えるよ!!」
市街地にぎゃーぎゃー響く