chapter:恋慕 「なあ、いいじゃん。今日、今からどっか行こうぜ?」 そう言って、僕の肩に手を乗せるのは、校則違反なのに金髪にしている同じ美術部の山本 恭一(やまもと きょういち)。 彼は、人が居ようが居まいが、何かにつけて僕につきまとってくる。 正直、毎度毎度で結構疲れる。 僕と山本 恭一とのやり取りが日常化してしまったおかげで、ここにいる同じ部である数人の男子は気にも止めず、ただ黙々と手を動かす。 誰も助けてくれないのは今にはじまったことじゃないじゃないか、如姫 心桜(きさき みおう)!! さっさとこの手を払いのけよう。 「あのね、いい加減にしてくれない? ここは美術室で絵を描くところ。でもって……」 「今は部活の時間。そうだろう?」 僕の言葉を遮って、彼は大きい口をニンマリと曲げる。 分かっているなら、僕の楽しみの邪魔をしないでほしい。 ひとつ、ため息をついて、僕はイーゼルに乗っているキャンバスと向き合う。 「な、いいじゃん。終わった後でもいいからさ。俺、欲求不満でさ……」 彼は、僕の耳元で囁くようにそう言って、美術部員が他にもいるのに構わず、空いている片方の手を伸ばし、太腿の内側を撫でてきた。 山本 恭一の手の感触が気持ち悪い。 吐き気さえ、おぼえる。 「やめっ!!」 『やめて!!』 僕が、そう言おうとした時だった。 |