キャンバスに映る貴方
第二話





chapter:恋慕





「ねぇ、先輩。明日で絵の締め切りですけど大丈夫なんですか? そうやって遊んでいるっていうことは、さぞや綺麗な絵が完成したんですね。拝見するの、楽しみにしています」


普段、滅多に笑わない彼が山本 恭一に顔を向けると、口角を上げてニッコリ笑った。

けれど、その顔は笑顔というよりも威嚇(いかく)に近い。

先輩に対してそういう言い方はどうなのだろう。


そうは思うものの、誰も彼の発言に対して文句を言わないのは、言った彼が恐ろしく凛々しくて、恐ろしく男前だからだ。

「ちっ」

さすがの山本 恭一も舌打ちをひとつすると僕から手を離し、自分のイーゼルと向き合った。




……助かった。



人知れず、こっそり息をつき、僕は助け舟を出してくれた後輩に感謝を込めて笑み返した。

けれど、彼はすぐに僕から視線を外した。

何事もなかったかのように、ふたたびキャンバスと向き合う。


逸(そ)らされる視線に、ツキリと胸が痛む。



――そう、僕は後輩の彼、藤堂 涼(とうどう りょう)が好きなんだ。


黒水晶にも似た揺るぎない真っ直ぐな瞳はいったい何が映っているのだろう。


真剣に絵を描く彼の姿に、いつの間にか興味を抱き、いつの間にか、僕の目は彼を追っていた。


そして、いつも絡まれて困っている僕を、静かに助けてくれる彼を想っていた。


同性にこんな感情を抱くのは世間一般的な考え方ではおかしいんだと思う。


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