chapter:恋慕 彼が着ると、礼服のように見えるから不思議だ。 「……んぱい」 はあ、どうしたら彼に近づけるんだろう。 どうやったら、目を逸らされずにすむ? 「先輩!」 ――え? 「わああっ!!」 上から僕を呼ぶ声がして、顔を上げると、そこには今まさに考えていた人物の凛々しい顔があった。 思わず椅子から飛び上がってしまう。 頬が熱くなる。 どうしよう、胸がドキドキする。 「先輩?」 「あ、なっ何?」 胸の鼓動を必死に抑えながら、コクンと喉を鳴らす僕は、当然、平常心を保つことができない。 「どうしたの?」 震える声でなんとか尋ねると、彼は眉根を寄せて絵を描く時のように真剣な表情で僕を見返してくる。 黒水晶の瞳に慌てている僕の顔が映る。 「十八時を過ぎました。部活、終わりましたよ?」 「え?」 ……終わった? 真っ白になる頭をなんとか起動させ、藤堂くんから、無理矢理視線を引き剥がし、黒板の上部に立て掛けられている白い時計を見た。 ――ああ、ほんとうだ。 もうこんな時間……。 あれからずっと、藤堂くんのことばかり考えていた……。 キャンバスに視線を映すと、明日提出予定の絵は未だ完成もせず、ただ黄色く塗りつぶされているだけだ。 周りを見て、部員たちの様子を確認すると、活動する時間はとっくの昔に過ぎているから誰もいるはずもなく、教室内はもぬけの殻と化していた。 |